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22 はじまり①

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 あれからニコラスに色々聞いてみたけど、詳しいことはやっぱり教えてもらえなかった。

 それでも粘って教えてもらえたことは、次にジョルジュが立ち会う時は私たち夫婦の主寝室だということと、もう一つ……。



「兄上に見せる前に、少し練習してもらわないと」

「練習?」



 閨事ねやごとに練習が必要なことがあるだろうか?

 そんなの聞いたことないけど。

 初めてではできないこととは、いったいどんなことだろう?



「そんなに難しく考えなくても良いのです。ただ、兄上の前でレティシアに驚かれても困りますから……」

「……それ、本当にジョルジュの希望なの?」

「信じられない?」

「そうじゃないけど……」

「でも、疑ってますね?」

「……ちょっと」

「ふ、ははは……」



 ニコラスが笑った。

 この人は普段本心から笑わないので、ものすごくレアなのだ。

 そしてニコラスの自然な笑顔は心臓に悪い。

 危うくときめくところだった。

 あぶないあぶない。

 だからとりあえず文句を言ってみる。



「そんなに笑わなくても……」

「今のはレティシアが悪い。あんな胡散臭うさんくさいものを見るような目で見られたら……あはは……」

「……そこまで笑うのは失礼です」

「すみません。でも、兄上が望んでいるというのは本当ですよ?」

「ジョルジュは私に何をさせたいの?」

「言えることだけで説明するなら、外国のねや指南書しなんしょの実践……ですかね?」



 外国の指南書しなんしょ

 ということは、ポールスター教以外の文化だろうか?



「それは異教徒のねや指導……ですよね?」

「そうだね。初夜の間で最初にしたこともそうだけど、今までも少しづつやっていたのですが……気付いてましたよね?」

「……もしかして、執務室でしたこととかも……」

「あぁ、服を着て立ったまま、後ろから突いたこともあるましたね」



 事実だけど、言葉で説明されると恥ずかしくて、返す言葉が出てこない。



「軽いのはあんな感じです。まだほかにも試してないのがたくさんある」

「か、軽い!?」

「書いてある中では……ね」



 冷や汗が出てきた。

 今までニコラスにされた、あれやこれやだって、私にとっては驚くことだったのに。

 アレより凄いことって……。



指南書しなんしょに書かれていることを全部……するの?」

「まぁ……出来れば」

「それが、ジョルジュの希望?」

「……レティシアとのことに関しては、我慢しないと……」



 あ……。

 それ、なんか聞いたことあるような……。



「……もしかして? あぁ……」

「どうしました?」

「私……良いって……」

「は?」

「ジョルジュに我慢しなくて良いって……言ったかもしれない」



 ニコラスが私を見詰める。

 甘やかな視線ではなく、呆れたような目で……。



「……自業自得ですね」



 何も言えなかった。

 と言うか、これってこの前の仕返しよね?

 ニコラスの意地悪……。



 * * * * *



 翌日の朝。

 私はジョルジュにどんな顔で会えば良いのか分からなかった。



 あんな姿を見て嫌われてたらどうしよう。

 もう心変わりしたと疑われてないかしら?



 昨日はショックだったから頭が回ってなくて、そこまで思いいたらなかった自分が情けない。

 今になって不安が押し寄せて、私は追い詰められたような気持ちになっていた。



 でも私たちの時間が、残り少ないと分かっているから、気まずくなって顔を合わせられないのは絶対避けたいって思っている。

 私は怖気付きそうになる心を奮い立たせ、必死で重い足を彼の部屋へと歩ませた。



「おはようございます、ジョルジュ」

「おはよう、レティー」



 昨日のことなど無かったような、穏やかなジョルジュの声にホッとした。

 笑顔で迎えられ、手招きされて、私はいそいそと上半身だけ起こした彼のそばに歩み寄り、ベッドサイドの椅子に腰掛ける。

 差し出された手に私が手を乗せると、ギュッと握り締められた。

 その強い力に違和感を覚え、ジョルジュに視線を向ける。



「レティー……」



 切なそうな瞳で見詰められて、強く引き寄せられ、私は彼に抱きしめられた。

 あいさつの時との落差が激しく、私は状況が飲み込めない。

 だけどここで、ジョルジュを引き剥がそうとしてはいけないと、私の本能が訴えかけている。



「ジョルジュ?」



 答えの代わりに彼の唇が落ちてきた。

 性急に舌が入り込み、私の舌を探し当て強く吸われる。

 口内を舌が蹂躙じゅうりんし、苦しくて息ができない。

 やっと離してくれたら、今度は唇をはまれ何度も何度もキスを繰り返された。



「レティー……」



 ジョルジュは私を呼びながら、ベッドの中に引きずり込み腰を抱かれて上に乗せられた。

 パンプスが転げ落ち、結った髪も乱れ、スカートも大きく捲れてしまう。

 チラリと見える太ももを目敏く見つけ、なまめかしい手つきででられて、ゾクゾクしたものが背筋を駆け抜けた。



「あぁぁ……」



 のけぞった首筋をベロンと舐められ、そのまま耳まで舌が這う。

 フッと耳に息がかかり、全身に甘い痺れが駆け巡った。

 胸元の気配に目を向けると、ドレスの前ボタンが外されていき、胸の谷間が彼の眼前にさらけ出され、下着の隙間からその先端が見え隠れしている。

 自分で見ても扇情的せんじょうてきな光景で、全裸よりよっぽどいやらしく見えた。

 朝からこんなことと思うが、昨夜のことが気にかかっている私にとっては喜ばしいことで、拒否するどころかたしなめる気も起きない。



 ジョルジュは私をうとんでいない。

 あんな姿を見ても、私を求めてくれる。



 それがとても嬉しくて、今までのジョルジュならしないであろうことでも何も気にならないし、むしろニコラスにされたことは全部ジョルジュにしてもらって、上書きしてもらいたい気持ちになっていた。


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