逢魔が刻の料理店／『双剣の陰陽師』『聖なる祓魔師』『厄災の魔導師』『ただの？調理師』ごきげんなスタッフが、皆様のご来店をお待ちしております！

４９・二日酔いで世界に危機が訪れました。

　
「日向！　大変なの」

　何事でしょう。
　店の前に、見た事も無いような高級自動車が止まると、アンが駆け込んできました。
　昼の賄いを作る前に客席で３人娘とお茶して、くつろいでいた時の事です。

　アンはは息も絶え絶えに倒れ込むようにして、リコの隣に腰掛けました。

「リコが居て助かったわ、お願いがあるの」

　アンははリコに寄り添って、耳元で吐息交じりに呟きました。
　私だったら瞬殺イチコロです。

「先生ど～したのですか～」

　アン渾身の一撃もリコには通じませんでした。
　リコは、だらしなく椅子にもたれ掛かったまま答えましが、いつになく間延びした声です。

「狂骨ノ魔龍が現れたの！」

　ハルに耳打ちして尋ねます。

「何なの？　狂骨ノ魔龍って」

「読んで字のごとく骨だけの龍の妖魔だ、またの名を不死の魔龍、洋風に言えばスケルトンドラゴン、ドラゴンゾンビだな。狂骨と言うのはポピュラーな妖魔で、何らかの怨念を持った死者が骸骨となって彷徨うのだが、龍とは珍しい。街の一つや二つ滅ぼす事など造作もない、天災級の脅威をもたらす厄介者だ。何を血迷ったかは知らないが結界が破れ、百鬼夜行が顕現する事に依って強まった妖気に誘われでもしたのだろう」

「大変じゃない！」

　思わず叫んでしまいました。
　
「先生が～お相手すれば、ぶちのめせば済む事ですわ～」

「いえ、私ちょっと調子が悪いの。アンデット系はリコが一番得意でしょ、ちょこっと行って浄化して来てよ」

　近所のコンビニに、買い物頼む訳じゃ無いですよね。

「私も、で～す。『力』を使う気分じゃ無いのですわ」

　気分の問題ですか！

　昨晩２人でどんだけ飲んだのですか、アンタ達２人とも只の２日酔いでしょ！

「分かったわよ、じゃあハルお願いできるかしら」

「先生の頼みとはいえ断る！　あんな食べるところの無い狂骨ノ魔龍など、倒す価値が微塵も無いではないか」

　え！　そういう問題なのですか、ハルも頬杖ついたまま面倒くさそうに答えます。

「マリが殺やるー！」
　
　マリがノリノリで飛び跳ねるように、立ち上がりました。

「それだけは駄目よ、マリが殺やったら、余計に被害が大きくなるわ」

　何時でも冷静なアンが泡を食って、マリを抱きかかえました。

「ぶーぶー！」

　マリは不服そうにジタバタしていますが、可愛いだけです。

　こうなれば私の出番ですね。
　街が壊滅の危機に瀕ひんしているのを、指を銜くわえて見ている訳にはいきません。

　私は勢い込んで立ち上がり、高らかに謳うたい上げます。


「貴女達は間違っている！」