逢魔が刻の料理店／『双剣の陰陽師』『聖なる祓魔師』『厄災の魔導師』『ただの？調理師』ごきげんなスタッフが、皆様のご来店をお待ちしております！

３４・一番は私に決まっています。

　
「はぁ、はぁ、な、何だこれは！？」

　パン屋さんまで結構遠いですが、駆け通しだったのでしょうか、息も絶え絶えにハルが帰ってきました。

「嫌ですわ、ハルはご存じないですの？」
「知っているに決まっている！　はぁ、なぜこんな物があるかを聞いている」
「日向に頼んだからに決まっていますわ」
「ハル、おみず！」
「うむ、済まん、マリ」

　うん、少し落ち着こうね、ハル。
　グラスを傾け一息で水を飲み干し、息が整い落ち着いたかと思いきや、ハルは膝から崩れ落ちてしまいました。
　ハルの事などどーでも良いですが、抱えているバケットが潰れないかが心配です。

「そんな事より……」「リコ！　そんな事とはなんだ、重要な問題だ」「いいから！　早く座って下さい。ハルにはこの鳥が目に入らないのですか？」「こんな！　こんなにも旨そうなものが目に入らない訳がないだろうが、しかしだな、う～ん不覚。そんな手があったとは」「『パンが』と言ったのはハルではありませんか、私は『パンよりご飯がいい』と言ったら日向が作ってくれましたの、ガーリックバターライス」

　相手にしていられませんので、サッサとバロティーヌ肉包み焼きを切り分けましょうか、何しろ先程からマリの視線が痛いですし、鼻息が乙女にあるまじき勢いです。
　大皿に載せた綺麗な焼き色のついた肉の塊は、見た目のインパクトが強烈すぎますし、先だっての花喰はなくいにも似た甘い香りが鼻腔をくすぐります。
　
「おー！」

　マリの眼が飛び出さんばかりです。
　ナイフを入れたバロティーヌの断面は、肉の各部位が不規則なモザイク状に茶色のグラデショーンを描いて、見るからに美味しそうです。
　あの毒々しい色の鳥が、こうも美味しそうに感じるのですから、人間の適応能力と言うものは恐ろしいものだと、つくづく思います。

「いただきまっふぐっ！」

　マリがフライングして食べ始めました。

「まぁ！　何していますのマリは！」「んぐっ、うめー！」「そんな事は聞いていませんわ」「も、も、もうういい何でもいいから、私にも早く！」「はい、はい」「いただきますわ」「いただきます」「あ！　マリ、勝手に私のガーリックバターライスを食べないで！」「うめー！」「マリだけずるいぞ！　私もだ」「ハルまで！」「何だ、これだけでも旨いぞ」「ん～！　皮がパリパリで芳ばしいですわ」「皮の脂が蜂蜜のような独特な甘みがあって旨いな」「肉質も滑らかで舌に絡みつくようですわ」「あ！　大当たりだ」「何ですの？」「レバーが口の中で蕩けたぞ！」「なにー！」「フフッ、マリ、私のところにはキンカンの塊ですわ、あ～、とっても濃厚な味わいですわ」「むっきー！」「お！　砂肝のコリコリ、色々な味があって楽しいなこの料理は」「たのしー！」


　楽しいのは私です。