54 / 63
52・嘘をつく人は多いですが。
しおりを挟むあれこれ考えても仕方ありません。
「エドに直接、聞けば済む事ね」
「え~!」
リリアが胸を抑えて呻き出しました!
なーるほど、口でアレコレ言うより、直接『エドに合う』のが、リリアにとって一番、堪えるようです。
「『え~!』じゃ、ないわよ。合わずにどうするのよ」
「それは……そうなのですが」
リリア、消えてしまいそうです。
面白いから、消し去ってやりましょうか。
「それじゃあ、別にリリアは行かなくてもいいわ」
「何を言っているのですか、お嬢は!『全権代理人』の私が行かなくて、如何するというのですか! 勿論、行きますよ、えぇ、行きますとも。当たり前じゃないですか!」
おお! 消え去るどころか、もの凄い剣幕でよみがえってきました。
「でもなぁ……」
あれ? また、しぼんでしまいました。
乙女心は複雑なようです。
「ほら、しっかりしなさいよ。エドに合う前に色々と準備しなければならない事があるでしょ。投資総額は幾らになるの? 私の蓄財で賄える?」
「ええ、大丈夫です」
最愛のお母さまが、私の為に莫大な金塊を残してくれていますので、資金的には余裕のようです。
「契約的には?」
「かなりの好条件だと思いますが、投資概要と契約書は、後で家令長に確認を取って頂きます。エドアルド商会に出向くとなると、正式な儀礼手続きもしなくてはなりませんね。訪問なさるのは早ければ早い方がよろしいのでは?」
「ええ、そうね、早い方が良いわ。どうせ、『あまりにも急過ぎます』とか、わずらわしい事を言ってくる輩が居るでしょうから、私からお父様に根回ししておくわ」
不便な事に、私は無論、リリアも私の近侍という職務上、煩瑣な手続きを踏んだうえでなければ、おいそれとは城館外に出ることができません。
お父様に泣きついても『危険すぎるから』と、許してもらえませんでした。
「販売計画の方は、どのような?」
「悪くは無いのだけれど、う~ん、少し考えてみたいわね。リリアも後で目を通しておいてくれる」
「ん? 今では無くて? それに、お嬢は投資概要と契約書に目を通さないのですか?」
実務的な話を始めると、それまでの浮ついた気分はどこへやら、文武に秀でた優秀な近侍の顔を覗かせますので、頼もしい事この上なしです。
「書類の数字は嘘をつかないからね。おかしな点が無いのなら、それでいいわ」
「しかし……」
「リリア、が、読んだのよ。リリア、が」
「はい!」
返事をするリリアは、と、いえば。
とびっきりの笑顔でした。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

【書籍化・取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない
gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる