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14・カレー談義。
しおりを挟む「ロキエルさん、何かご不満でも?」
「魔王様、そう仰いますが」
「マリさんがご招待したのですから、丁重にもてなしてくだい」
「しかし……」
「貴重な日本人の稀人である、勇者様の、ご意見を聞かせて頂ければ、参考になると思いますが?」
「意見な、まかせとけ、マリの作った羊肉カレー、抜群に旨いぞ、そりゃもう、日本でも食った事ない位にな。でもカレーといったら、やっぱ、牛肉だろ」
「豚でしょ」
「インドでは鶏肉が一番一般的であるとお伺いしましたが、マリさんは如何ですか」
「う~ん、むずかしい。鹿さんかな?」
「あ~鹿かぁ。ステーキなら食ったことあるけど、旨かったなあ~。野性の肉って美味いよなぁ、脂身の無い綺麗な赤身肉で、上品な甘みがあって」
「うん、おいしー!」
「マリは分かってんな、だよな、鹿のカレー食ってみたいな」
「何故、マリさんは羊を選んだのですか?」
「痛みかけていたのを、いっぱい、もらったー!」
「痛みかけの肉でこれだけの物を……調理技術は無論の事、食材を無駄にしたくないという事ですか、マリさんは本当に優しいですね」
「えへへ~」
「私、インドカレーなら一番は羊ですよ。豚は大日本帝国海軍式カレーの場合です。馬鈴薯、人参、玉葱、う~ん」
「野菜のカレーもあるのでしょうか」
「カレーに合わない野菜を探す方が難しいと思います」
「ビーフサグ喰いてぇ」
「ビーフサグとはどういった?」
「牛さんと、ほうれん草!」
「ほうれん草をトロトロになるまで煮込んで、牛肉と合わせたカレーだよ」
「大変興味深いですね」
「私はダール、豆で作ったカレーですね。野菜だけで作ったとは思えないほどしっかりした旨味があって、インドではごく一般的な料理だそうです」
「ラビに作ってあげるー!」
「ベジタリアンの方にはもってこいですね。でも、マリさん、私にも食べさせてくださいね」
「もちろん!」
「でも肉が入っていないとやっぱり物足りないよな。俺は、日本式なら蕎麦屋のカツカレー、一択」
「鰹節や鯖節、炒り子や昆布という、こちらでは入手困難な、魚介系の特殊加工品で出汁を取って、作るカレーなのですよ。カツ、というのは、豚肉のコートレットの事です」
「ほぅ、それも興味深いですね、屋台で頂いた海老では如何です」
「美味しいですよ、海老カレー、エビミソを殻ごと炒めて出汁を取るのでしょ、コクのある旨味よね。マリ、エビミソの事なんて言ったかしら?」
「こらいゆ!」
「シーフードカレーも好きだ」
「シーフードって味が濁るのよね。特に貝類は旨味が強いから」
「海老でカレーを作るとしたら南インド風で作るのですか?」
「うん!」
「それは是非にも作って頂きたいですね」
「材料が、ない」
「代金なら、幾らかかっても構いませんが?」
「魔王様、代金の問題では無くて、使用する食材そのものが、いまのところ見つからない物があるのです」
「残念です」
「しかし、このカレー、金貨をすり潰して作っているようなもんだろ、まあ、それだけの価値があるのは確かだけどな」
「ロキエルさんの仰る通り、それこそ争乱の種になりかねませんし、今はまだ一般に広めるには無理がありますが、開発は必要でしょう」
「カレーの開発をしていたら一生かかるぞ」
「それは、マリさんにご指導して頂いて、別セクションを立ち上げますよ」
「随分と力を入れるんだな」
「マリさんの能力を十二分に発揮できるように、人員、設備、資材。あらゆる環境を整えますよ。人間界では不可能な事でもです。それだけの価値があるとお思いになりませんか?」
「世界中にカレーショップが作れるだろうよ」
「ご理解いただけたようで」
「そんなことを俺に話してもいいのか」
「何か問題でもございますか」
「勇者として世界の危機を感じるな。魔王による、人間界への経済侵略が始まるってな」
「阻止すると仰る」
「無理だな」
「さすが、勇者様、良くお分かりで。魔王軍の武力侵攻を止めることはできても、素晴らしい食文化の発展を止めることなど誰にもできないでしょうね、絶対に。カレーだけではありません。マリさんの知識と技術は無限ですよ」
「マリを……」
「マリさんにはロキエルさんが付いていますよ、どのような危機からも、マリさんを守り抜く事が出来るでしょう。憚りながら私も」
「……」
「これ以上は申し上げませんが。それに、ここで料理を食べる事が、出来なくなりますね」
「いや、それは駄目だろ!」
「勇者さま、いなくなっちゃうの?」
「マリさんは勇者様に、居て欲しいのですか?」
「うん!」
「分かりました、魔王城では自由に振る舞って頂けるよう、私からという事で手配しておきますので」
「……な!」
「ロキエルさん、くれぐれも、勇者様には失礼の無いようにお願いしますね」
「へ~い」
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