公爵令嬢走る!/恋の闘争・正義は我にあり 序章

ペンギン饅頭

文字の大きさ
上 下
50 / 63

閑話・大号泣! 大感激! 大感謝!

しおりを挟む
「お姉さんたちの前で悪いけど、正直言ってアメリアが嫌い。お金が戻ってきたとは言っても、婚約者を人質に取られ、1年間嫌がらせを受けてきた」

「改めて、妹に代わって謝罪します」

「最初から「太陽の指輪」のリスクを話してくれたら、流れが違っていたかも知れないのに。なんで嫌われることを選んだんだ・・」
「それは400年前の魔王討伐の真実を知る、妹の思い込みが、そうさせたのです」

「400年前の魔王戦といえば、勇者アンだな」
「システィーナみたいな普通の街娘が勇者の祝福を受けて始まる、成長物語だよね」

「仲間も私達みたいに同じ年の女ばかりで、若い冒険者との恋物語あり、友情物語ありの人気ナンバーワン勇者だ」

「しかし、魔王討伐後の物語はご存知でしょうか?」
「・・そういえば、ないね。他の勇者みたいに国を興したとか、故郷で再び活躍したとか」

「ウエス家だけに残された真実があり、アメリアは幼少時代から何度も読んで、恐れておりました」


◇◆勇者アンと聖女アイーシャ◆◇
 
400年前、勇者にアンという東方に住む17歳の街娘が選ばれた。拳聖ティナ、賢者ルカ、聖女アイーシャも17歳。

出身地、身分はバラバラでも、たちまち四人は仲良くなった。

しかしこのオール女子パーティーには、隠された懸念材料があった。

聖女のアイーシャが当時、聖痕を持つウエス家の女性四人の中で一番魔力量が少なかった。
恐らくアメリアよりも。

神器に「光のオーロラを放つ虹の指輪」、「魔王の闇を阻害する聖結界の指輪」を授かっていれば、また話は違っていたであろう。

しかし、よりによってアイーシャに不向きな「勇者が必殺技を撃つ魔力を聖女から搾り取る、太陽の指輪」を女神から渡された。

聖女アイーシャは、仲間に真実と嘘を織り混ぜて話した。

◇太陽の指輪は勇者アンに必殺技を使わせるための道具である。
◇太陽の指輪を使うには、自分の魔力量がほんの少し足りない。
◇使えば魔力回路が破損して、二度と魔法が使えなくなる可能性がある。

嘘である。
魔力量はまったく足りない。
使えば、高い確率で死が待っていた。

光明はあった。物語にあるように、勇者アンだけでなく拳聖、賢者も神器に高い適正があった。

勇者アンは、すでに親友となったアイーシャに神器を使わせないため、努力した。
わずか半年で神器カッティーナを覚醒させた。

さらに半年、アイーシャも魔力量を増やす訓練を重ね、勇者らもグングン力を付けていった。

しかし、ダメだった。

決戦の日、魔王に勇者アン、拳聖ティナ、賢者ルカは神器を解放し、聖女アイーシャも聖痕で闇の結界を弱めた。

アイーシャは、神器「太陽の指輪」を使わずに生き残れるかと期待した。

だが決め手がなく、戦いが長引いた。
動きが悪くなった拳聖が魔王の爪で左腕を切り裂かれた。
助けに入った賢者は魔王の火炎で左足にやけどを負った。

3人の親友を守るため、聖女アイーシャ覚悟を決めた。
そして、限りなく軽い口調でアンに向かってつぶやいた。
「アン、あなた達3人にデンスの丘を見せたかったわ」

「太陽の指輪」を発動させた。

聖女アイーシャから飛び出した光の龍が勇者アンの中に入った。

アンの体が輝き「ライトニングダスト」を魔王に撃ち込むと、たまちまち魔王は崩れた。


アンは急いでアイーシャの元に駆けようとして、背筋が冷たくなった。
遠目に見えるアイーシャが別人に見えるのだ。
まるでデンスで会ったアイーシャの母親、いやそれ以上に老けたように感じる。
ティナとルカもやってきたが、言葉をなくした。

アイーシャからアンに送られた光の残滓がまだアンに向かって飛んでいた。

アンは慌ててアイーシャの「太陽の指輪」を外した。
だか指輪は中空に浮いたまま、アイーシャから最後の命の光を搾り取り、アンに貢いだ。

アンは吐いた。



◆◆
魔王討伐後、出迎えた騎士隊の前には事切れた老婆を背負った勇者が現れた。

老婆の背中や腕さすりながら拳聖、賢者もゆっくりと近付いてきた。

異様な凱旋だった。


聖女と恋仲だった若い騎士が、涙をこぼしながら老婆を受け取った。

老婆の首には彼が贈ったネックレスがかけられていた。
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

夫のかつての婚約者が現れて、離縁を求めて来ました──。

Nao*
恋愛
結婚し一年が経った頃……私、エリザベスの元を一人の女性が訪ねて来る。 彼女は夫ダミアンの元婚約者で、ミラージュと名乗った。 そして彼女は戸惑う私に対し、夫と別れるよう要求する。 この事を夫に話せば、彼女とはもう終わって居る……俺の妻はこの先もお前だけだと言ってくれるが、私の心は大きく乱れたままだった。 その後、この件で自身の身を案じた私は護衛を付ける事にするが……これによって夫と彼女、それぞれの思いを知る事となり──? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【書籍化・取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...