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甘い依存に身を委ねる
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営業部のエースが犬を飼い始めたらしい。
毎日忙しそうに残業を繰り返していたくせに、ここしばらく定時で帰るものだから同僚がどうしたのか聞いたところ、犬が待っているから早く帰ることにしたのだと答えがあった。
年齢は二十代後半に差し掛かったところで、社内の女性の視線を集めるほどの美貌を持ち、若手でありながら営業部のエースと言われるほどの成績を誇るにも関わらず、初島輝空に恋人がいるという噂は一切ない。それを社内七不思議と言い出したのは誰だったか。
社内七不思議もついに六不思議になるのかと思われたのも束の間、相変わらず七不思議は七不思議のままだった。
「馬鹿げてますよね。そもそも社内七不思議って何ですか。他の六つの内容が知りたいです」
「知らん、というよりそんなものはないだろうに。お前が入社してきて初めてそんな単語を聞いた」
定時退社した初島は、駐車場から出庫させた車を会社から離れたところに停めて、人を待っていた。
待つこと十数分後、助手席に乗り込んできた男に親し気に声をかける。
「そうですよねー。お疲れ様です、課長。いや、もう退社したんでスミさんですね」
「お疲れ、ソラ。今日は何が食べたい?」
「ラーメンですね」
「またか、本当にラーメンが好きだなお前は。別に構わんが。ソラの好きな店でいいぞ」
毎日のように待ち合わせをして共に帰っているのは初島の直属の上司である佐田澄仁だ。上司と部下という関係でありながら、初島とはお互いにソラ、スミさんと愛称で呼び合うほど仲が良い。
「で? 犬を飼い始めたって?」
「はい、だからちゃんと毎日早く帰ってるでしょ」
毎日早く退社しているわりに、初島は毎日佐田と一緒に帰っている。犬を飼い始めたのであれば、家に帰って世話をしなければならないのに。
「犬がいるならさっさと帰って面倒を見てやったらどうだ?」
「んー、ラーメン食べてからでいいですかね」
言うなり初島は車のエンジンをかけた。スッと静かにアクセルを踏み込むと、ここ最近行きたいと思っていたラーメン屋を目指してハンドルを切る。
さほど距離はなく、発車から十分もかからずに到着した。
車から降り、店の扉を開けて近くにいた店員に声をかける。混みあってはいるものの、二人であればカウンターで事足りる。すぐに席に案内され、注文を手早く済ませる。
「良かったです。待ち時間なくて。早く帰りたいんで」
「ラーメンがいいと言ったのはお前だろう。ゆっくり食えばいい」
「いや、犬が待ってるんで」
ラーメンならそんなに滞在時間が長くない上に美味しくて一石二鳥でしょ、と初島が笑う。
げんなりした表情でそれを見た佐田が、初島から目を逸らして備え付けの箸に手を伸ばした。初島はピッチャーからグラスに水を注ぎ、二人で食事の準備を終えた頃に注文のラーメンが提供された。
「いただきます」
二人が声を揃えて食前の挨拶をする。ラーメンを食べる時は二人とも無言だ。ズズズ、と麺を啜る音だけが二人の間を流れる。
二人で帰って二人で食事に行くくせに、毎回こうだ。無言で手早く食事を終え、食後の挨拶をしてすぐに店を出る。それなら二人で行く必要があるのかと初島は毎度思うが、初島にとっても、佐田にとっても、共に食事をすることは重要ではない。二人で一緒に帰ることが重要であり、その過程で食事を済ませるだけだ。なので結局、早く済むしまあいいか、と初島は毎回ラーメンを指定する。
用件はこの後だ。そのために初島は佐田と共に退勤するのだから。
「俺の家行きますよ」
「……ああ。構わない」
初島は佐田を伴って帰路を車で走る。一人暮らしをしている初島は、会社から車で十五分ほどのマンションを借りて住んでいる。初島の年齢で住むには資金繰りが厳しそうに見えるが、営業部のエースであり、同年代と比較しても高給取りな初島にとっては問題はなかった。
マンションに到着し、地下の駐車場で車を降りる。エレベーターに乗り込み、初島の部屋のある最上階へと向かう。エレベーターの扉が開くなり、初島は佐田の手を引いて自宅へと急ぐ。片手が塞がっているにも関わらず、慣れた手つきで鍵を開けると、佐田を押し込むように玄関に入らせる。
「早く入って」
「痛、押すな、ソラ」
