記憶も記録もありません…全てを消された放浪者（わたし）は、わけもわからずスローライフしてます❗️

29話

**第二十九話: 記憶の断片**

---

ライラがエルムウッド村で「希望の草」を育てながら、穏やかな日々を過ごしていたある日、彼女のもとに不思議な訪問者が現れた。夕暮れ時、村の外れに佇むライラの前に、黒いローブを纏った老人が姿を見せた。

「君に会いに来た」とその老人は静かに告げた。

ライラはその声にどこか懐かしさを感じたが、すぐにその感覚をかき消し、警戒心を抱いた。「あなたは誰ですか？」

老人は笑みを浮かべ、「私は過去の記憶を紡ぐ者だ。君が失ったものを取り戻す手助けをしに来た」と答えた。

ライラは戸惑いながらも、その言葉に引き寄せられるように、老人の話を聞くことにした。老人は手のひらに古びた巻物を広げ、そこに描かれた絵をライラに見せた。

「これは…？」ライラはその絵に見覚えがあった。しかし、どこで見たのか思い出せない。

老人は続けた。「これは君の記憶の一部だ。かつて君は、この扉の向こう側にいた。そこには、君が大切にしていた人々がいた。しかし、その記憶は封印され、君から奪われたのだ。」

ライラは目の前の絵を見つめ、胸の奥で何かがざわめき始めた。「どうすれば、その記憶を取り戻せるのでしょうか？」

「君の心が真に求めるものを見つけたとき、その扉は再び開かれるだろう」と老人は答えた。

その言葉を聞いた瞬間、ライラの中で何かがはじけ、彼女の頭の中に映像が浮かび上がった。それは、幼い頃の彼女が、誰かと手を取り合いながらその扉の前に立っている光景だった。

「私は…」ライラは震える声で呟いた。「私は誰かを守るために、この扉を…」

老人は微笑み、「その記憶が戻る時、君は本当の自分を取り戻すだろう」と静かに告げた。そして、ライラが次に目を開けたとき、老人の姿はもうなかった。