【完結】前世は魔王の妻でしたが転生したら人間の王子になったので元旦那と戦います

ほしふり

文字の大きさ
1 / 15

(1)プロローグ

しおりを挟む
「リアーネ!お願いだ!!目を開けてくれ!」

聞き慣れた声が鼓膜を震わせる。
地面に倒れていた私は彼の腕に抱き上げられ、何度も何度も名前を呼ばれた。

「リアーネ!リアーネ!!しっかりしてくれ!!」

重い瞼を上げて視界に映ったのは、叫ぶ夫の姿。
濡烏のように艷やかな彼の黒髪が私の顔にこぼれ落ちている。
彼は長いまつ毛を震わせながら泣くのを堪えている。
私の手を握りしめ、顔を覗き込みながら喉を振り絞って名前を呼んだ。

地面にいくつもの魔法陣が同時に展開して傷の治癒を促すが意味はない。
胸に突き立てられた短剣の傷は塞がれることもなく血を流し続けている。
私がまだ生きていられるのは、溢れる血の中に流れる魔力のおかげだろう。
だがそれも長くは持たないと本能で理解していた。

(ああ…よりにもよって、なぜ今日なのだ…)

今日は私と夫の結婚記念日だった。
待ち合わせの場所に向かった私はそこで待ち構えていた人間たちに取り囲まれて交戦した。
魔族を狙った人間の襲撃はいつもの事だったから油断していたのかもしれない。
すぐに決着が付くはずだった。
不死者を葬る短剣の術が発動するまでは。

「ぐっ…!」

私が血を吐くと、夫の顔が絶望に染まる。
闇色のローブが赤黒く濡れていた。
痛みは感じない、なぜなら、目の前にいる夫の方が辛い痛みに耐えているようだったから。
気管に詰まった血を吐き出すと私は声を出す。

「そんな……顔をするな…ベル…私は」

握られていた手を振りほどき、私はその手を夫の頬に添える。
彼の白い頬に赤い血が張り付いたが、ベルはずっと私を見ていた。

「死には…しないよ」
「リアーネっ!だが、これは…これではっ!」
「心配するな…」

頬に添えていた手から力が抜けてずるりと落ちる。

「リアーネ!!…いやだ!!嫌だ!俺をっ」

一人にしないで。

置いていかないで。

ここにいて。

「リアーネ!!待ってくれ!お願いだから、お願いだから俺を置いていかないでくれ!!」

喉の奥から吐き出される悲痛な叫びが草原に響き渡る。
彼の声を聞いたのは…それが最後となった。
目は開いているはずなのに、視界は暗く塗りつぶされている。

…常闇の魔女リアーネは人間たちの手によって殺された。
まるで他人事のように私は自分の死を受け入れた。
意識を失った私の魂は、肉体からこぼれ落ちた。



✕✕✕



私は死んだ。
それから五百年の時が流れた。
私の魂を修復するのにはそれぐらいの時間が必要だった。

今頃、ベルのやつも私なんて忘れて好き勝手に生きているに違いない。
それぐらいの思い出になることが彼にとっても丁度いい。

政略結婚により長い道のりを二人で歩んできたが、決められた婚姻に振り回された彼がこれからの幸せを享受する権利はある。
魔族と魔女の結婚が二千年続いたのだ。
それで十分じゃないか。

彼は今頃、自分で選んだ想い人でも見つけて、その魔族の手をとって愛を誓っているはず。

ああ…

それは…

(……少しだけ…妬けるな)

常闇に包まれていた私の魂は、次なる肉体に転生した。

アルケミス聖王国。

魔族が生きる国ではない。
人間の国だった。

私はその王国の第三王子として新たに転生した。
無論、人間である。
だが私の魂は常闇の魔女リアーネであり、その魂の形が変わることはなかった。

「第三王子…ねぇ…?」

私を生んだ人間の母は深い溜め息を吐く。

「あなたなんて、産まれてこなければよかったのよ」

リグレット。
後悔。

それが人間になった私に与えられた名前。
魔族にとって黒色は特別な色だが、人間たちにとっては違う。
この世界に黒髪の人間はいない。
いたとしても、異端者として黒髪の人間は陽のあたる場所では生活できない。
それなのに私は第三王子として生まれ落ちてしまったのだ。
艷やかな黒髪に赤い瞳。
リグレット・フォン・アルケミスは第三王子でありながらも忌み子として扱われ、王族の表舞台に立つことはなかった。

それは私にとっても都合が良かった。
なぜなら、私は人間たちが本来扱うことのできない闇の魔導を扱うことができる。
これが人間に知られたら、王族だったとしても処刑されるに違いない。
それは避けたかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

専属【ガイド】になりませんか?!〜異世界で溺愛されました

sora
BL
会社員の佐久間 秋都(さくま あきと)は、気がつくと異世界憑依転生していた。名前はアルフィ。その世界には【エスパー】という能力を持った者たちが魔物と戦い、世界を守っていた。エスパーを癒し助けるのが【ガイド】。アルフィにもガイド能力が…!?

処理中です...