「俺は飼い犬を可愛がらないといけないんですよ。ね、スミさん……Kneel」
初島の言葉に反応するように、靴を脱いだ佐田が廊下にペタンと腰を落とす。
「ソラ……」
「ん、いい子ですね。ほら、俺の可愛い飼い犬だって証、見せてくださいよ」
初島が佐田の頭を緩く撫でて促すと、佐田が自らの首にかけたチェーンを服の下から引っ張り出す。それは小さな飾りの付いたネックレスであり、初島が佐田に与えた首輪代わりだ。それを仕事中は誰にも見えないように隠しているのだ。
男女の性差とは別に二次性と呼ばれる性差を有する初島と佐田は、お互いの本能を満たすためのパートナーだ。初島の二次性は「他人を支配したい本能」を持つDom性、佐田の二次性は「他人に支配されたい本能」を持つSub性だ。
本能が満たされなければ体調に影響が出る。Domのコマンドと呼ばれる命令をSubが聞くことで、お互いの本能は満たされる。その行為をプレイと言う。
本能のために始めた関係ではあったが、二人はただのパートナーを超えた愛情を相手に抱くようになり、現在は恋人としての関係も伴っている。
同僚達が初島に恋人がいないと思っているのは大嘘だ。実際は隠しているだけで、同じ社内に恋人がいる。二次性はあまり他人に晒すようなものではないため、パートナーであることは公表していないし、する予定もない。
「はぁ……誰が、犬だよ……」
「嬉しいでしょ、俺の犬って言われるの。もうここ、こんなに期待してますよ」
膝を開いて座る佐田の股座には、スラックスを持ち上げて主張するものがあった。
初島がそこを足の裏で撫でるように刺激すると、佐田が肩を震わせる。
「そん、なこと……!」
「ない、ですか? 本当に? 嘘はダメですよ。本当はどうですか? Say」
「あ……嬉しい……けど、俺はソラの恋人だから……どっちにもしてほしい……」
「犬扱いもいいけど恋人扱いもしてほしい? 分かりました。可愛いおねだりに免じて嘘をついたことは許しますよ。でも今からは犬の時間です。上手にできたら恋人扱いしてあげますから、頑張ってくださいね。Stand up」
コマンドにしたがって立ち上がった佐田の手を取って、初島は寝室へと進む。ベッドの手前で佐田との体の位置を入れ替えると、ベッドを背にした佐田と向かい合って立つ。
「スミさん、今日が何の日か分かりますか?」
「今日……?」
「十月三十一日、ハロウィンですよ。というわけで、今日はいい物を用意しておきました」
ベッド脇に置いてあった段ボールに初島が手を突っ込む。佐田は、昨日まではなかったその箱が気になってはいたものの問いかけられなかったが、それを口に出す前に答えを明かされることになった。
「それ、何だ……!?」
「見ての通りですよ」
初島が段ボールから取り出したものは、犬の耳のようなものが付いたカチューシャと、尻尾のようなものがついた円錐型の何かだった。
「見ての……通り……?」
「ハロウィンと言えば仮装でしょ? スミさん用の仮装道具です。早速使いたいので……Strip」
「んっ……」
ネクタイを取り去り、ワイシャツのボタンを外す。初島の見ている前で、佐田は一つ一つ確実に身に着けたものを取っ払っていく。
期待に震える性器を晒しながら、全ての衣服を脱いだ佐田は初島を見る。褒めて、と目線で訴えながら。
「いい子。ちゃんと言うことを聞けましたね」
「ソラ……」
初島は、自身よりも年上の佐田に対して「いい子」と言って褒めることが多い。初島自身が言いたいのもあるが、何よりそう言いながら自分より高い位置にある頭を撫でると佐田が幸せそうに笑うのだ。その笑顔が見たくて、初島は佐田を褒める時には「いい子」と言う。
「じゃあ早速、せっかく買った仮装道具を使っていきますね」
佐田がいくら幸せそうな顔をしていようとも、プレイはここで終わりではない。初島はまだ満たされていない。
初島が佐田の頭に犬耳付きカチューシャを載せる。
尻尾はどこにどうするのか、なんて分かり切った事実を前に、佐田がさらに期待を膨らませる。その期待は体の中から溢れ、カウパーとして滲み出る。
「ぁ……」
「期待してるのが丸分かりですね。ベッドに乗っていいから、この尻尾を使うために必要だと思うことを自分でやってください」
コマンドを使われなくても、佐田は素直に初島の言うことに従う。今まで構築した信頼関係によるものであり、佐田が初島に完全に身を預けている証左でもある。初島はその様子に笑みを禁じ得ない。
