天色の花のさだめ

龍神きくおみ

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5.【2日目】

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【2日目】



「俺はここの隊長を務めている、ジュームだ。よろしく頼む」

勤務初日。
第9小隊に所属となった僕たちは、隊員達の前で軽く自己紹介を済ませ、今は隊長であるジュームから挨拶を受けていた。
襟の色は赤だ。

金色の角刈りの髪に、濃い青色の瞳をしている。
美形だが強面で、常に怒っているような表情だ。
いかにもな軍人らしい言葉遣いで威圧感がある。

すごく怖い…。


「私は副隊長のフリジンと言います。何か分からない事があれば遠慮せずに言ってくださいね。」

僕たちに笑顔を向けてそう話す彼は、隊長とは対照的な優しい見た目だ。
金色のワンレンボブヘアに、グレーの瞳。
襟の色は桃色だ。
隊長より若干背が高い。


(これはきっと、飴と鞭みたいな感じで配置されたんだろうな…。)


僕らがいる第9基センターは、新種の植物の他にも、新種の動物、未知の生命体などの捕獲や採取、繁殖を含めた研究をする部署がたくさんあり、人数もすごく多いらしい。部隊も12部隊いる。
1番多いのは、兵器関連の研究を行っているセンターで15部隊いるそうだ。

タルタロスにはセンターが12基あり、各基、宝石の名前で呼ばれている。
そして、それぞれに大体7個の小隊が所属し、一部隊あたり20~50名。
第9基内では約250人で、タルタロス全体では2600人近くいるそうだ。
軍の一部なので、ベーンケイルの者達は、呼ばれたら戦地や各地の研究室へ赴く事になるが、今のところはこの在籍数だそうだ。

本当にとてつもなく大きい宇宙ステーションである。

通常、宇宙ステーションといえば、全体で約100人くらい、軍事特化した大型のセンターでも500人ほどなのに。

(さすがベーンケイル、規模が違いすぎる…!)

因みに、ここ第9基センターは『サファイア』と呼ばれている。
もし他者に所属を聞かれたら、僕たちは『タルタロスステーション、エリアサファイア、第9小隊所属、研究員の〇〇です』と答えるのが正解らしい。

ルリカルラから来た他のグループは、それぞれ第10基『オパール、第3小隊』でリハビリ看護業務。
第11基『シトリン、第2小隊』で治験現場の補助員として、各2名ずつ在籍している。

僕の仕事は、ある新種の植物についての研究が主らしい。
また、今所有している多数の植物から新しい成分が発見されたので、それらを使った新薬作成の補助も行うそうだ。
こちらは、サキーラとハゼリ2人が主な担当だ。
新種の植物が見られる上に、その研究にも携われるなんて…最高すぎる!

先ほどいた第9基センターの広いロビーを出て、僕らの直属の上司、橙色の襟を持つアダン分隊長に連れられ、僕たちが働く研究施設へ入って行った。


(ひ、広い…。

 しかも見た事のない装置や植物が並んでいる!)


この研究施設は、僕らを含めて総勢13名の職場のようだ。
僕はここで新種の植物の研究を行い、サキーラとハゼリはこの施設の別室で新薬作成の補助をする、と。

僕はそのまま分隊長のアダンに、サキーラとハゼリは副分隊長のセイロンに各々ついていった。

僕が携わる新種の植物は、仮称『Type.K2クローン-14106』。
ベーンケイルが所有する星から新たに見つかった植物で、多肉植物のような見た目だ。
大きな葉が4方向に順に広がり、その葉の縁には、朝露のような丸く透明なものが無数に生えてる。
明るい場所ではその広げた葉を閉じ、暗い場所では葉を開き、ピンク色に発光しながらふわふわと動いている。


(いや…飛んでるんだけど…?)


ここは室内に備えられたドーム型の建物の中だ。かなり薄暗い。
天井は星空を再現しているし、この新種の植物たちも発光しているので、一応光源はある。
基本的には、この中で生態観察をしたり、外に出て研究機材で調べたりするみたいだ。

(本当に幻想的な光景だな。綺麗だ。)

一つの個体に近づいてみたが、それは逃げるわけでもなく、自由に浮遊している。
許可を得て触ってみたが、指に絡まるような動きを見せるも、すぐに興味を無くしたように去っていく。
意外と柔らかかった。

そしてなんだか…
甘い香りがしたような気がした。


「僕たちの星では、空中に浮遊する植物はないので驚きました。他の星の植物で、同じように浮遊しているものは何件か知っていますが、自分の意志でこんなに速く移動したりする植物は初めて見ましたよ。」

「確かに。この銀河系内でも珍しいと思うよ。訓練中の部隊が、未開拓鉱山を見つけて中を調査したら、このK2を発見してさ。未知の生命体を扱う研究室に渡したら、どうやら植物だと判断されて、うちの部屋にまわされたってわけ。」

(金色の前髪が目をほぼ隠していて、あまり表情が見えないな。)

アダンは抑揚なく話して、気怠そうな雰囲気だ。
でもハッキリ話してくれるので分かりやすい。
しかも、なぜか同世代のような親近感で、今まで同期で一緒に働いていたんじゃないかと思うくらいの錯覚を覚える。

だがしかし、このアダン。
なんと、この道200年は超えているらしい。
大大大先輩である。
知識量も桁違い。
さすがベーンケイルの研究者。

俺たち本当に役に立てるのだろうか?
ルリカルラの基準で考えていたが、成果を出すって…出せるのか?
あ、そう言えば…。

「あの…あなたの事、なんて呼んだら良いんでしょうか?
 アダン分隊長、で合っていますか?それとも教授とか?」

後ろにいたアダンに向き直りそう聞くと、一瞬ビクッとした気がした。

「あ、ああ。別になんとでも。僕は研究者だから、統括してる小隊のリーダー達や上層部とは違う。ア…アダンって、呼び捨てでいいし。それに敬語もいらない。ただの同僚として気軽に話して欲しい、かな。」

少し下を向き、前髪を手でかき上げながら、恥ずかしそうにそう答えたアダン。

(なんだか、自分と同じような性格な気がする…!でもどちらかと言うとアダンはツンデレっぽいな。)

あまり人との関わり方が得意ではなさそうだ。
かなりの親近感を覚えた。



というか…

今ので初めて目が見えた。

(オッドアイだ!)

おそらく青と赤の。
赤色なんてベーンケイル人なのに珍しい色だ。
しかも漏れなくイケメンである。

一瞬ドキッとしてしまったが、それを悟られないように答えた。

「じゃあ、アダン。僕のこともさん付けはやめてくれ。ネモで大丈夫だよ。これからよろしくな。」

頑張って笑顔を向けた…つもりだが。
どうだろうか?
アダンは固まってしまったが。
ごめん。よく言われるんだ。
表情筋が死んでるって。

名前呼びや敬語なし。
これだけの事なのにとても嬉しい。
少し面映く感じるが、出だしは好調ではないだろうか?
これから一緒に仕事をしていくんだ。
仲良くなれた方が色々やりやすい。
それに、きっと評価を上に伝えるのはこのアダンだ。

なんとしても、良い印象と実績を残さなければ!
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