記憶も記録もありません…全てを消された放浪者（わたし）は、わけもわからずスローライフしてます❗️

8話

**第八話: 消された記憶**

エルムウッド村での生活が安定し、ライラは村人たちと共に平穏な日々を送っていた。鶏の世話や畑仕事、そして夕食を囲む時間は、彼女にとってかけがえのないものとなっていた。しかし、失われた記憶が少しずつよみがえり始めると、その平穏にも影が差し始めた。

ある日の夕方、ライラは村の古老、アルベルトの家を訪れた。アルベルトは村の歴史や伝説に詳しく、彼の話がライラの記憶に何かを呼び起こすかもしれないと感じていたからだ。

「ライラ、今日はどんな話を聞きたいんだい？」アルベルトは優しく微笑みながら言った。

ライラは少し迷いながらも、質問を切り出した。「アルベルトさん、以前話してくれた大戦争の伝説について、もっと詳しく教えてください。私の記憶に関わっている気がするんです」

アルベルトは深く頷き、話し始めた。「あの戦争は、今から何百年も前のことだ。多くの国々が争い、無数の命が失われ、記憶も歴史も消されてしまった。特に強力な魔法使いが関与していたと言われている。彼らは自分たちの存在や行動を隠すために、記憶を抹消する術を使ったんだ」

ライラの胸がざわついた。その話が、彼女の失われた記憶に関わっているように感じたからだ。「その魔法使いのことをもっと教えてください。何か具体的な情報はありますか？」

アルベルトは一瞬考え込み、そして慎重に言葉を選んだ。「伝説によれば、その魔法使いたちは特別な紋章を持っていたという。その紋章は、古代の魔法を使う力の象徴だった。もし君がその記憶を失ったのなら、その紋章が関わっているかもしれないね」

ライラは手首に巻かれた古びた革のバンドを見つめた。それは彼女が目覚めたときからずっと身につけているもので、無意識のうちに大切にしていた。「もしかして、これが…？」

アルベルトはライラの手首に巻かれたバンドを見て、目を細めた。「そのバンド、見せてもらえるかい？」

ライラはバンドを外し、アルベルトに手渡した。アルベルトは慎重にそれを調べ、驚いた表情を浮かべた。「これは古代の紋章だ。君の失われた記憶と確かに関係がある。おそらく、君はその大戦争に関わっていた一人だろう」

ライラの頭の中で断片的な記憶が蘇り始めた。激しい戦いの光景、無数の声、そして彼女の中に眠る強力な魔法の感覚。彼女は震える手でバンドを握りしめた。「でも、どうして私は記憶を失ったのでしょう？」

アルベルトは静かに答えた。「君を守るためだったのかもしれない。記憶を消すことで、何か重要な秘密を隠そうとしたのかもしれないね」

ライラは深い思索にふけりながらも、決意を新たにした。「私の記憶が戻れば、何か大切なことがわかるはず。もっと調べなければ」

アルベルトは温かく微笑み、「君がどんな過去を持っていても、今の君はエルムウッド村の一員だ。私たちみんなが君を支えるよ」と励ました。

その夜、ライラは自分の失われた記憶と向き合う決意を胸に、再び古びた日記帳を開いた。ページの端に書かれた文字が、かすかに輝き始めた。それは新たな手掛かりの始まりを告げているようだった。

ライラはエルムウッド村での平穏な生活と、失われた記憶の謎を解き明かす旅の二重生活を続けることを決意した。彼女の冒険はまだ始まったばかりだったが、確かな一歩を踏み出していた。