19 / 45
19.【真夜中の密約】
しおりを挟む
【真夜中の密約】
目を開けると薄暗い知らない場所にいた。
僕はベッドに寝かせられているようで、ふかふかな感触がする。
(ここは…?)
「…つっ」
起き上がろうとすると、全身が筋肉痛のような痛み。
そして、あらぬ所に何か挟まっているような違和感を感じてハッとする。
(僕…カランと…!)
一気に顔が火照る。
横向きになって上半身だけ起こすと、掛けてあったブランケットが肩から落ち、自身が裸であることに気づく。また、胸の辺りに視線を向けると、花がいくつも咲いていて更に紅潮した。
互いに強制された熱の中で行ったとはいえ、初めての行為をカランとしたのだと思うと、嬉しさで心が満たされ、幸せを噛み締めていた。
シュンッ
「…!ネモ、目が覚めたか?」
淡い光が部屋を照らす。
扉が開くと同時に、カランが僕に気づき、飲み物を持って駆け寄ってきた。
僕は急いではだけたブランケットをたくし上げる。
「飲めそうか?」
そう言って口元に差し出されたカップに戸惑いながらも、僕はゆっくりと口をつけた。そのままカランが優しく飲ませてくれる。喉が渇いていた僕は、ゴクゴクとすぐに一杯を飲み干した。
「はぁ……ありがとう、ございます。」
頭を垂れて感謝を述べると、カランはすぐに僕の手をぎゅっと握ってきた。
今度はカランが頭を垂れる。
「…本当に…すまなかった…」
最後は消え入りそうな声で、心底申し訳なさそうに僕に謝罪を述べる。
「薬のせいとはいえ、抗えずに君を乱暴に抱いてしまった。辛く…怖い思いをさせてしまい申し訳ない。ルリカルラでは、同性同士の行為は…禁忌だと聞く。この件は誰にも言わない。だから安心してほしい。これまで通り、一責任者として君を見守りはするが。もう2度と、君にこんな酷い…、無体なことはしないと誓うよ。」
真剣な眼差しでそう言われ、心の中に何かが突き刺さったように痛みを感じた。
ああ。薬で発情しなければ、きっと僕の事を抱きたいとすら思わなかったんだろうな。カランは、これは事故だったのだと、いつも通りの日常を送ろうとしている。
僕は…あんなに嬉しかったのに…。
これで終わりなんて…そんなの、…嫌だ!
(彼の罪悪感を利用してしまおうか。)
醜い気持ちが這い上がってくる。
僕はブランケットを持つ手をギュッと握り、恐る恐るカランの瞳を見る。
「…申し訳ないと思うのなら、僕を…守ってください。」
「ああ。もちろんそのつもりだ。今まで通り…」
「っそうじゃありません!」
つい語尾が強くなってしまった。
カランが不安そうに僕を見ている。
もう言ってしまえ。
「あのシャワー室で倒れた時…僕は…ベナーデン隊長に襲われていたんです。」
「っ!?な、なんだと?そんな事一言も…」
「言えるわけないじゃないですか!」
突然大声を上げた僕に、カランがビクッと体を揺らした。
「そういう行為を咎めるはずの隊長ですらああだったのに…。ベナーデン隊長が言ってましたよ。ルリカルラ人は、ベーンケイル人にとても人気だって。そんなの聞いたら、怖くて…言えるはずない。誰が味方なのか、分からないのに…。」
隠してきた恐怖が、言葉にすると怒りに震えてしまい、カランのせいではないのに、これでは八つ当たりみたいになってしまう。
「…そう…だったのだな。」
「恐らく、途中でカラン様が来てくださらなければ、あのまま抱かれていたでしょう。未遂で終わったのは…あなたのお陰です。」
「ネモ…」
切なそうな表情をするカランが、僕の手を再度優しく握ってきた。
「まあ、結局はあなたに抱かれてしまいましたけどね。」
「……すまない。」
「いえ。僕も薬のせいで変になっていましたから。…でも、今後また、ベナーデン隊長や他の誰かに襲われかねない。そんな不安を抱えながら、1年間ここで過ごすのは正直辛すぎるんです。」
「そう…だな。確かに。私の監督不行届のせいだ。今後は…」
「だから。カラン様の、その、パートナーとして…周知して頂けませんか?」
「……え?」
カランが何か提案をする前に、食い気味に言葉を被せるように言い放つ。
