公爵令嬢走る!/恋の闘争・正義は我にあり 序章

ペンギン饅頭

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51・や、や、やられた~!

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『リリアと共に』

 手紙には、そう一言だけ書いてありました。
 ほんの一瞬気持ちが騒めき、揺れ動きましたが、自分でも不思議なくらい、冷静で居られています。

「リリア、悪いけれどお茶を淹れてくれる?」

 何を考えるでもなく、リリアにお願いしました。

「は、はい」

 先ほど私が淹れかけ、そのままにしていたお茶を、リリアが手際よく淹れ直してくれます。
 何度、その所作を見た事でしょうか、数えきれないほどなのですが、見飽きる事が無く、何だか、お茶が飲みたいのか、リリアのお茶を淹れる所作が見たいのか、分からなくなってしまいます。

 待つことしばし、その間、何も考えずに、ただ、リリアの所作を見詰めていたのは、ハッキリとした理由がある訳ではありませんが『リリアと共に』の言葉の意味を、その言葉通りにリリアと一緒に考えたかったからかもしれません。

「はい、どうぞ、お嬢」

 リリアも、お茶を淹れている間に、すっかり落ち着いたようです。

「落ち着いた?」「いやですね、私は何時だって冷静ですよ」「あんなに舞い上がっていたのに?」「お嬢にだけは言われたくありませんね」「どの口が言ってるの?」「それは、私の台詞です」「そうやって、また、主人をないがしろにして」「そうやって、また、主人面して」「むっきー! 何だとー!」「何だとは、何ですかー!」

 あー、可笑しい、いつも通りのリリアに、改めて尋ねました。

「ねえ、リリア。『リリアと共に』この意味は何だと思う」

 さて、何と答えるのでしょうか、無難なところで『リリアと共に、仕事をするのを楽しみにしています』とでも、言うのでしょうか。

「あら、お嬢には分からないのですか?」

 平然として淡々と、思いもよらぬ態度で、思いもよらぬ答えが返って来たので、私の方が泡を食ってしまいます。
 ちょっと悔しいから意地悪しちゃいましょう。
 皮肉に甘い蜜を、たっぷりと塗りたくって問い掛けます。

「あら、分かっているわよ『リリアと共に、一生を過ごしていきたい』と、続くのでは?」

「まさかぁ~」

 私の必殺技もリリアには通じません!

「ふすん!」

 てっきり、慌てふためきオロオロするかと思いきや、鼻で笑われてしまいました。

「いいですか、お嬢」

 リリアは自信満々、胸を張って、指を上に一本伸ばして、何度か振りながら言います。
 
「『リリアと共に』『エレナ姫を守らん』と、続くのですよ」

「な!…………」

(くっそー! 返り討ちだ。られたー!)
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