佐田はベッドに上ると、ベッドサイドの引き出しから勝手知ったるように潤滑剤の入ったボトルを取り出し、四つん這いになって手のひらに潤滑剤を押し出した。指の先まで行き渡らせると、ゆっくりと指を一本アナルに差し込んだ。初島がよく見えるように、アナルを初島のほうに向けながら。
「あ、あ、ぁ……」
行為に慣れた佐田のアナルは指一本であれば簡単に飲み込んでしまう。物足りないのか着々と差し込む指を増やしていくにつれて、佐田から甘い声が上がる。
何も指示していないのにちゃんと初島に見せながら準備をする佐田を可愛いと思いながらも、このまま自慰にふけられていてはこの先に進めない。
「スミさん、どうですか? そろそろ準備は万端ですか?」
佐田のアナルはすでに指を三本咥えている。どう見ても準備は十分のようだが、佐田の意識を自身に向けさせるために初島は向けられた尻を軽く叩く。
「あぁっ!」
「叩かれて感じてしまいました? 痛いのも好きですもんね」
「ソラ……もう、準備できた……はやく……」
「はい、ちゃんと犬になってくださいね」
佐田が指を抜くと、アナルが物足りなさそうにひくつく。尻尾の根元についたプラグの先端を添えられると、早く欲しいと言わんばかりに腰が揺れる。
「ん……はやく、ほしい……!」
「こら、動かないで。Stay」
「っ……!」
佐田の動きを制限して、プラグで穴のふちをとんとんとつつく。早く欲しいのに、命令を守るために動きそうになる体を抑える佐田がかわいい。
「いい子、よく我慢できました。ご褒美をあげますね」
「あーっ! あ、ぁ……!」
必死にシーツに縋って耐えていた佐田がそろそろ限界を迎えようかというタイミングまで焦らし、初島がプラグを一気に佐田のナカへ押し込む。
待ち望んだ快感に佐田の性器からは決壊した白濁が散る。
「イっちゃいましたね」
「あ、ご、ごめ……いいって言われてない……」
「怒ってませんよ。我慢できたご褒美ですから。Stand Up、ベッドから下りて、仮装してるスミさんを見せて」
命令に従って佐田が動く。初島の前に向かい合って立つが、初島は何も言葉を発さずにただ佐田を見つめている。
「ソラ……」
「ああ……すいません。スミさんがかわいいので、ついじっと見てしまいました。不安にさせてしまいましたね」
初島が何も言わないせいで、佐田は自身の行動が初島の意に沿ったものかが分からなくなっていた。初島は佐田が名前を呼ぶ声一つでそれを察し、慌てて佐田の顔を撫でる。
「合ってる……?」
「はい。かわいいスミさんがよく見えますよ。似合ってます。後ろも見せて」
初島は背を向けようと動く佐田をじっと見つめている。引き締まった臀部から生えた尻尾が動きに合わせて揺れる。
「ん、ぁ……」
揺れる尻尾の根元が佐田のアナルの中をくすぐる。微弱な刺激ではあるが、敏感な佐田はたったそれだけで十分すぎるほどに快感を拾ってしまう。
「かわいい。かわいいですよ、スミさん。動かしてないのに、咥えてるだけで気持ち良くなっちゃうなんて、エッチな体になりましたね」
「お前、のせい……!」
「はいはい、そうですね、スミさんをエッチな体にしたのは俺ですよ。俺好みのかわいい犬です」
初島が尻尾に触れる。そのままゆるゆると抜き差しを始める。急に強い快感を与えられた佐田の膝が崩れそうになる。
「待っ、あ、あぁ」
「大丈夫、支えてますから。一回ベッドに上がりましょうか。Crawl……もっと気持ちよくしてあげますよ」
初島がプラグから手を離すと、佐田が命令通り再び四つん這いになる。いい子、となめらかな尻を撫で、その流れでプラグに再度手をかける。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立ててプラグが出て入って出て入ってを繰り返す。強烈な刺激に佐田の体が崩れ落ちる。
「あ、ひっ、ぃ……あ、イ、ぁ……!」
「かわいい。いいですよ、イって」
「あぁっ! ……ぁ、あ」
「よくイけました。いい子ですね」
佐田のいいところを抉って絶頂を迎えさせた初島が、敏感になった佐田の背を撫でる。そのままプラグが抜かれ、追加で与えられた刺激にびくりと震えた佐田が、ゆっくり振り返って初島と目を合わせる。
「ソラ……お前も……」
「気持ち良さそうに俺の命令を聞いてくれるスミさんを見てるだけで気持ちいいですよ。でも俺に奉仕してくれるって言うなら、お言葉に甘えましょうか。スミさん、Roll」