まるで青天の霹靂のような表情のカランは、真意が分からないようで、僕をなぜ?どうして?というように見つめてくる。
「きっと、カラン様の相手だと知れば、その…、そういう事しにくいんじゃないかな…と。勿論、ルリカルラのみんなには内緒ですけど。」
カランは、少し考えるように顎に手を添えて真剣な表情になった。
「…なるほど。周りへの牽制になるということか。」
「はい。なので…」
形だけでも、彼の側にいられるのなら。
それに、カランが望むなら、僕の身体で発散してくれていいし。1年だけでも、彼のパートナーになれたなら…。
「そういう行為も、カラン様がしたい時になさってくれて構いません。」
「…っ!い、いや、そんなこと…」
「正直に言うと、僕自身、ベナーデン隊長に弄ばれた時からずっと、身体が疼いて仕方がないんです。誰かに抱かれたくて、仕方なくて…。でも、誰彼構わずは嫌なんです。だったら、相手は1人の方がいい…。もうどうせ、ルリカルラには帰れない身体になってしまいましたし。…何度抱かれても同じことです。」
「っ!………わかった。それでネモが良しとするのなら。本当にすまない…。」
カランは僕を優しく抱きしめながら、絞り出すように声を出した。
「私が君の盾になり、責任を果たそう。だが、君の嫌がることは決してしない。約束するよ、ネモ。」
先ほどよりも強い力で抱きしめられ、その温かさに一筋の涙が溢れてしまう。
(ああ、僕は…彼の弱みに漬け込んで、優しい彼を欺いている。)
分かっている。
彼は仕方なく僕をパートナーにした。
僕を愛しているわけではない。
たとえ、欲望を発散させるだけの相手だとしても構わない。
1年だけ…1年だけでもいいから、彼の側にいたい。僕に少しでも良いから愛情を注いで欲しい。
でも…。
この関係を願ったのは僕のはずなのに。
嬉しいはずなのに…。
悲しい密約を結んだ。
幸せになれるはずはないのに。
それでも僕は、抱きしめてくる彼の体温を愛しく感じていた。
目を開けると薄暗い知らない場所にいた。
僕はベッドに寝かせられているようで、ふかふかな感触がする。
(ここは…?)
「…つっ」
起き上がろうとすると、全身が筋肉痛のような痛み。
そして、あらぬ所に何か挟まっているような違和感を感じてハッとする。
(僕…カランと…!)
一気に顔が火照る。
横向きになって上半身だけ起こすと、掛けてあったブランケットが肩から落ち、自身が裸であることに気づく。また、胸の辺りに視線を向けると、花がいくつも咲いていて更に紅潮した。
互いに強制された熱の中で行ったとはいえ、初めての行為をカランとしたのだと思うと、嬉しさで心が満たされ、幸せを噛み締めていた。
シュンッ
「…!ネモ、目が覚めたか?」
淡い光が部屋を照らす。
扉が開くと同時に、カランが僕に気づき、飲み物を持って駆け寄ってきた。
僕は急いではだけたブランケットをたくし上げる。
「飲めそうか?」
そう言って口元に差し出されたカップに戸惑いながらも、僕はゆっくりと口をつけた。そのままカランが優しく飲ませてくれる。喉が渇いていた僕は、ゴクゴクとすぐに一杯を飲み干した。
「はぁ……ありがとう、ございます。」
頭を垂れて感謝を述べると、カランはすぐに僕の手をぎゅっと握ってきた。
今度はカランが頭を垂れる。
「…本当に…すまなかった…」
最後は消え入りそうな声で、心底申し訳なさそうに僕に謝罪を述べる。
「薬のせいとはいえ、抗えずに君を乱暴に抱いてしまった。辛く…怖い思いをさせてしまい申し訳ない。ルリカルラでは、同性同士の行為は…禁忌だと聞く。この件は誰にも言わない。だから安心してほしい。これまで通り、一責任者として君を見守りはするが。もう2度と、君にこんな酷い…、無体なことはしないと誓うよ。」
真剣な眼差しでそう言われ、心の中に何かが突き刺さったように痛みを感じた。
ああ。薬で発情しなければ、きっと僕の事を抱きたいとすら思わなかったんだろうな。カランは、これは事故だったのだと、いつも通りの日常を送ろうとしている。
僕は…あんなに嬉しかったのに…。
これで終わりなんて…そんなの、…嫌だ!
