53 / 63
51・や、や、やられた~!
しおりを挟む『リリアと共に』
手紙には、そう一言だけ書いてありました。
ほんの一瞬気持ちが騒めき、揺れ動きましたが、自分でも不思議なくらい、冷静で居られています。
「リリア、悪いけれどお茶を淹れてくれる?」
何を考えるでもなく、リリアにお願いしました。
「は、はい」
先ほど私が淹れかけ、そのままにしていたお茶を、リリアが手際よく淹れ直してくれます。
何度、その所作を見た事でしょうか、数えきれないほどなのですが、見飽きる事が無く、何だか、お茶が飲みたいのか、リリアのお茶を淹れる所作が見たいのか、分からなくなってしまいます。
待つこと暫し、その間、何も考えずに、ただ、リリアの所作を見詰めていたのは、ハッキリとした理由がある訳ではありませんが『リリアと共に』の言葉の意味を、その言葉通りにリリアと一緒に考えたかったからかもしれません。
「はい、どうぞ、お嬢」
リリアも、お茶を淹れている間に、すっかり落ち着いたようです。
「落ち着いた?」「いやですね、私は何時だって冷静ですよ」「あんなに舞い上がっていたのに?」「お嬢にだけは言われたくありませんね」「どの口が言ってるの?」「それは、私の台詞です」「そうやって、また、主人をないがしろにして」「そうやって、また、主人面して」「むっきー! 何だとー!」「何だとは、何ですかー!」
あー、可笑しい、いつも通りのリリアに、改めて尋ねました。
「ねえ、リリア。『リリアと共に』この意味は何だと思う」
さて、何と答えるのでしょうか、無難なところで『リリアと共に、仕事をするのを楽しみにしています』とでも、言うのでしょうか。
「あら、お嬢には分からないのですか?」
平然として淡々と、思いもよらぬ態度で、思いもよらぬ答えが返って来たので、私の方が泡を食ってしまいます。
ちょっと悔しいから意地悪しちゃいましょう。
皮肉に甘い蜜を、たっぷりと塗りたくって問い掛けます。
「あら、分かっているわよ『リリアと共に、一生を過ごしていきたい』と、続くのでは?」
「まさかぁ~」
私の必殺技もリリアには通じません!
「ふすん!」
てっきり、慌てふためきオロオロするかと思いきや、鼻で笑われてしまいました。
「いいですか、お嬢」
リリアは自信満々、胸を張って、指を上に一本伸ばして、何度か振りながら言います。
「『リリアと共に』『エレナ姫を守らん』と、続くのですよ」
「な!…………」
(くっそー! 返り討ちだ。殺られたー!)
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

【書籍化・取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない
gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる