天色の花のさだめ

龍神きくおみ

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22.【7日目 -3-】

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【7日目 -3-】



食堂にいたところをカランに連れ出され、2人きりでカフェの個室へ入る。
周りからジロジロと遠巻きに見る視線を感じたが、彼らは本当に僕らがパートナーになったのだと認識したに違いない。


…これが裏目に出なければ良いのだが…。


カランに顔色が悪いと心配されたので、先ほど出た懸念事項を共有した。後は、キーダの事は伏せながら、シトリン第2小隊の隊長と副隊長も、仲間を襲おうとしたと話した。

「…そうか。まさかそんな事を思う奴が出るかもしれないとは…。いや、現にもう被害者が出てしまっているのだ。こんな事になろうとは…。私が不甲斐無いばかりに、申し訳ない。」


ガバッと頭を下げられて居た堪れなくなる。
正義感が強く優しいが故に、そんな事態になるかもしれないとは、夢にも思わなかったのだろう。


「い、いえ!カラン様に…、そして、アダンやセイロンさんにも良くして頂いてます!良い解決策は、まだこれと言って出ていませんが。なるべく仲間同士でまとまって行動するしか、今はないのかなと…。」

「ふむ…。いっそのこと、サファイア第9小隊に全て配属を変更してしまおうか。みな医療関係で知識もある。研究員達の補助にまわって貰えば問題なかろう。」

「大丈夫なのですか?そこだけ人員が欠けてしまいますし…逆恨みされたり…なんてことは?」

「この件は私を含め、セカンドやサードとも話し合ってみよう。必ず、君たちを守ってみせる。」

僕の手を両手で握りしめ、真剣な眼差しでそう告げられて、心臓がドキドキしてしまった。そんな事を考えている場合か。

「はい。よろしくお願いします。」

「ああ。すぐにこの件について取り掛かろう。」

ふわりと微笑むカランに、やはり心が躍ってしまう。


ああ、好きだな…。



ー*ーー*ーー*ー



カランとの話し合いが終わり、食堂へ戻ってみると、まだアダンとセイロンがおり、何やら2人で真剣に話し合っていた。

「あれ?2人共まだいたのか?」

僕が戻ってきたのを確認すると、2人とも表情を柔らげ、安心した様子を見せた。


「ああ。なんか、色々話してたら止まらなくてさ。ネモは…どうだった?大丈夫だったか?」

心配そうにアダンが問いかける。
そうだった。カランが一方的に僕を襲ったと思っているんだよな…。


「その…、大丈夫。カラン様は味方なんだ。」

「え?でも…カラン様に襲われたんだろ?」

「う、うん。それは、そうなんだけど…色々事情があって、さ。カラン様も事態を重くみて、セカンドやサードと一緒になにか対応を考えてくれるみたい。」


アダンとセイロンはお互いを見てハテナの表情である。
それはそうだよな。


「…もしかして、カラン様からのあのメッセージは…ネモさんを守るため…?」


セイロンの鋭い指摘。
黙る僕を見て、セイロンはため息をつきながら、メガネをクイっと指で上げた。


「…はあ。やっぱり。あのカラン様が、いくらネモさんが魅力的だとはいえ、そんな暴挙に出る方なのかと疑ってはいたのですが…。同意の上…、なのですね?」

「…う、うん。」

「しかし、それを無理矢理抱いた事にして。さも暴力的に。自身の権力を振りかざして、自分以外ネモさんに触るんじゃねーよ、という威嚇のメッセージを送った、と。」

「? ど、どういう事だよ?」

「あなたも鈍いですね…。恐らく、お二人が身体を繋げたのは事実でしょう。事故なのか故意なのかは置いておいて、お互いにその点は了承済み。問題は、ベナーデン隊長の件をカラン様が知り、重く考えたこと。どうにかして、今後ネモさんに被害が出ないようにするため、カラン様が盾となり、敢えて周りを牽制する事にした、のでは?」


セイロンの見事な推理。
ただ、至った経緯は僕の個人的な欲によるものなんだけどね。
医務室でのやり取りは、もしかしたらカランを追い詰めてしまう事案かもしれない。だから詳細は言えないが、カランが味方であることは伝えておきたい。

僕は目を閉じ静かに頷いて、それを肯定することにした。


「カラン様はご自身の権力を利用してまで、ネモの事を守ろうと…!」

「しかし、それが逆効果にもなり得るかもしれない状況に…。困りましたね。きっとカラン様は、良くも悪くも擦れていないんでしょうね。そんな輩が出る可能性は、露ほども思わなかったんでしょう。でも、カラン様を含めた責任者の御三方が味方であれば、うまく被害はくい止められるかもしれませんし…。良い案を出して頂けると良いのですが。」

「うん、そうだな…。」

僕は、真剣に考えてくれるこの2人に感謝しかなかった。疑り深くてごめん。
彼らの話を聞かなければ、とんでもない事になっていたかもしれない。
心の中で感謝しつつ、僕は心強い味方がいることに安堵していた。



……待てよ。


「そう言えば、さ。ハゼリは今1人、だよな?」


数秒僕らは呆けてしまった。

「そ、そうだった!カラン様がネモを連れ出してった事に意識が向いててすっかり…。」

「手分けして探しましょう!ネモさんは、急いで自室か職場でお待ちください。何かあったらすぐに緊急時のボタンを。ブザーが鳴って我々に場所が通知されますから!」

言い終わるや否や、2人はすぐに食堂を出て行った。


ど、どうしよう…。
僕も1人になるのはまずい。
取り敢えず、早く部屋へ戻ろう。


しかし、気になってしまい、部屋へ戻る道すがら、1人になっているであろうハゼリを探す。

三つ目の通路に出ると、研究者らしき人が備品をぶち撒けて、必死にかき集めているところに遭遇した。
それを手伝いながら、ハゼリの事をそれとなく聞いてみる。


「あー。紺色の髪の子ね。確か…、ちょっと前にクロント君と一緒にこの先にある…多分L4の部屋かな?へ入って行ったよ。僕、備品を移動するのにこの通路行ったり来たりしててさ。最初、ピンクの髪の子連れてて。その後、紺色の髪の子連れてたの見たから間違いないと思うよ。本当に、君たちは仲が良いねぇ。あ、拾ってくれてありがとうね!これで最後だから、やっとこの往復が終わるよ。」


やり切った感じの清々しい笑顔でそう答えた研究員は、僕に礼を述べながら、いっぱいの備品を持って通り過ぎていった。

なるほど。おそらく、ピンクの髪はサキーラだ。
クロントが連れて行ったのは僕も食堂で確認している。
紺色の髪も、ということは、今はクロントと、もしかしたらサキーラもそこにいるかもしれない。
取り敢えず、1人ではない事にホッと一安心した。

(クロントがいるなら問題ないか。)


歩き出そうとした時。

その言われた道の奥から、悲鳴のような声が微かに聞こえてきた。


(…気のせい、だよな?)


仲間達が普通にはしゃいで遊んでいるだけかもしれないじゃないか。
しかし、暗い道の先へ視線は釘付けだ。
今聞こえたものが脳内で反響し、気になって仕方がない。
なぜか心がザワザワして、背筋に悪寒が走る。
僕の足は、知らず知らずの内に、その暗がりへと歩を進めてしまっていた。

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