公爵令嬢走る!/恋の闘争・正義は我にあり 序章

ペンギン饅頭

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17・うわぁぁ、震えが止まらないじゃありませんか。

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 背すじが震えます。

 エドのその面魂を見せつけられて確信しました。
 商機を逃してはいけないと。
 交渉事は即断即決、相手に有無を言わせぬ気迫です。
 席を蹴立てて立ち上がり、テーブルに掌を叩きつけ、上から見下ろし、エドの視線を跳ね返すようにして言い放ちます。

「出資させて頂きたいわ! 条件は投資金の全額負担、原材料を含め商品に対する輸出入関税免除、商業ギルドを通さず独占販売権の確保、そして、全権代理人として、リリアの監査役としての受け入れです!」

「悪く無い、いや、願っても無い条件だが、公爵様に無断で宜しいのかな?」

 勢いに押され、たじたじとなるエドにさらに追い打ちです。

「勿論よ。詳しい投資概要、販売計画と契約書の作成をお願いしますわ」

 エドは大袈裟に肩をすくめ、手を広げて首を横に振って、降参だよとでも言いたげに。

「相変わらず、お嬢は頭の回転が速いというか、機をみるに敏で利に聡いというか、公爵令嬢などにさせておくのは実に惜しい」

 エドの返答に、先程とは違う震えが全身を巡り、抑えることが出来ません。



 一つ間違えれば侮蔑罪で首が飛びます。
 そんな一言を平然と口にするエドの豪胆さ、いえ、違います。
 豪胆なようでいて、常に周囲に目を配り、ほんの些細な言葉の端にも細心の注意を払うエドです。
 私の心情を的確に汲み取ってくれているのに違いありません。

『公爵令嬢などに』

 私が何よりも望んだ素敵な褒め言葉ではありませんか。
 城館という名の籠の中の鳥、ただ城館に彩りを添えるためだけの、壁の華、はい、はい、どうぞ無作法に何とでも言ってください、ええ、その通りの不自由な御身分です。
 叶うならば『公爵令嬢』などという下らない身分などドブにでも叩き込んで、エドに従い商人になって、一歩踏み出せば乗り込める帆船で、海の向こうの世界に走り出したいです。

 リリアも十二分に私の心情を理解してくれているのでしょう。
 普段でしたら、私や御家を侮蔑するような文言には過敏な位に反応するのですが、微笑みながら羨ましそうに私とエドのやり取りを見詰めていました。

 すると、リリアがすかさず立ち上がり、手を差し伸べて言います。

「エド小父様、よろしくお願い致します」

 流石リリアです。
 勢いに乗じる交渉事の機微を良く理解していて頼もしく思います。

「リリアにまでそう言われたら断るに断れないし、私もリリアと組んで仕事ができるなんて願ったり叶ったりだよ」

 エドとリリアに交わされた手の上に、しっかりと両手を乗せました。

「良い商談が出来たわ」

 乗せた両手が震えました。
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