魔王になったけど、夫(国王)と義弟(騎士団長)が倒せない!

炭田おと

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13_魔王オディウム

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 魔王城は、すべて灰色の石材で形作られていた。その内部は石櫃せきひつのように冷気を閉じ込め、壁も床も柱も凍えている。


 オレウム城の色に溢れた華美な内装に比べ、魔王城の内装は色も飾り気もなく、穴倉のように暗い。


「・・・・・・・・」

 私は怖々と、中に踏み込んだ。私の後から城に入ってきたムニンが、私の肩に留まる。



「よく来たな」


 通路の奥から誰かの声が聞こえて、私は跳び上がりそうなほど驚いた。



「だ、誰!?」


 思わず悲鳴のような声を出すと、奥の闇から、人影が分離する。


『落ち着いてください。彼は、出迎えの者です』


 現れたのは、少年の姿をした魔物だった。ブランデの繁華街にいる不良少年のような顔立ちだけれど、一つだけ、彼には異質な点があった。


 側頭部に、貝殻を思わせるような巨大な角がついていたのだ。


「驚かせた? 悪かった、そんなに驚くとは思わなかったんだ」


 距離が近づくと、彼は気取らない態度で笑いかけてきた。


「俺は案内係だ。あんたに危害を加えるつもりはないから、安心してくれ」

「・・・・・・・・」

「ついてこい。――――あんたを、ボスのところに案内する」


 そういって、少年は奥の暗がりへ消えていった。

 怖々と少年の後を追いかけ、暗闇の中に身を投じる。ほとんど何も見えない場所を、恐怖を抱えながらも、私は歩き続けた。


 ムニンはいつの間にか、私の肩から飛び立ち、消えていた。



「ねえ、あなた――――」

「俺はリュシアンだ。オディウム様の下で働いている」


 魔王の手下――――にしては、やけに表情も口調も溌溂としている。

 側頭部の角を除けば、彼の姿は普通の少年そのものだし、口調も相まって、まるで下町にいる不良少年と話しているような気分になった。



 途中、広場のような場所を横切った。


 ここに至るまで、岩壁はならされている点以外はほぼ無加工だったけれど、その広場の円柱の柱頭ちゅうとうには、花や鳥、蔦などの装飾が施されていた。この暗さでは、染色しても色が映えないから、それらの装飾は、色がない空間の精一杯の彩りに見える。


「・・・・!」

 柱の陰に魔物達の輪郭を見つけ、私は息を呑んだ。


 トカゲのような頭部を持つ者や、身体の表面が鱗で覆われている者、手足が異様に長く、爪が尖っている者――――彼らは一目で、異形だとわかる姿をしていた。


 彼らに共通しているのは、異形だとわかる特徴を持ちながらも、輪郭自体は人と同じという点だった。


 魔物の中には、犬猫のような四足歩行や、手足の本数が多いもの、そもそも骨や皮膚がない液体状の魔物までいるのに、ここに集った魔物達は、人間の体格からそれほどかけ離れてはいない。


「あいつらのことなら、大丈夫だよ」


 私が彼らのほうを見ていたから、不安を感じていると思ったのだろうか、リュシアンがそう言った。


「あんたは客人だ。あいつらが襲ってくることはない」

「彼らも、魔王に忠誠を誓っている兵士なの?」

「忠誠を誓うというか――――ボスと目的が一緒だから、目的を果たすために、一緒に戦ってるんだ」

「目的・・・・」


 カーヌスを滅ぼし、この地の覇者になるという目的だろうか。


 広間を抜け、歩き続けていると、やがてトンネルの出口が見えてきた。



 そこは開けた、明るい場所だった。


 明るい、と言っても、水底に沈んだこの場所に降り注いでくれる光は、ごくわずかだ。玉座の真上に、円形の穴が開いていたけれど、そこから零れる光の雫すら、弱々しい。


 だけど水面を通して濾過された光は、細々としていながら、宝石のように美しかった。



「・・・・来たか」


 その場所に、誰かが座っていた。


「――――よく来た、ルーナティア・リーベラ」


 客人を出迎えているとは思えない、気怠い態度で、彼はそう言った。


「・・・・あなたがオディウムなの?」


 勇気を出して、私は前に踏み出し、問いかける。


「いかにも」



 ――――黄金色の髪、青い目。外套で首から下が隠れているため、顔しか見えないけれど、普通の人間に視える。



(あの人がオディウム? ・・・・本当にオディウムなの・・・・?)


 オディウムはトカゲに似た姿をしていて、体高は三メートル以上もある、と聞いていた。


 なのに玉座に座っている男は、体高三メートルどころか、真っ直ぐ立っても、おそらく身長は二メートルにも及ばない。確かに長身だと言えるけれど、異様というほどでもなかった。


 たとえトカゲに似た姿というのが、実際に魔王を見たことがない人間の捏造なのだとしても、魔王というのは、もっと禍々しい姿をしていると思っていた。――――なのにその姿は、平凡そのものだ。



「それじゃ、俺はこれで」


 案内を終えると、リュシアンはすっと身を翻し、広間から出て行った。


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