逢魔が刻の料理店／『双剣の陰陽師』『聖なる祓魔師』『厄災の魔導師』『ただの？調理師』ごきげんなスタッフが、皆様のご来店をお待ちしております！

２３・シリアス展開は御免こうむりたいものです。

　
「妖魔、花喰はなくい」

　ハルがスッと眼を細めて、おどろおどろしい物を吐き出すように言いました。
　ひどく真剣な表情です。
　ある程度、想像してはいましたので、気を動転させることも無く自然に受け入れることが出来ました。

「それであの花のような香りがしたのね」

　突然、ハルとリコが笑い出しました。
　私はキョトンとしているマリと目を合わせます。

「いや、済まない、ククッ」
「嫌ですわ、日向ひなたったら、フフッ、気にしているのは其処そこですか」
「いや、実に日向らしい」
「えぇ、正に調理師の鑑ですわ、見習いたいものです」

　言われて初めて気づきます。
　確かに魚の味の事を話している場合ではありませんでした。

「真面目に話そうとしていたが、何か気が抜けてしまったぞ、まあ良い、つまり、あの魚は物の怪の類だ。人に危害を加える訳では無いが、その名の通り、花を食い荒らすので害獣扱いに指定されている」
「害獣？」
「農作物を食い荒らす、野生の猪や鹿と同じ扱いだな。あの黒い奴は鳴屋やなりと言う妖魔で、さしづめ人を襲う熊みたいなものだ、殺処分にされるという事だ」
「ああ、それでハルは地方公務員といったのですか」

　先程にも増して２人は大笑いです。

「いや、その認識で間違いでは無いのだが、猟友会の方々に依頼して害獣を駆除する市役所の方とは、一線を画してはいるがな、つまり、奈良県特別地方公務員の肩書を持つ『陰陽師おんようじ』なのだ、私は」
「おんようじ？　おんみょうじではなくて？」
「まあ、古い家系でな、昔はそう呼んでいたらしい」
「古い家系？」
「嘘か誠か知らないが、仰々しい家系図があって、それによると飛鳥時代から続いているらしい」
「あー、聖徳太子の遣隋使が仏教伝来と共に五行思想を持ち込んだ頃の話」
「良く知っているな、その通りだ。元来、陰陽師というのは律令時代の役職だからな」
「だから、奈良県の地方公務員なのか」
「その辺は、また、色々と複雑な事情があるのだが、話が長くなるからな」

　あまり触れられたくない事なのでしょうか、話をしているハルの表情が憂いを秘めている様です。

「あの短剣は？　陰陽師と言えば護符とか使って戦うイメージだけど」
「『神器の双剣』陰陽師にも得手、不得手があって、いや、あってはいけないのだが、私は物理攻撃しかできないのだ、まあ普通の人に扱える代物では無いのだが」

　話題を替えようとしたつもりが、憂いの色がさらに濃く、深くなってしまい、私まで悲しくなってきてしまいました

　なんでもいいです。
　ハルはハルです。
　ハルには何時でも笑っていて欲しいです。


　私はハルを避けるようにして、リコに視線を移しました。