公爵令嬢走る!/恋の闘争・正義は我にあり 序章

ペンギン饅頭

文字の大きさ
上 下
48 / 63

47・花ことば、素敵な言葉です。

しおりを挟む
 
「お嬢、開けて下さい」

 リリアの、とても綺麗な艶めいた真珠色の爪に彩られた、スッと伸びた細く長い指が、そっと机の上の封筒を、私に向けて押し返してきました。

(爪の先まで、隙が無くきれいなんだよな~)
 
 頬を染め、恥じらいながらも、こうなったらテコでも譲らないのは、長い付き合いですから、良く知っています。
 その、あどけない微笑みが、何だかとてもいじらしくなってしまい、毒気を抜かれたというか、昨日、エドアルド商会の帰りの馬車で感じた『胸の奥に隠れていて気付かずにいた、ドス黒い物』も、何だか微妙に薄らいでしまった気がします。

 私は封筒を、ただ黙って頷いて受け取り、一度押し抱いてから、ペーパーナイフを手にして、慎重に、慎重に、封蝋ふうろうを剥がしました。
 封を開けると、甘い蜜の様な香りが匂い立ってきて、中には羊皮紙ではなく、東方の国の、珍しい『紙』が、小さく折りたたまれて入っていました。
 これもまた、慎重に、慎重に、取り出そうとすると、一緒に小さな、それはそれは可愛らしい押し花も入っていたから驚きです。
 
「ぷっ!」

 エドがどんな顔して、この押し花を選んで、封筒の中に入れたのかと想像したら、吹き出すのも無理のない話です。
 リリアが怪訝けげんな顔をして、小首を傾げます。

「リリア、手を出して」

 リリアは何をされるのかと、こわごわ手を差し出しますが、その手首をしっかりと掴んで引き寄せ、押し花を、そっと、手のひらに乗せてあげました。
 緊張していたのでしょうか、少し汗ばんで、しっとりとした手の平に乗せた押し花は、心なしか精気を取り戻し、色付いたかのように見えました。

「……ん゛?」

 リリアは何を乗せられたのかと、空いた手で何度と無く、瞼をこすりつけました。

(眼が真ん丸だ―!)

 そのまま摘まみ上げ、陽にかざして、まじろぎもせず、食い入るように見詰めながら、心ここにあらず、といった様子です。

「……お嬢、これ……何という名の花でしょう?」

 手にした押し花をクルクル回して、めつすがめつ、随分と長い間見ていた挙句に出て来た台詞が、また、何とも乙女ではありませんか。
 押し花に気を取られている場合じゃないでしょうが。
『ふんす!』と、荒い鼻息一つで、その押し花を吹き飛ばしてやろうとしましたが、かろうじて思いとどまりました。
 言われてみれば、確かに見た事の無い花です。

(はっは~ん、『花ことば』を知りたいって事ね!)

 リリアが乙女すぎです!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【書籍化・取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...