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32・不安は募る。
しおりを挟む翌朝、執務室にいます。
マリと一緒です。忌々しい事に勇者も長椅子で、寝転がっています。
「ねぇ、マリ。何か手伝う事ないの?」
「だいじょーぶ! 昨日、勇者さまに、やってもらった」
勇者に? 何をやってもらったのでしょうか、不安すぎます。
マリは、後は大丈夫だからと、開発室に向かいました。私も一緒についていこうとしたのですが、
「う~ん、ひとりでやる」
と、寂しがりのマリとしては、非常に珍しい事なのですが、ひとりで集中したいのでしょうか?
「勇者、昨日、何をしたの?」
勇者に問いかけると、のそのそと起き上がり、寝ぼけまなこで、
「ふへぇ?」
地の果てまでも、殴り飛ばしたいのを我慢しました。
「昨日、マリの手伝い、何をしたか訊いているの」
「あぁ、福引のガラガラ」
何を、訳の分からない事を言っているのですか、このヨゴレは。しっかりと目を覚ましてやろうと、拳を握り締めると、ぼさぼさの頭をポリポリ掻きながら、
「何て言ったっけ、あの……そう、遠心分離器」
「バターを作ったのですか?」
「そうそう」
「他には?」
「ピザドゥこねるのと、何だが薄ぎたねぇ石で、まな板作ったな「勇者さま、これうすく切って」って言うから、衛兵のくせに生意気にも、ミスリルソード腰にしていた野郎が居たから、借りてきてな」
借りて来た? 奪ったの間違いでしょうが、事情を聞くと面倒な事になりそうなので、無視します。
「まな板? 何に使うのですか?」
「俺も聞いたけど「ないしょー!」だって」
勇者は、そう言って、人差指を立てて、口元を押さえます。汚いです。
「なあ、ロキエル、本当に大丈夫かな?」
勇者らしくありません。ゴロリと寝っ転がって、不安気に口にしました。
「所詮、旨い不味いなんて主観だろ、私は美味いと思いませんと言ったらそれまでだろ」
「私達は何もできないのだから、マリを信じるしかないでしょう」
「まぁ、俺もあのカレーやピザ食ったら信じるしかないわなぁ。久しぶりとか、郷愁の念、まあ、そんなのあまり無いんだけど、そういうの関係無しに、抜群に美味かったもんなぁ」
「確かにね」
「それで、相談なんだけどよ。ふざけた事言いだしたら、暴れてやろうかと思うんだけど、ロキエル、魔王抑えられるか?」
「魔王城ごと吹き飛ばせても、魔王様は無理ね」
「魔王って、そんなに強いのか?」
「強い弱いでいったら、決して、そんなに強くはないと思うけれど、なにせ、次元を歪められるでしょ。近頃、技に磨きがかかっているみたいだし、無詠唱、無触媒で、なおかつ、気配を悟らせずに転移魔法を発動させるなんて、聞いた事ある?」
「あぁ、バケモンだ」
「まあ、今そんなこと考えても仕方が無いですし、出たとこ勝負ですね、やる時はやりますよ、私も」、
「そうか、ならいいや、魔王もマリには悪い様にはしないだろうしな」
勇者は試食会までに所用を片付けて来る、と言って外出しました。
入れ替わるように、扉が開きました。ノックが無いのはマリです。
「ロキ! お肉焼けた!」
☆彡
第1話に続きます
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