上 下
6 / 72

 6・コンフィ談義。

しおりを挟む
 
「勇者さま。てつだって!」

「喜んで! 何するんだ?」

 私も何か手伝おうかと腰を浮かせて、口を開こうとすると、

「ロキは、いらない!」

 なにをー! あんまりといえば、あんまりです。

「ぷっ!」

 むっきー! 勇者があざけりの含み笑いを漏らしやがりました。空の彼方へと蹴り飛ばしたいのを我慢しました。ここで怒り出したら、何だか負けのような気がしたからです。

「勇者さま、この岩塩を、粉々にして!」
「お安い御用だ」

 勇者は岩塩の欠片を無造作に握りつぶすと、文字通り粉々です。力だけは有り余っているんですよ、この男。

「次は、その岩塩をカモさんに、よくすりこんで!」
「どんな感じでだ?」
「ロキの、お乳をもむ、かんじ!」
「おー! こんな感じか? どうだ、いいのか?」
「勇者さま、じょうずー!」

 男ってホントしょ―も無い生き物です。呆れて怒る気にもなりません。マリも褒めない!
 すると、マリは食材庫から、密閉瓶を持ち出してきました。中身は毒々しいぐらいの緑のペースト状の……香草のオリーブオイル漬けですね。

「勇者さま、これも、すりこんで!」
「マリ、俺の手、脂ぎっているから、何か器に開けてくれ」
「わかったー!」

 何だか、マリと勇者の息がピッタリと合っています。不思議な事にその光景を見て、イラつくどころか、癒されている私がいました。
 ちょっとした気の迷いに違いありませんね。

「うんしょ、うんしょ!」

 マリが食材庫から今度は重たそうに、大きな鉄の平鍋を持ち出してきました。

「マリ、それ、なーに?」
「らーど!」

 ラード? あぁ、豚の脂ですね。

「お! 何だ、マリ。鴨のコンフィ作るのか?」
「おーあたり!」
「へぇ~、コンフィってラードで作るの。知らなかったわ」
「いろいろ。オーリブオイルだったり。カモさんの脂だけで作ったり。マリはラードの風味が、くわわるのが、すきなの!」
「コンフィって油で揚げるというより、低温でじっくりと煮るのでしょ? 何度ぐらいで、何時間ぐらい?」
「五~六十度ぐらいで、三時間ぐらい」

 温度調節機能があれば簡単なのでしょうが、一家に一台給仕長がいれば良いのですね。でも、さすがに三時間魔法を掛けっ放しという訳にもいきませんか。

「それとマリ、わがまま言うようだけどよ、鴨のコンフィといえば、やっぱりカスレだよな。豆は無いの?」
「白いんげん豆があるよ。カスレ作ってあげる」
「マリ。カスレはどうやって作るの?」
「お肉のスープのストックで、お豆を煮て……勇者さま、トマト味にする? それとも赤ワインか白ワインで煮る?」
「いいね、いいね。トマト味で唐辛子も入れて、ピリ辛のチリコンカルネ風がいいな」
「わかったー!」

 なぜマリは勇者に聞く! そして、なぜ素直に言う事を聞く! 
 まあ、それは良いとして、あの肉汁のスープで煮込んで、トマトで味付けした、ピリ辛のお豆ですか、

「想像しただけで美味しそうです」

 私が思わず独り言のようにつぶやくと、勇者がまた余計な口を開きます。

「なあ、マリ。ロキエルが何か言っているけど、働かざる者、食うべから……あ゛んがー!」

 学習しない男ですね。

 やはり先ほどの癒しは気の迷いでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

処理中です...