天色の花のさだめ

龍神きくおみ

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48.【中毒症状】

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【中毒症状】



意識が浮上しだすと、身体が重だるい事に気づく。

まだ頭がまわらずにぼんやりとする中、ゆっくりと瞼を開けた。


(あれ…?僕…いつの間に寝てたんだろう?)


「ネモ?大丈夫か?」


隣から心配そうにカランが覗き込んできた。


「…ん…カラ……」


声が枯れているようで、上手く言葉が出ない。


「すまない。やはり無理をさせてしまったな。飲み物を取ってこよう。」


そう言ってカランが寝室から出て行ってしまった。
その姿をボーッと見届ける。

すぐに僕も起きあがろうと怠い身体を起こすと、腹部に力を入れたためか、途端に秘部から生温かい液体がごぷりと漏れ出し、その感覚に一瞬で覚醒してしまった。


(!?う、うそ…やっぱり、さっきのって…夢じゃないってこと??)


カランに拭われたのか、身体のベタベタ感はないものの、下腹部の重みや全身の気だるさ、秘部からこぼれ落ちていく液体の感覚が、現実なのだと思い知らされる。

ショック過ぎて呆然としていたら、カランが飲み物を片手に戻ってきた。


「飲めそうか?」


お礼を言いつつ差し出されたコップを手に取り、中身を一気に飲み干した。
だいぶ喉が渇いていたようで、身体に染み渡っていくのが分かる。


「…しかし、まさかネモから誘ってくれるとはな。しかも何度も私を求めてくれるとは…。加減したつもりだが、嬉し過ぎて舞い上がってしまったようだ。」


心底嬉しそうにはにかみ、頬を赤らめながらカランが言った言葉に驚きを隠せない。


「え…?僕がカランを…誘った?」


僕を見るカランの目が驚いたように見開かれる。


「まさか…覚えていないのか?寝室に移動してすぐ、身体が疼くと…愛して欲しいと、私を誘ってきたではないか?」


焦ったようにカランが話すとんでもない内容に、僕はサーッと血の気が引く。

だって、ティータイムの途中から記憶がまったくないのだ。

あの最初の…完全に夢だと思っていたところでは、すでにカランと行為に及んでいた。
だとすると、きっとその前に僕がカランを誘った事になる。



……何も思い出せない。



「ご、ごめん…。」


咄嗟にカランに謝ってしまった。
ちらりとカランを見ると、苦しそうな悲しそうな表情で僕を見つめていて、胸がズキンと痛くなった。
カランは、まるで自身を落ち着かせるように目を閉じ、ひと息ついた。


「…謝らないでくれ。私は…嬉しかったのだから…。逆に私が詫びねばなるまい。すまなかったな、ネモ。」


重い空気が漂い、距離を取ろうとするカランに焦ってしまい、口が先に動いてしまった。


「い、いや!僕が悪いんだ!その、さっきのティータイムの途中から記憶がなくて。気づいたらカランとしてて。僕に付き合ってくれたって事…だよな?だから、ごめん。僕、気持ち良すぎて…さ。でもカランはその、ちゃんと…気持ち良かったのかなって。僕、なんか最近おかしいよな?抱かれたくてしょうがなくて…。昨日もカランとラウルとしたばっかなのに、今日もカランに強請ってたなんて。」


テンパリ過ぎて、早口でとりとめもなく心情を話してしまう自分に、心底げんなりしてしまう。
記憶がないにしても、カランに自分の欲求を満たして欲しいと頼んだのは紛れもない自分なのだ。
それに付き合わされた挙句、そんなこと頼んでないし覚えていないと言われたら、誰だって傷つくだろう。


「…嫌では、ないのか?ショックを受けていたようだが…。」

「それは、その。…記憶がないのが信じられなくて。それに僕…タルタロスに来る前は…ベナーデンに最初襲われるまでは、こんなに性欲は強くなかったから、自分でも驚いて、戸惑ってて…。」


僕の顔をじっと見つめながら、静かに話を聞いてくれるカラン。


「ふむ。本当に記憶が飛んでいるのだな?ティータイムの途中から、か。しかし、いつも通りのネモだったように思うのだが…。まあ、寝室で誘ってきたネモは…確かに…その、凄かったな。」


カランは思い出したように頬を赤らめている。
僕は一体どんな風に誘ってしまったのか…。


「性欲の方は…。そうだ!使われたという触手はどんなものだったか思い出せるか?」

「触手?えっと…確か赤っぽくて…テカテカ濡れてて。指2、3本ほどの太さで。タルタロスで研究していたK2の葉にあるような、丸い突起物が全体にあって…。」

「赤い触手で全体に突起物か…。中に入れられた時、触手の先端がまるで人に舐められているような動きをしていたか?すぐに頭の中がボーッとしてきたとかは?それを相手は素手で掴めていたか?」

「そう、そうだった!確か…体液が一般的な媚薬にも使われてるって医務官が言ってたような。」


カランは合点がいったのか、大きく頷いた。


「……なるほどな。分かった。ベーンケイル内で品種改良されたType.L3だ。本来そういう用途で使用する触手は、素手で触れてはいけないのが常識なのだが、L3は皮膚からの吸収ができないように改良してある。そして、対象者にとってはとても強い催淫効果を。主に…性奴隷や男娼用に取引されている。」


「え…?」


「かなりの…その、セックス依存症を作り出す為に使われるから、一般用かと言われたら違うな。確かそれを医務官と…ベナーデンに使われたんだったな?ということは短期間で2回か…。ならば、したい欲求が限界突破したら記憶がなくなる可能性もなくはない…か。」


「セックス…依存症…?」


「ああ。原液は強すぎるから、触手の体液を薄めたものを相手に飲ませるんだ。無理矢理する相手がセックスに溺れていく様を楽しむ…他星のそういう好事家の間で人気らしくてな。だが、触手本体を直接粘膜へ触れさせる行為は…吸収率も良いし、短時間とはいえ1度の使用だけで廃人になりかねない。だから、そういう生業をする者以外は普通使うことはないのだ。」


僕はとんでもないモノを使用されたということになる。
医務官もそうだが、ベナーデンはそれを承知で2回目を使ったのだ。
薄めた体液でも十分効果が望めたというのに、触手本体を…


医務官はカランの弱みが続くことを。
そして、ベナーデンは僕をベーンケイルへ連れ帰る事が目的だったのだろう。
僕がセックス依存症になってしまえば、カランやベナーデン達を自ら誘うようになるだろうと踏んで。


「…僕は…これからどうなって…。」


消え入りそうな僕の声を聞いて、カランが優しく抱きしめてくれる。


「すまない、ネモ…。だが、永久ではない。人それぞれだが、もちろん今後使用しなければ徐々に効能は抜けていく。だが、2回使用されたということは、半年間ほどは…その状態かもしれない。」


半年間…。


数日、数週間の話ではない。
長い期間、僕は自分がしたくなったら、意識なくオスを誘ってしまうのか。

これが今はカランしかいない空間だから良いものの、他のオス達がいる状態でやらかす事態になったらと思うと…考えただけで身体がブルリと震えてしまう。


僕はどこまで堕ちてしまうのだろう…


気づいた時には僕は両手で顔を覆っており、いい知れぬ不安と恐怖に涙と嗚咽がとまらない。

肩を震わせて泣いている僕の背中を、優しくさするカランの温かい手が、じんわりと胸に沁みた。




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