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54_声の主を捜せ_前半_耀茜視点
しおりを挟む隊士達を招集し、すぐさま、女性の捜索がはじまった。
「悲鳴が聞こえる距離だ。この付近にいるはず。だが、声が聞こえたのは一瞬で、方向もはっきりしない。付近を片端から、徹底的に調べろ」
「はい!」
隊士達は勢いよく動き出した。
隊士達の動きを見るために、屋根に飛び乗って、通りを見下ろす。
路地の中に入っていく隊士達の後ろ姿が、よく見えた。
「おい、そっちにいたか!?」
「いや、こっちにはいない!」
しばらくして何人かの隊士が戻ってきた。報告を聞くため、俺はいったん、道に降りる。
「見つかったか?」
「いえ、この付近にはいませんね。聞き込みをしましたが、追われている女性を見た人間はいませんでした」
「・・・・おかしいな」
女性は、俺達が声を拾える距離にいたはずだ。それに加えて、入り組んでいるとはいえ、どの道にも、隠れられるような場所はない。
「まさか、暴漢に捕まって、どこかの家に連れこまれたのか?」
「それじゃ、一軒一軒調べなきゃならない。とても見つけられないぞ!」
「ある程度、捜索範囲を絞る必要があるが・・・・何の情報もないんじゃ、絞ることができないからな・・・・」
「・・・・・・・・」
隊士達の会話を聞きながら、夜堵は奥歯を噛みしめている。
「どうします? 頭首」
俺は考える。
「・・・・襲われている人間は、まずどこに駆けこもうとする?」
「は? えーと・・・・近くの民家に助けを求めるんじゃないですか?」
「誰もが手を差し伸べてくれるとは限らない。事件に巻き込まれることを恐れて、戸を開けない家もあるはずだ。助けを求めるのなら、もっと大きな力を頼る必要がある」
「ということは――――刑門部か!」
翔肇達の目は、刑門部がある方向に向かっていた。
「確かにこの場所なら、鬼峻隊の屯所よりも、刑門部のほうが近い!」
「てめえら! 刑門部の方向を調べやがれ!」
「わかりやした!」
捜索範囲がある程度絞られると、隊士達は水を得た魚のように、勢いよく動き出す。
「付近の家も、徹底的に調べろよ! 扉を壊して、押し入って、中まで調べるんだぞ!」
「え、いや、それは駄目だから! 扉を壊すのも、押し入るのも取り消し!」
勢いに乗って、考えなしに発された明獅の命令を、翔肇が慌てて取り消している声が聞こえた。
「頭首! こっちに来てください!」
刑門部の周辺を捜索していると、隊士が俺を呼ぶ声が聞こえた。
「ここに血痕を見つけました!」
路地の真ん中で、隊士達が膝をつき、地面を見つめている。
片膝をついて覗き込むと、少量の血痕が認められた。誰が怪我をしたにせよ、この血の量なら、深い傷じゃない。
「血痕から、痕跡をたどれそうか?」
「いえ、途中で途切れています」
血痕は点々と続いていたが、途中で途切れていた。
「この付近で、何かがあったことは間違いなさそうだ」
道の両端は長屋で、住民がいるはずなのに、この騒ぎを聞いても、顔を出す気配すらない。面倒事に巻き込まれることを恐れて、家の中で、じっと息を潜めているのだろう。
「誰かが、悲鳴を聞いているかもしれない。聞き込みを続けろ」
「あいよ。すみませーん!」
明獅の頭の辞書には、細やかさ、気遣いといった言葉が記載されていない。だから深夜だというのに構わずに、さっそく大きな声で、近くの民家の戸を叩いていた。
「・・・・なんでしょう?」
そろそろと戸が開いて、四十代ぐらいの女性が顔を出す。
その顔にははっきりと、警戒の文字が浮き出ていた。
「あそこに血が落ちてるんだけどさ、なにか聞いてない? 悲鳴とか、聞こえなかった?」
「いえ、私達は何も聞いていません。それでは」
ぴしゃりと、音が鳴るほど勢いよく、戸が閉じられる。
その後も隊士達は民家の戸を叩いたが、拒絶しか感じられないやり取りが続いた。
「なんだよー、みんな非協力的だなー」
「このあたりは貧しい人達が多くて、反社会組織のほうが影響力を持っていたりするからな。三船衆みたいなあくどい組織が、取り仕切ってるんだよ」
「だったら、あの人達も悪者か?」
「そういう問題じゃない。他に頼れるものがなくて、従ってるだけだろう」
明獅と翔肇の会話を聞きながら、付近を歩きまわる。
なぜか頭には、御嶌の顔が浮かんでいた。
白粉箱の調査を任せたが、御嶌は屯所には戻ってこなかった。そのまま御政堂に戻ったのだろうと考えていたが、なぜか胸が騒ぐ。
「すみませーん! 話が聞きたいんですが」
「おい、お前達、そこでなにをしてる!?」
隊士が戸を叩いたところで、鋭い声が飛んできた。
「げっ、刑門部の奴らが来やがった!」
刑門部省の軍服を来た男達が、ぞろぞろと集まってくる。
「ここは刑門部省の管轄だぞ! どうして鬼峻隊がいる!?」
(・・・・厄介なことになった)
鬼峻隊の隊士と、刑門部の武官は、まるで磁石のように反発し合う。火と油のような両者が出くわせば、結果は見えていた。
「んだよ、ちょっと事件の調査中なんだよ、てめえらはあっちに行ってろ」
「だったらその件はこちらが引きつぐ。お前達は自分の管轄に戻れ!」
「なんだと!? だいたい、てめえらがしっかりしてねえから・・・・」
やはり、子供でもしないような喧嘩がはじまった。俺と翔肇は慣れているが、不慣れな夜堵はうんざりした顔を見せている。
「お前達じゃ話にならない! 頭首を出せ!」
「ああ!? 頭首に会いたいなら、まずそっちの代表が顔を出せ・・・・」
「お前達は下がっていろ」
武官に食ってかかろうとした隊士を後ろに下がらせて、俺は前に出る。
「諒影と話がしたい」
「刑門部卿は出払っています。ここは封鎖するので、鬼久頭代はすぐに、隊士達をこの地域の外に出してください」
「封鎖? どういうことだ?」
「それは、部外者には話せません」
「なんだと!?」
下がらされたのに、それでも前に出ようとする隊士を、翔肇が押さえつける。
「我々は、助けを求める女性の悲鳴を聞いて、ここに駆け付けた。刑門部が封鎖の理由を言わないのなら、こちらも引き下がるわけにはいかない」
「・・・・・・・・」
武官達は黙り込み、何やらひそひそと話し合っていた。
「・・・・数日前から見張っていた三船衆が動いたという知らせが、さっき届きました。それに、彼らが女性を攫ったという情報も得たので、逃がさないよう、付近を封鎖することになったんです。おそらく鬼久頭代達が聞いたという声は、その誘拐された女性の声でしょう。女性の救出は、こちらが引き継ぎますので、鬼峻隊は管轄内に戻ってください」
「・・・・・・・・」
捜索を続けたいという気持ちはあったが、刑門部を納得させるだけの理由が、こちらにはない。ここは、引き下がるしかなかった。
「・・・・屯所に戻るぞ」
隊士達も渋々ながら、俺を追いかけてくる。
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