公爵令嬢走る!/恋の闘争・正義は我にあり 序章

ペンギン饅頭

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25・お尻を振っても、何が何だか。

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「お茶が旨すぎるのです」

『天使の襲撃』が去って行き、ぐったりしてしまった私に、リリアがやけに難しい顔をして言いました。

「何? 美味すぎるって?」

「カロリーナ様とカルロ様、お2人には丁度いいと思うのですが、私達には旨すぎてしまうのです。もう少し苦めで、香りの立たないお茶がこの焼き菓子には合うと思いますね。……そうです、この焼き菓子の名前を考えなくてはいけませんね」

 あ! ちゃっかりしています。
 リリアが小さい紙袋を摘まんでプラプラと振りかざします。
 全部出したかと思いきや、焼き菓子をまだ隠し持っていやがるではありませんか。

「お嬢、行きますよ!」

 リリアは食材棚にある茶葉では、焼き菓子に合う納得のいく組み合わせが出来なかったようで、調理場に忍び込むと言い出したのです。
 疲れ切ってはいましたが、リリアのお選んだお茶で焼き菓子を食べてみたいと思いましたし、外の新鮮な空気を吸いたいと思いましたので、付き合う事にしました。

 調理場に着くと窓越しに部屋の中から、小さな灯りが揺らめいていました。
 
 こんな時間に誰だろうと思う間もなく、リリアが口に手を当てて『静かに』と合図を送って来て、窓際に身を寄せて調理場の中の様子をうかがいます。
 更に私に向かって手を振って『遠くに離れろ』と合図を送って来ました。
 リリアの方を見ながら、そっと足音を立てぬよう一歩踏み出そうとすると、リリアの眼が見開かれ驚きの表情を浮かべます。
 何事? 小首を傾げてリリアを見詰めると、額のところで指を一本立てて、調理場の中を指差します。

(なんじゃそりゃあ!?)

 私がピンと来ないのを責め、苛立つように何度か同じ動作を繰り返すのですが、分からないものは分かりません。
 身振り手振りで伝えるのを諦め、扉に手を掛けそっと開けて上半身だけ差し入れて、更に中の様子を詳しくうかがい始めると、今度はお尻を振り始めるではありませんか。

 うん、尚更、訳が分かりません。

 それにしても綺麗なお尻が艶めかしく動きます。
 ただ、その美しさを見せつけたいだけなのでしょうか? 

 頭を入れたまま手招きしますので向かおうと足を踏み出すと、案に相違して床が大きく軋みました。
 どうやらその音で調理場の中で何らかの動きがあったようで、リリアは頭を出して、諦めたように首を二度三度横に振ると、扉に手を掛け開け放って言います。

「ロッソ様、こんな所で何をなさっていらっしゃるのですか?」

 ロッソ様!?

 あぁ、成る程、先程の仕草は赤鬼の角を示していたという事ですか……って、そんな事に納得している場合ではありません。

 何故こんなところに赤鬼が!
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