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30・本日のスペシャリティ。

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『楽しそうですね』

 魔王様がポツリとつぶやきました。

 早々に、ピザを食べ終わって、次のピザはまだかと、マリたちの方を見て、心待ちしていた時です。彼女たちの立ち居振るまいは、楽しそうなだけではなく、ひとつひとつの動作が、弾むような躍動感に満ちあふれ、まるで、一場の舞を見ているようで、目を奪われてしまいます。

『ええ、本当に』

 給仕長が、優しい笑みをたたえて、答えました。

『ええ、本当に』

 給仕長の言葉をなぞり、私も頬を緩ませました。 

『ラビト、ウルモ、セキニツイテ、クラエ』

 マリの声が聞こえました。
 ラビちゃんと、ウルちゃんがパーティーサイズの、やたらと大きなピザを、それぞれ運んできます。

『これは、また、随分と豪華ですね』

 魔王様の仰る通り、具材がたっぷりと、並べられています。
 ラビちゃんと、ウルちゃんが、自ら作ったピザですね。
 ややもすればゴチャゴチャしてしまいそうなほどの具材の量なのですが、彼女たちは、美的センスがよほど良いのでしょう、見た目とても華やかで、実に美味しそうです。それぞれ取り分けて、みんなの前に提供してくれました。

『マリもああ言っているし、さあ、貴女たちも遠慮しないで、席に着いて食べましょう』
『はい、お言葉に甘えまして』
『楽しみっス』
『おい、俺の分はどうした?』

 この和やかな雰囲気をぶち壊すのは、もちろん勇者です。
 ―――チッ!
 ラビちゃんの、あからさまな舌打ちの音が響きました。うん、うん、その気持ち、よーく分かります。それでも渋々といった様子ながら、勇者にも取り分けてあげるのですから、優しい娘です。とても私にはできない芸当です。

「ロキ! スープとサラダ」

 マリがワゴンに小鍋と、大きなサラダボールを乗せてやって来ました。
 カップに注いでくれたのは、シンプルなコンソメスープ。取り分けてくれたサラダも、シンプルなコールスローです。お口直しには最適ですね。

 まずは、ラビちゃんの野菜たっぷりピザを。マリの作ったトマトソースは薄味ですし、下味の付いていない野菜が組み合わさると、ともすれば味気ないものに、なってしまいかねませんが、それをしっかりと塩味の効いた、ウオッシュタイプのチーズと、ブルチーズが受け止めていて、絶妙のバランスになっていました。マリが拗ねるのは必定ですから、決して口にはしませんが「マリのおすすめ」より、おいしいかも!?

 ウルちゃんの、お肉たっぷりピザは、見るからに食べ応えありそうです。お味もガツンとくる具材ばかりですから、エールが進む、進む。
 それからもマリナーラと、ラビちゃんの作ったキノコいっぱいピザとか、ウルちゃんの後乗せ生ハム山盛りピザとか、何種類かのピザをシェアして頂いて、試食会の終了と相成りました。
 すると、給仕長が立ち上がり、スカートを摘まみ上げ、優雅に一礼して、

『ロキエル様。このような素晴らしい、ひと時をお与え下さって、感謝の念にたえません』
『いえ、給仕長、私にお礼を言われても困ります。お礼なら、マリと、お手伝いしてくれた、あのたちに』
『……そうですね』

 と、言って給仕長は調理場で片づけをしているマリたちを、眩しいものでも見るように目を細めて見つめて、微笑みます。

『今日一番の御馳走は、マリさんと、あのたちの働く姿に違いありません』

 と、魔王様は、静かに仰いました。
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