感謝の魔法書

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8話

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第八話「虚無の扉と響き渡る心音」

光に包まれた庭園の中、リーリ、カイン、アルベルの3人は新たな扉を前に立っていた。今までの扉とは異なり、そこには装飾も文字もなく、ただ静かに佇む巨大な石の壁だった。

「これが……次の試練?」
リーリがそう呟くと、セレンが一歩前に出る。

「その扉は、虚無の扉と呼ばれるものだ。この先には、誰もが抱える心の暗闇が待ち受けている。」

カインが眉をひそめた。
「心の暗闇?抽象的なことを言うな。それをどう乗り越えるんだ?」

セレンは静かに首を振った。
「心の闇を否定してはならない。それを受け入れたとき、初めて進むべき道が見えるのだ。」


---

3人は扉を押し開け、中に足を踏み入れた。すると、周囲は一瞬にして漆黒の闇に包まれた。視界を奪われるだけでなく、音も匂いもすべてが消え去ったように感じられる。

「カイン?アルベル?聞こえる?」
リーリが声を上げたが、応答はない。自分の声さえも吸い込まれてしまったかのようだった。

孤独。それがリーリの心に重くのしかかる。この深い闇の中、彼女は一人だと思い知らされた。

そのとき、不意に母親の声が聞こえた。

「リーリ、あなたは一人で強く生きなければならないのよ。」

振り返っても誰もいない。だが、その声はあまりに鮮明で、まるで母がそこにいるかのようだった。

「お母さん……?」

リーリは胸が締め付けられるような感覚に襲われた。彼女は母を失った過去を思い出す。村でただ一人、感謝を知らない少女として育った記憶が蘇る。


---

一方、カインもまた闇の中で独自の葛藤に直面していた。彼の前に現れたのは、かつての仲間たち。自分が守れなかった者たちが、彼に非難の目を向けている。

「カイン、お前がいれば私たちは生き残れたはずだ。」
「お前が力を誇示することばかり考えていたから……!」

その言葉は彼の胸に突き刺さる。自分が持つ力への責任。かつて感じたことのない罪悪感が、彼を追い詰める。


---

アルベルもまた、自分だけの幻影に囚われていた。彼が見たのは、書物の山の中で一人黙々と作業を続ける自分自身。

「知識を得ても、何も変わらない。誰もお前を認めない。」

その言葉は彼の中に渦巻く孤独を映し出していた。知識を求めることで何かを補えると思っていたが、それは穴を埋めるどころか深めていただけだった。


---

闇の中で3人それぞれが向き合うもの――それは、自分の中に秘めた弱さだった。

しかし、その瞬間、リーリはふと母の声の中にある違和感に気づいた。

「強く生きなさい――そんな言葉、本当に母さんが言った?」

彼女は思い出す。母は常に優しい笑みで、自分を抱きしめてくれたではないか。あの日も、最後まで自分を励ましてくれた。

「違う。これは、私自身が作り上げた恐れだ。」

その瞬間、闇が薄れ始めた。リーリの心に灯がともる。

「感謝を知ることは、過去を否定することじゃない。私は、この闇さえも受け入れて、生きていく。」


---

リーリの光が、闇の中でカインとアルベルにも届く。彼らもまた、自分たちの恐れを直視し、それを受け入れることで心に光を取り戻す。

3人が再び一つになったとき、虚無の扉は完全に開かれた。

セレンの声が遠くから聞こえる。
「よくやった。さあ、次の試練へ進むがいい。」

その先には、これまで以上に厳しい道が待ち受けていることを、3人はまだ知らない――。

(続く)
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