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11_知らぬ間に脱走ほう助罪
しおりを挟む「・・・・そういえば、妃殿下はどうやって、寝室を抜け出したんだ? 確か国王の寝室は三階にあるし、出入り口には侍衛が立っていたはずだろう?」
歩きながら、エドアルドに訊ねる。
「それがな・・・・城を抜け出したのが王妃じゃなきゃ、大笑いしてたところなんだが」
エドアルドは笑いを堪えながら、頭上を指差す。
「シーツをロープ代わりにして、窓から庭に降りたんだそうだ。俺達の王妃様は、型破りって言葉がぴったり合う人だな」
「寝室の――――窓から!?」
思わず、声が裏返る。エドアルドの目が丸くなった。
「おい、どうしたんだ?」
ちょうど現場に到着したので、俺は国王の寝室の窓を見上げる。
暗闇の中で見上げた景色と、朝の陽ざしの中で見上げる景色はまるで違って見えるから、断言はできないが、国王の結婚式という特別な日に、窓から脱出する女性が、同時に二人も存在するとは思えなかった。
「まさかあの時俺が脱走を手伝った人が、ルーナティア妃殿下だったのか?」
「脱走を手伝った・・・・? おい、どういうことだ?」
流れるように自白してしまい、エドアルドに詰め寄られる。
「いや、実はな――――」
どうせエドアルドには隠し通せないだろうと観念して、俺は素直に、昨晩起こった出来事を白状することにした。
「お前は――――」
話を聞き終えたエドアルドは、怒りで肩を震わせる。
「どこまで阿呆なんだ!? 王妃の脱走を手伝う騎士団長なんて、世界広しと言えどもお前だけだぞ! ベールを被ってたから王妃の顔はわからなくても、あの部屋が国王の寝室だってことぐらい、騎士ならわかるだろ!」
エドアルドは、国王の寝室の窓を指差す。
「国王で、お前の兄でもある人の寝室だぞ!」
「・・・・ああ、そうだった。俺の兄貴の寝室だったわ」
「だから今頃気づくな! 遅いぞ、ボケ!」
エドアルドに胸倉をつかまれて、がくがくと揺さぶられた。
「ま、待て! 落ちつけ! 今は、あの女性を――――ルーナティア妃殿下の行方を捜すことが最優先だ!」
そうとりなすことで、エドアルドを落ち着かせることができた。
「まったく・・・・捜していた脱走の協力者が、まさか目の前にいたとはな・・・・」
溜息で怒りをまぎらわせると、エドアルドはあらためて、俺を睨みつける。
「その日見たことを、仔細聞かせろ。妃殿下を見つける手がかりになるかもしれない。妃殿下はどんな格好をしていた?」
「白いドレスを着ていた。・・・・今思えばあのドレスは、ウェディングドレスから、余計な装飾品を剥ぎとったものだったんだな」
思えば、ドレスの裾がボロボロだった。暗がりで見たから、そういうデザインなのだろうとしか思わなかったが、昼間の太陽の下で見ていたら、さすがに違和感を覚えただろう。
そこで俺は、記憶の中からさらなる手がかりを見つけ出す。
「ああ、そうだ、そう言えばあの時、妃殿下はパンとチーズが入った籠を背負っていたな」
俺にとっては大発見だったのに、エドアルドは喜ぶどころか、また不満そうに溜息を吐き出す。
「・・・・なんだよ、その顔は」
「・・・・お前なあ。真夜中に窓から、ぼろぼろのドレスをまとった女性が、食料が入った籠を背負い、シーツを伝って下りてきたのに、なぜその異様な状況をすんなりと受け入れたんだ!?」
怒りで、エドアルドの声はどんどん大きくなっていく。俺は肩から怒気を放つエドアルドを前にして、ろくな言い訳も思い付かず、視線を外すことしかできなかった。
「ま、まあ、箇条書きみたいに不審な点だけ上げていくと、かなり異常な状況に思えてくるが・・・・」
「思えてくる、じゃなく、不審な点しかないだろ! こんな異常なイベントに遭遇して、それら全部を流した上に、頼まれたからって協力する変人なんて、この世にお前しかいないぞ!」
俺はまた、エドアルドに胸ぐらをつかまれる。
「いいか、もう一度冷静に、その時の状況を考えてみろ。真夜中に、ぼろぼろのドレスを着て食料が入った籠を背負った女性が、窓から降りてきたんだぞ? 推理小説だったら、そんな状況になる可能性は二つだ。殺されそうになった被害者か、誰かを殺そうとしている加害者だ」
「はは、エドアルド、お前、推理小説読みすぎだぞ」
「お前にだけは言われたくない!」
また、エドアルドは深く息を吐き出す。
「パンは保存が利くから、一日か二日、チーズなら一週間持つ」
「だが量は少ない。朝と昼に食べれば、なくなるだろう」
「だな。妃殿下の目的地は、半日で行ける場所と考えるべきか?」
エドアルドに問われ、俺は考え込む。
「妃殿下の服装は目立つ。目的地が近場なら、誰かが妃殿下を目撃しているはずだ。・・・・だが、目撃情報が出てこない」
「夜のうちにブランデを出たのかもしれない。だが徒歩では、それほど遠くには行けないはずだ」
「お前が遠くに行きたいときは、どうする?」
エドアルドに問いかけると、彼は目を見開いた。
「――――妃殿下は、馬を調達したのか」
徒歩の移動では、移動距離に限界がある。彼女には、移動手段が必要だったはずだ。
「調べさせよう」
すぐにエドアルドは動き出した。
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