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43・横顔が透き通って見えました。
しおりを挟む扉を叩く音が響きました。
「お嬢様、エドアルト商会からの書簡が届いております」
部屋に入って来たのは給仕長でした。
普段はちょっと苦手にしているのですが、救いの神が訪れてくれたかのように、大喜びで迎え入れます。
「わざわざありがとうございます」
「どういたしまして」
ドレスの裾を摘まみ上げ優雅に挨拶を交わして、私の丁寧な応対に満足気に、給仕長が部屋を後にするなり、邪魔くさいドレスの袖をたくし上げて、分厚い封筒を机に放り投げました。
「さあ、リリア、急ぎ開けてみて、早く、早く」
「は~い」
話を蒸し返されないように、ことさらリリアを急かしました。
話の腰を折られて不満気な返事をするも、リリアはペーパーナイフを手にして慎重に封を開けて、中の羊皮紙の束を取り出し、机の上に几帳面に並べます。
「『設備投資概要』『事業概要及び出店販売計画』『契約書草案』の三通ですね」
「販売計画は私に頂戴。後はリリアが確認してくれる」
「分かりました」
リリアが居ずまいを正して椅子に腰掛け、冊子状に綴じられた羊皮紙を手元に引き寄せ、物柔らかに開き、目を通し始めると、とたんに雰囲気が変わりって、何だか、リリアが光の粒を纏い、ぼんやりと明るくなったようにも見えました。
何とも謎めいたリリアの佇まいに目を奪われてしまいます。
(うわ~、きれいだー!)
って、そんな悠長に構えている場合ではありませんでした。
私も早速、冊子を手にします。
表題の文字は見覚えのあるエドの字体です。
中身もエドの直筆で、細かい項目がミッチリと書かれています。
読み進めていくと、昨日の今日で、これだけ綿密な計画を記された書類を用意できるはずもありませんので、かなり以前から周到に準備されていた事がうかがえます。
さらに夢中になって読み進めていくと、ふと、耳鳴りがして、痛いぐらいの感覚を覚えました。
辺りが静寂に包まれているのです。
時折、聞こえる、リリアが羊皮紙を捲る、かすれた音が耳にではなく身体全体に、得も言われず心地良く、染み入るように聞こえてきます。
雪の日の朝みたいなものでしょうか、雪が雑音を消し去るように、リリアの書面に目を通す集中力がそうさせているのでしょう。
少々、喉の渇きを覚えましたが、リリアに声を掛けるのもはばかられ、代わって、お茶を淹れようと静かに席を立ちました。
その準備をしている時です。
私の眼の端に、はっきりと何をしたかは分かりませんが、リリアの不自然な動きが映りました。
些細な、取るに足らない動きだったのですが、妙に気になりました。
(リリアはいったい何を!?)
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