感謝の魔法書

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第四話「影の囁きと試練への一歩」

リーリとカインは賢者アルベルに導かれ、村の外れの道へと歩みを進めていた。朝日が昇り始め、静寂の中に鳥たちのさえずりが響く。しかし、その平和な景色とは裏腹に、二人の心は不安に満ちていた。

「アルベルさん、私たちはどこへ行けばいいの?」
リーリが尋ねると、アルベルはゆっくりと足を止め、杖を地面に突き立てた。

「君たちが向かうのは『光の遺跡』だ。」
「光の遺跡?」
カインが眉をひそめる。

アルベルは険しい表情で頷いた。
「そこはかつて、この世界の感謝の力を生み出した場所だと言われている。そして、そのペンが本来の力を取り戻すための鍵が眠っている。」

「……本来の力?」
リーリはペンを見つめた。その光沢は昨夜の激しい戦いを思い出させる。

「感謝の魔法はまだ完全ではない。だが、その遺跡には君たちがさらなる力を得るための『試練』が用意されている。」

「試練、ね……簡単じゃなさそうだな。」
カインが小さくため息をつくと、アルベルは厳しい目つきで彼を見た。

「簡単であってはならないのだ。この世界に奇跡をもたらす者には、それに見合う覚悟が求められる。」

リーリはその言葉に小さく頷きながらも、どこか不安げな顔をしていた。

その夜、二人は道中の森の中で野営をすることになった。

焚き火の暖かい光が二人を照らしている。アルベルは少し離れた場所で静かに瞑想をしていた。

「カイン……私、やっぱり怖い。」
リーリがぽつりと呟くと、カインは火を見つめながら答えた。

「それが普通だ。俺だって不安だらけだよ。」

「でも、私が感謝状なんて書かなければ、こんなことにはならなかったかもしれない……。」

リーリの声が震える。昨夜の戦いの記憶、そして影の男の不気味な言葉が頭をよぎる。

カインは少し黙ってから、彼女の方を向いた。
「お前が感謝状を書いたから、村は救われたんだ。それに……もしお前がそのペンを拾わなかったら、影がもっと早く動き出していたかもしれない。」

「でも、もし失敗したら……?」

カインは火を見つめながら、低い声で答えた。
「失敗したら、そのときは俺がなんとかする。」

その言葉にリーリは目を見開いた。いつも冷静なカインが、こんなに真剣な顔をしているのは珍しい。

「……本当に?」
「ああ。本当だ。」

カインの言葉に少しだけ安心したリーリは、小さく笑みを浮かべた。

しかし、その静けさを破るように、森の奥から低い声が聞こえてきた。

「感謝の光を追う者よ――。」

「……!」
二人は同時に立ち上がった。森の闇の中から、あの黒いローブの男がゆっくりと姿を現した。

「またお前か……!」
カインはすぐに腰のナイフに手をかける。しかし、男は微動だにせず、冷たい声で続けた。

「私は何も奪いに来たわけではない。ただ、忠告をしに来ただけだ。」

「忠告……?」
リーリが震えながら聞き返すと、男は口元に嘲笑を浮かべた。

「そのペンに依存し続ける限り、君たちは必ず破滅する。それは、かつての英雄たちがたどった運命と同じだ。」

「運命なんて、私たちが変えてみせる!」
リーリが勇気を振り絞って叫ぶと、男の笑みが深くなった。

「そうか……だが、君たちが試練の先で何を見るのか。それを楽しみにしているよ。」

そう言うと、男は再び霧の中に溶けるように消え去った。

「くそ……!」
カインが悔しそうに拳を握りしめる。

その時、アルベルが静かに近づいてきた。
「影の男か……やはり動き出しているな。」

リーリはアルベルに向き直り、震える声で尋ねた。
「彼が言ってたこと、本当なの? ペンを使い続けたら、破滅するって……。」

アルベルは一瞬黙り込んだが、やがて静かに頷いた。
「確かに感謝の力には代償が伴う。だが、その力をどう使うかは君たち次第だ。」

「どう使うか……。」

リーリはその言葉を噛み締めながら、再びペンを握りしめた。
自分には何ができるのか。そして、どんな未来を描き出せるのか――。

夜空には無数の星が輝いていたが、二人の胸には、それ以上に強い決意の光が灯り始めていた。

翌朝、二人とアルベルは『光の遺跡』へ向けて旅を再開した。
試練の扉は、すぐそこに待ち受けている――。
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