ぽっと出強者の異世界旅行譚

ゆーろー

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辺境都市のおかしな冒険者と従魔

The Name Of the Deer, Emperor 今回は、鹿の説明です  

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異世界四日目。
ついに、ついに、人の痕跡を見つけた!
何を見つけたかって?
要塞だ。
よく分からんけど、鹿に乗って三時間くらい移動したら遠くの方に灰色の壁が見えた。
早速、行ってみよう!


◇◇◇◇クロケイア辺境要塞都市◇◇◇◇

異世界産人族が見つけた要塞というのは、クロケイア辺境要塞都市。
辺境要塞都市は、ゴフテン王国最西端に位置するクロケイア伯爵領の領都(日本で言う県庁所在地)で、天魔の森が氾濫したときに時間稼ぎのための都市だ。領都なだけにクロケイア伯爵領の中で一番栄えており、人口も3万人は超えている。
先程も述べた通り、ここは天魔の森のの要塞だ。
なので、天魔の森からのモンスターにいち早く気が付けるように最新の望遠用の魔道具が置いてある。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

クロケイア辺境要塞都市を抱えるクロケイア伯爵領、クロケイア家当主ジール・デュ・クロケイア伯爵。
彼は大飢饉になると資財を投げ合って民を飢えから救うなどし、大飢饉後に経済が盛り返すと、増税していないのに各地から税収の2倍の税が送られたという逸話があるほど領民からの信任を得ている。だが、そんな彼の邸宅は、驚くほど質素、悪く言うとみすぼらしい言葉がぴったりな屋敷だ。
 ジール伯爵は、外壁の兵士から急ぎの報告受け、書斎で眉を顰めていた。

「皇帝鹿の子供が天魔の森から、こちらに向かっている?」
「はい。しかも、その背に人らしきものを乗せています。」
「もし、上に乗っているのが人族や獣人族、森妖人族だと分かったら、素直に町に入れろ。」
「ですが!」
「分かるまでは、外壁に直轄と近衛を全軍、置いておく。いざと言うときに使え。」

(これが今できる最善の策だ。)

異世界産人族になついている、あの鹿の種族名は皇帝鹿。その名の通り、一部の知られている森を除き、皇帝の如く森の頂点に立つ種族。二つ名は、絶対皇帝、爆走ファランクス、串刺し鹿、剣砕き、強者殺しなど物騒なものが多い。
人族の騎士2人を難度1としたとき、皇帝鹿は難度20超え。これは、騎士40人分ではない。2の20乗の1048576人分で何とか倒せると良いなというだ。
それもその筈、鋭く欠けることのない角、ミスリル以上の魔導金属でなければ貫けない皮膚、食べずに何年も動き続けられる栄養備蓄器官、魔力変換率が8割を超える魔導発動機。どれも驚異だ。
もし、この鹿がどこにも侵攻しないなら、皇帝のような大層な名前は付かなかった。
この鹿は、侵攻する。
自らが治める森の民たる魔物を率い、軍を編制し、村を町を都市を攻め滅ぼす。
前回の皇帝鹿の侵攻は、約230年前。
皇帝鹿が討伐されるまでに、3つの国が更地にされた。まだ、長命種のエルフ族やドワーフ族は覚えている。皇帝鹿の恐怖を。
そんな鹿を使役し、乗ることができるならば相当な実力者だ。
だが、もし、鹿の偽造だったらこの要塞都市は滅ぶだろう。例え、子供でもだ。
だからといって、住民に避難を促せば混乱し、何より時間稼ぎの意味を成さない。ゴフテン王国、ひいては人類が生き残るために小を殺す。これが人類の教訓だ。

ジール・デュ・クロケイア、男性38歳。
3人の子供を持ち、12歳年下の奥さんと未だに熱々なリア充は、家族を思いながら、苦悩にさいなまれていた。
だが、まだ知らない。
この都市は存続し、また違うことで頭の毛に苦悩することを。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


乗っている鹿のせいで、見えている要塞都市に異常に警戒されていることを知らず、暢気に異世界産人族は鹿の背中で揺られていた。

「そういば、鹿さんや」
「ヒィン?」
「俺に付いてくんの?」
「ヒィン」

鹿が大きく首を振る。

「そうか。よし、名前決めよう!」
「ヒィンッ!?」
「名前を付けられるのが嫌なの?」

高速で首を横に振る。
振動で落ちそうになるが何とか立て直す。

「そ、そうか。そんなに嬉しいか。」

またもや高速で首を縦に振られ、耐えきれず落ちるが、すぐに飛び乗る。

「鹿さんや、お前の名前は、シルバーだ。」

因みに、名前の由来は、ローン○ンジャーと言う映画に登場する馬の名前だったりする。

「ヒィン?」
「シルバー」
「ヒィンッ!」

シルバーもさっきみたいな愚を犯さず、首を縦に振るが、尻尾が高速回転し、異世界産人族の背中をビシビシ打っていた。

そして、背中を打たれていると、頭の中にテロップが出てきた。

『皇帝鹿 が 名前を決めてください の従魔になりました。』

「おお!シルバー、お前、俺の従魔に成ったか。」
「ヒィン!」
「これから、よろしくな!」
「ヒィンッ!」

難度20超えの魔物に揺られながら何とも暢気なことである。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


日が落ちかけ、辺りが赤くなるなか異世界産人族とその従魔シルバーは、要塞都市の外壁に到着した。

「はぁー、でけぇーなぁー」

異世界産人族は、外壁の大きさに感嘆をもらした。

(高さは、40mぐらいかな?)

残念、はずれ。高さは45mだった。
因みに、これだけ大きい理由、難度15を超えた辺りから体長が30m超えがちらほらいるからである。
まぁ、いいそんなことは重要じゃない。
重要なのは、シルバーの見た目が凶悪すぎて町で騒ぎになりそうなことだ。

「シルバー」
「ヒィン?」
「ぬいぐるみみたいになれる?」
「ヒィン?」

この時の鹿の声を訳すなら
「え?ぬいぐるみって何?僕、知らないんだけど?え?」
であろう。

「なんというか、もっと可愛い見た目にね?」
「ヒィン?」

これも訳すなら
「え?僕って可愛い?でも、もっと可愛いくなればいいの?」
などと、弱冠、毛の下の頬を赤らめていた。
忘れていたが、シルバー16歳♀である。

「そう、小さくなって俺の肩に乗るくらい。それで角を柔らかくソフトな感じにして、目をクリクリにして、牙を引っ込めれば可愛いと思う。」
「ヒィンッ!」

これは、訳すまでもなく
「僕もっと可愛いくなるから、任せてご主人!」
だろう。

ポンッという、音ともにデフォルメされてぬいぐるみみたいな見た目にシルバーが成った。異世界産人族をのせたまま。

「あ、いたっ!」
「ビィンッ!?」

重力により、異世界産人族はそのまま落下。もちろん、シルバーはその下敷きになった。
シルバー、アホの子である。

「ごめん、シルバー。」
「ひぃん....」

完全に泣いているシルバー(ぬいぐるみ)を抱きかかえながら、異世界産人族は、この世界初の都市の検問所に向かっていった。
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