記憶も記録もありません…全てを消された放浪者（わたし）は、わけもわからずスローライフしてます❗️

3話

第三話: 初めての市の日

エルムウッド村での生活にも少しずつ慣れてきたライラは、村の人々と心を通わせる日々を過ごしていた。そんなある日、村で月に一度開かれる市の日が訪れた。エリオットから市のことを聞かされたライラは、興味津々でその話に耳を傾けた。

「市の日は、村の人々が自分たちの作った品物や収穫物を持ち寄り、交換したり販売したりする日なんだ。外の村からも人が集まるから、とても賑やかになるよ」

エリオットの言葉に、ライラは胸が高鳴った。「とても楽しそうですね。私も手伝わせてください！」

エリオットは笑顔でうなずいた。「もちろんだよ、ライラ。皆も喜ぶだろう」

市の日の朝、村の広場は色とりどりのテントや屋台でいっぱいになっていた。村人たちは自慢の品物を並べ、笑顔で訪れる人々を迎えていた。ライラもリリアと一緒に、村の農産物を並べる手伝いをしていた。

「ここにトマトを置いて、あっちにはジャガイモを…」

リリアの指示に従いながら、ライラは手際よく品物を並べていった。広場にはさまざまな商品が所狭しと並び、見ているだけで楽しい気持ちになった。

「ライラ、おはよう！」

声をかけられ振り向くと、そこにはアーロンが立っていた。彼は村の鍛冶屋であり、ライラのことをよく気にかけてくれる優しい青年だった。彼も自分の作った鍋や工具を並べている。

「おはよう、アーロン。今日は賑やかですね」

アーロンは笑顔でうなずいた。「市の日はいつもこんな感じさ。外の村からも多くの人が訪れるんだ。君も楽しんでいってね」

ライラはその言葉に励まされながら、リリアと一緒にお店の準備を続けた。やがて市が始まると、広場は一層賑やかになり、多くの人々が行き交うようになった。ライラもその中で忙しく働きながら、心地よい疲労感を感じていた。

昼頃になると、一息つくためにリリアと一緒に広場を見て回ることにした。さまざまな屋台が並び、香ばしい香りが漂ってくる。ライラの目に飛び込んできたのは、甘いお菓子や手作りのアクセサリー、そして色とりどりの花々だった。

「わあ、素敵ですね！」

ライラは思わず声を上げ、リリアも微笑んだ。「そうでしょ？市の日はみんなが一番楽しみにしている日なのよ」

二人はしばらくの間、市を見て回り、色々な物を見たり試食したりして楽しんだ。そんな中、ライラの目に止まったのは、古びた本や地図を並べた小さな屋台だった。そこには一人の老人が座っており、穏やかな笑顔で訪れる人々に話しかけていた。

「こんにちは」

ライラが声をかけると、老人はにこやかに返事をした。「こんにちは、お嬢さん。本に興味があるのかい？」

ライラはうなずいた。「はい、少し見せていただけますか？」

老人は優しく頷き、本の一冊を手に取った。「どうぞ、ゆっくり見ていってください」

ライラは本を手に取り、ページをめくり始めた。その中には古い物語や伝説が書かれており、彼女はすぐにその世界に引き込まれていった。

「この本、素敵ですね。どこで手に入れたんですか？」

老人は懐かしそうに語り始めた。「これは昔、私が旅をしていた時に集めたものなんだ。各地で見聞きした話を記録しておいたものさ」

ライラはその話に興味津々で耳を傾けた。「旅をしていたんですか？どんな場所に行ったんですか？」

老人は目を輝かせながら話を続けた。「そうさ、いろんな場所を訪れたよ。山や森、海辺の村々…その中でたくさんの人々と出会い、多くの物語を聞いたんだ」

ライラはその話を聞いて、自分もそんな冒険がしたいと感じた。しかし、今はまずこの村での生活を楽しむことが大切だと心に決めた。

「ありがとう、おじいさん。この本を一冊いただきます」

老人は微笑んで頷いた。「どういたしまして。楽しんで読んでおくれ」

ライラはその本を大事に抱え、リリアと一緒に屋台を後にした。午後も市は続き、賑やかな声と笑顔が広場を満たしていた。ライラも村の人々と一緒に働きながら、その一日を心から楽しんだ。

夕方になると、市は終わりを迎え、広場は静けさを取り戻した。ライラは疲れた体を引きずりながらも、心地よい満足感に包まれていた。エリオットが彼女に声をかけた。

「今日はよく働いたね、ライラ」

ライラは微笑んで答えた。「はい、とても楽しかったです。ありがとうございます、エリオットさん」

エリオットはうなずきながら言った。「これからもこうして村の人々と共に過ごすことで、君の心も少しずつ癒されていくだろう。そして、君の記憶もきっと戻るはずさ」

ライラはその言葉に励まされ、これからもこの村での生活を大切にしていこうと心に決めた。エルムウッド村での日々はまだ始まったばかりだが、彼女は少しずつ前に進んでいく決意を新たにした。

こうして、ライラの新しい日常が続いていく。村の人々と共に過ごすことで、彼女は心の中に温かいものを感じながら、記憶を取り戻すための旅を続けていくのだった。