(彼の罪悪感を利用してしまおうか。)
醜い気持ちが這い上がってくる。
僕はブランケットを持つ手をギュッと握り、恐る恐るカランの瞳を見る。
「…申し訳ないと思うのなら、僕を…守ってください。」
「ああ。もちろんそのつもりだ。今まで通り…」
「っそうじゃありません!」
つい語尾が強くなってしまった。
カランが不安そうに僕を見ている。
もう言ってしまえ。
「あのシャワー室で倒れた時…僕は…ベナーデン隊長に襲われていたんです。」
「っ!?な、なんだと?そんな事一言も…」
「言えるわけないじゃないですか!」
突然大声を上げた僕に、カランがビクッと体を揺らした。
「そういう行為を咎めるはずの隊長ですらああだったのに…。ベナーデン隊長が言ってましたよ。ルリカルラ人は、ベーンケイル人にとても人気だって。そんなの聞いたら、怖くて…言えるはずない。誰が味方なのか、分からないのに…。」
隠してきた恐怖が、言葉にすると怒りに震えてしまい、カランのせいではないのに、これでは八つ当たりみたいになってしまう。
「…そう…だったのだな。」
「恐らく、途中でカラン様が来てくださらなければ、あのまま抱かれていたでしょう。未遂で終わったのは…あなたのお陰です。」
「ネモ…」
切なそうな表情をするカランが、僕の手を再度優しく握ってきた。
「まあ、結局はあなたに抱かれてしまいましたけどね。」
「……すまない。」
「いえ。僕も薬のせいで変になっていましたから。…でも、今後また、ベナーデン隊長や他の誰かに襲われかねない。そんな不安を抱えながら、1年間ここで過ごすのは正直辛すぎるんです。」
「そう…だな。確かに。私の監督不行届のせいだ。今後は…」
「だから。カラン様の、その、パートナーとして…周知して頂けませんか?」
「……え?」
カランが何か提案をする前に、食い気味に言葉を被せるように言い放つ。
まるで青天の霹靂のような表情のカランは、真意が分からないようで、僕をなぜ?どうして?というように見つめてくる。
「きっと、カラン様の相手だと知れば、その…、そういう事しにくいんじゃないかな…と。勿論、ルリカルラのみんなには内緒ですけど。」
カランは、少し考えるように顎に手を添えて真剣な表情になった。
「…なるほど。周りへの牽制になるということか。」
「はい。なので…」
形だけでも、彼の側にいられるのなら。
それに、カランが望むなら、僕の身体で発散してくれていいし。1年だけでも、彼のパートナーになれたなら…。
「そういう行為も、カラン様がしたい時になさってくれて構いません。」
「…っ!い、いや、そんなこと…」
「正直に言うと、僕自身、ベナーデン隊長に弄ばれた時からずっと、身体が疼いて仕方がないんです。誰かに抱かれたくて、仕方なくて…。でも、誰彼構わずは嫌なんです。だったら、相手は1人の方がいい…。もうどうせ、ルリカルラには帰れない身体になってしまいましたし。…何度抱かれても同じことです。」
「っ!………わかった。それでネモが良しとするのなら。本当にすまない…。」
カランは僕を優しく抱きしめながら、絞り出すように声を出した。
「私が君の盾になり、責任を果たそう。だが、君の嫌がることは決してしない。約束するよ、ネモ。」
先ほどよりも強い力で抱きしめられ、その温かさに一筋の涙が溢れてしまう。
(ああ、僕は…彼の弱みに漬け込んで、優しい彼を欺いている。)
分かっている。
彼は仕方なく僕をパートナーにした。
僕を愛しているわけではない。
たとえ、欲望を発散させるだけの相手だとしても構わない。
1年だけ…1年だけでもいいから、彼の側にいたい。僕に少しでも良いから愛情を注いで欲しい。
でも…。
この関係を願ったのは僕のはずなのに。
嬉しいはずなのに…。
悲しい密約を結んだ。
幸せになれるはずはないのに。
それでも僕は、抱きしめてくる彼の体温を愛しく感じていた。
30
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
これまでもこれからも
ばたかっぷ
BL
平凡な相澤太一と成績優秀な多岐川暁人は全寮制の学園に通う幼馴染み。変わらない日常は暁人が生徒会に入ったことから少しずつ変わりはじめた…。
人気者×平凡の幼馴染みもの。王道学園が舞台ですが王道的展開はありません。
えっち無し(温~いキスシーン程度)
軽めの暴力描写とちょっとのお馬鹿さが有りますσ(^◇^;)
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
大親友に監禁される話
だいたい石田
BL
孝之が大親友の正人の家にお泊りにいくことになった。
目覚めるとそこは大型犬用の檻だった。
R描写はありません。
トイレでないところで小用をするシーンがあります。
※この作品はピクシブにて別名義にて投稿した小説を手直ししたものです。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる