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27・小さい国ごと、買えちゃいます。
しおりを挟む感動しちゃいました。
何の変哲もない、と言ってしまえばそれまでなのですが、もう、二度と食べる事の出来ないと思っていた、あの、味です。まさか異世界で、まるで日本のイタリア料理店で食べていたのと変わらない、マルゲリータが食べられるとは、思ってもいませんでした。カレーの時は、ただただ、何としても食べたい、という気持ちが先立ち、その美味しさにとらわれ過ぎた所為か、考えが及ばなかったのですが、今回は、マリの料理を食べるのも二度目という事もあり、じっくりと味わえたからでしょうか。
そんな、私の想いを、勇者が、露ほども汲み取ることができる筈もないのは、分かっています。
「なぁ、なぁ、ロキエル。それ俺んだぞ」
美味しいものを食べて、先ほどからの苛立ちも、すっかり影を潜めて、優しい気持ちになっていたので、仕方ありませんから、ひと切れだけ勇者に残してあげました。
『ロキエルさん、凄いですね、マリさんの作った、このお料理も。見た目からして、ナンと似通ったものかと思いましたが、とんでもない思い違いでした。こうして食べると、全く別物ですね』
『私も、お恐れながら、魔王様に同意でございます。何しろ、このお料理、ひと度口にすると「キンキンニ、ヒエタ」エールを飲むのを、止めることができません』
いや、給仕長、その気持ちは分らなくもありませんが、それは、貴女だけだと思います。
『給仕長の仰る通り、本当にエールが止まりませんね』
うん、魔王様。だから、それは貴方たちだけですって。
『俺も止めたくねえけど、ピザがねぇ』
アンタにゃ聞いてねぇ。
「マリのおすすめ、マリお手製アンチョビとニンニクのピザと、マリお手製腸詰とクレッソンのピザ、やけたー! チーズはゴーダだよー!」
これまた、マリは、やけにエールが進みそうなピザを作りましたね。ラビちゃんが、そのピザを運んできてくれたかと思うと、
「ロキ! 忘れてた~、これ、使ってー!」
ん? マリが妙に綺麗な小瓶をぶら下げてきました。
『マ、マリ様、それは!?』
突然、給仕長が立ち上がり叫びました。どうした? と、問う間もありません。私の目の前に置かれたのは、精緻な意匠が施された、燦然と光輝く、クリスタルの小瓶です。高い安いを語るような品物ではありません。滅多にお目にかかれない、超国宝級の逸品です。
マリは給仕長がクリスタルの小瓶を指差すのを見て、
『キュウジチョウサマ、コレハ、ピメントオイル』
そんな事、聞いてねー!
「ねぇ、マリ、その瓶どうしたの!? どこから持ってきたの!?」
「……ふぇ?」
愚問でした。こんな、お宝を所有している者など、他に知りません。えぇ、そうです。
私の目の前で、夢中でピザを食べている御方しか。
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