公爵令嬢走る!/恋の闘争・正義は我にあり 序章

ペンギン饅頭

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14・何を言い出すかと思いきや、勘弁して下さい。

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「如何したのですか、突然?」

 リリアは少々お冠の様子です。

「いいから! 行くよ」

(あ! 分かった)

 リリアに普段使わないような、ぞんざいな言葉を投げ掛けて気付きました。
 普段のドレス姿と違う衣装や、街中の活気あふれる喧騒に包まれて、そして、何より、この何処までも広がる青い空に、幾分開放的になっている自分が居るのです。
 先程、ランツ様に抱いた『想い』は、その所為で、気の迷いに違い……違いありません!

 何だか泣きたくなってきました。

 でも、無理にでも気の迷いと思わなければ、踏ん切りのつけようがないではありませんか。
 
 そうだ! 良い事思いつきました。

「ねえ、リリア」

「何ですか?」

「お父様に仲立ちをお頼みするわ。ランツ様にとつぎなさい!」

「はあ~~~!」

 思い付きを口にして、言葉にして表した途端、なんて素晴らしい考えなのだろうと胸が躍りました。
 お父様に仲立ちをお頼みすれば間違いありませんし、他の誰でもない、リリアとならばお似合いですし、私も納得がいき……無理にでも納得します。
 2人並んで仲睦まじくしている姿が浮かんできました。

「お断りです!」

 ほんの一瞬、動きが止まり突拍子もない声を上げたリリアですが、期待した通りの慌てふためく反応は無く、躊躇ためらうことなく、断固とした口調で言い放ちました。

「何故!?」

「つまらないからに決まっています!」

「つまらない?」

「強く、優しく、美しく、あんな素敵な殿方はいらっしゃらないと思いますが、真っ直ぐで、清々しく、お嬢みたいなが出来るはずがないからです」 

 むっきー! 随分と横柄な口振りではないですか。
 往来のド真ん中で立ち止まり、人目もはばからず声を荒げてしまいます。

「ちょっと、待ってよ。それじゃあ私が腹黒の性悪女みたいじゃない、それに何、『悪巧み』が面白いとでも言いたいの?」

「違うとでも?」

 リリアは腰に手を当て前屈みになって、首を傾げて下から覗き込むようにして視線を投げつけて続けて言います。
 
「申すもはばかられる事ながら、先程のランツ様の言いざまは、子供が強者に憧れているような単純なもので、その様な殿方の側にいて何か面白い事が起きるとお思いですか?」

 確かにランツ様は赤鬼が御家に与える影響を、武力強化という単純な一面での見方しかしていません。
 決して知能が劣っているという訳ではありませんが、そこがランツ様の思考の限界なのかもしれません。

「でも、リリアはランツ様を夢見る乙女の眼差しで見ていたわ」

「それは、美しい一幅の絵画を見ているようなものです。好いた殿方の家庭に入って、子を育て、それが一番女にとっての幸せであるという意見を否定はしません。ええ、否定はしませんよ」

「……」

 リリアは目を細めて、腕を組み、足を小刻みに揺すり苛立ちを隠そうともせず、地に唾を叩きつけるようにして言います。
 
「あー! もう、お嬢の隣に立っている事より面白い事は無いでしょ! 私は離れるつもりはないから」

(あ! なんてこったい! そうきたか)

 私はリリアの視線から逃れるように、ただ真っ直ぐに前を見据えて、

 走り出します!
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