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30・お料理研究家ですか!?
しおりを挟む『オドレエタ!』
マリが呆れ顔です。
「皆さん食い意地が張っていますからね」
魔王様が不貞腐れています。
マリの腹積もりでは朝食兼昼食として、私達だけでなく試食に訪れる方々にも、合間に小腹が空いたら軽く摘まんで頂けるように、わざわざ油紙で包んだというのに、あれだけあったパンを全部食べてしまいました。
まあ、私も食べ過ぎてしまったとは思いますが、誰よりも凄い勢いで食べていた御方は蝶々の姿に戻って、私のお乳の谷間でお昼寝中で、
『ロキちゃ~ん。お昼ごはんになったら起こしてねぇ~』
との事です。
腹ごしらえも済み、マリ達は総料理長達を迎え入れる準備を始めました。何故か勇者が一番張り切っているのですが、みんなの足を引っ張らないか心配です。準備が終わる頃合いに、折良く総料理長一行がやって来ました。早速とばかりに「きやがったな!」マリは総料理長のお腹に挑んで「つよすぎます!」弾き返されています。倒れそうになったマリを料理長が抱え上げると、大喜びで、
『リョウリチョウサマ、オイデヤス』
と、そこ迄は良かったのですが、その後に続いて入室して来た見知らぬ料理人さん達を目にすると、途端に尻込みをしてしまい、総料理長のお腹の後ろに隠れてしまいました。
「ほら、マリ、皆さんにご挨拶は?」
「う゛~」
促しても総料理長のお腹にへばりついて、離れようとしません。人懐こい反面人見知りをするという、面倒な性格は相変わらずです。
『ロキエル様、お気になさらずに、料理の準備は出来ているようにお見受けしますので、早速お始め頂ければ結構です』
「マリ、総料理長が始めてって」
「わかったぁ~」
マリのテンション、ダダ下がりです。気の抜けた返事をして、こそこそと総料理長のお腹の陰を抜け出して、ラビちゃんとウルちゃんに何やら耳打ちをします。
するとラビちゃんが焜炉の前に立ち、
『こちらで「ピザソース」と、お野菜の「ピュレ」と、お豆の「カスレ」を作りますのでお集まりください。何名かの方には、お手伝いをお願いします。作業台の方ではウルが「ピザドゥ」の作成と「ピザ」の具材の切り出しと「コンフィ」の下準備を始めます。それぞれ調理手順と食材分量は指示書をご参考にして下さい』
おー! ラビちゃん仕切ります。いつもは引っ込み思案なラビちゃんが、えらく頼もしく見えます。
ん? ウルちゃんが私の許に駆け寄って来ます?
『っス。ロキエル様、失礼しまっス』
失礼? ウルちゃん何を……。
いきなり私のお乳を鷲づかみでモニュモニュします!?
『ロキエル様、こんな感じっスか?』
ウルちゃん、大真面目な顔で言うものですから文句の一つも言えません。
『うん、そんな……かんじ? かな?』
『分かったっス!』
それはなにより。
『う~ん、ロキちゃん、お昼ごはんですかぁ~』
揺れて目が覚めたのか、ココ様が寝ぼけた声を上げると、スンスンと鼻を鳴らしましたが、
『ちがいますぅ~』
と、言って、またお乳の谷間に潜り込んでしまいました。
『ロ、ロキエル様、まさか今のは……』
『ま、まさか……』
『あ~、お二人とも気にしなくて結構です。ただの大喰らいが紛れ込んでいるだけですから』
総料理長と料理長が驚きで顔を蒼ざめさせるのを、魔王様が諌めました。
『魔王様! 迂闊にも気づかない……』
『あぁ、私的に伺っただけですから、堅苦しい挨拶は結構です』
総料理長の言葉に反応して、総員が拝跪しようとするのを押し止めます。テーブルの隅っこでいじけて背を向けて、丸まっていたので気付かないのも当然です。
何だかその後ろ姿が妙に哀れに思えてきてしまった……その時です。
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