命令通りに仰向けになった佐田を、服を脱ぎながらベッドに乗り上げた初島が見下ろす。一度も触っていないのにすでに初島の股間は硬く反り返っており、佐田が期待にごくりと喉を鳴らす。
「はやく、ソラ」
「そんなに欲しいですか? 俺を喜ばせてくれるんでしょ? もうちょっと頑張れます?」
「ん、言って、どうしたらいい?」
「Present……スミさんが、俺を欲しがってるところ」
佐田が自らの足を抱え込むようにして体を折り曲げる。軽く腰が浮くことで、物欲しそうに訴える佐田のアナルがよく見える。
「ここ……に、ちょうだい、ソラ」
「かわいいおねだり、最高ですよ。膝を開いて。足は持ったまま……そう。そのほうが挿れやすいので」
膝裏を抱えて足を左右に広げ、受け入れの体勢を整えた佐田のアナルに、ゆっくりと初島が狙いを定める。
早く欲しいと語る目線を受け止めて、初島が薄く笑う。
「ソラぁ……もう、犬は終わり……?」
「そうですね、かわいい俺の犬でした。ここからは、お待ちかねの恋人の時間にしましょうね」
「っ……! あああ!」
初島が佐田の犬耳付きカチューシャを外すと同時に猛ったものを佐田のナカにねじ込む。甘い叫びを上げながら全てを受け入れた佐田が、初島の腰に足を絡める。
「かわいい。好きなだけイっていいですよ」
「ふ、ぁ……」
佐田が膝裏を支えていた手を離し、初島の頭に添える。佐田の唇に初島のそれを引き寄せ、唾液を混ぜ合わせるようなキスをする。
初島は佐田の要求に応えつつ、ナカをぐりぐりとこね回す。ついでのように乳首も弄ぶと、性感帯をまとめて刺激された佐田が声にならない悲鳴を上げて初島を締め付ける。
「はっ……スミさん、ナカでイっちゃいました? 俺もそろそろイきそうなので……奥でしっかり飲んでくださいね」
「ひっ! は、げし……っ!」
達したばかりの佐田のナカを、今までの優しさをかなぐり捨てた激しさで穿つ。入るところまでみっちりとナカを埋めた状態で、初島が佐田の奥に白濁液を叩きつけるように達した。
その刺激で再び絶頂を極めた佐田は、体力の限界を迎えてゆっくりと意識を手放した。
「お疲れ様です、スミさん。よく頑張りました。いい子ですね」
完全にブラックアウトする前に、佐田が拾ったのは初島の優しい労りの声と、頭を撫でる優しい手の感触だった。
※※※
初島は佐田を甘やかすのが好きだ。痛みによる支配よりも、甘やかして溶かして依存させるような支配を好む。
「スミさん、口開けて」
「あー……」
気絶した佐田が目覚めるまでに風呂を沸かし、軽い夜食を作り、シーツの替えを用意した。佐田が目を覚ますと、水を飲ませ、共に風呂に入り、髪を乾かし、手ずから食事を与える。
食事を終えると寝るための準備の始まりだ。シーツを綺麗なものに替えて、歯磨きをする。
初島は佐田の歯ブラシを握り、おとなしく口を開けるかわいい恋人の歯を一本一本丁寧に磨いていく。こうして佐田の世話を全て焼き、甘やかな空気をまとったまま二人で眠る。
明日も仕事だ。会社では二人の関係を隠しているとはいえ、家にいても会社にいても、二人は同じ空間でずっと過ごしている。
もう離れられない。お互いがそれを自覚しながらも、その甘い依存に身を委ねるのだ。
毎日忙しそうに残業を繰り返していたくせに、ここしばらく定時で帰るものだから同僚がどうしたのか聞いたところ、犬が待っているから早く帰ることにしたのだと答えがあった。
年齢は二十代後半に差し掛かったところで、社内の女性の視線を集めるほどの美貌を持ち、若手でありながら営業部のエースと言われるほどの成績を誇るにも関わらず、初島輝空に恋人がいるという噂は一切ない。それを社内七不思議と言い出したのは誰だったか。
社内七不思議もついに六不思議になるのかと思われたのも束の間、相変わらず七不思議は七不思議のままだった。
「馬鹿げてますよね。そもそも社内七不思議って何ですか。他の六つの内容が知りたいです」
「知らん、というよりそんなものはないだろうに。お前が入社してきて初めてそんな単語を聞いた」
定時退社した初島は、駐車場から出庫させた車を会社から離れたところに停めて、人を待っていた。
待つこと十数分後、助手席に乗り込んできた男に親し気に声をかける。
「そうですよねー。お疲れ様です、課長。いや、もう退社したんでスミさんですね」
「お疲れ、ソラ。今日は何が食べたい?」
「ラーメンですね」
「またか、本当にラーメンが好きだなお前は。別に構わんが。ソラの好きな店でいいぞ」
毎日のように待ち合わせをして共に帰っているのは初島の直属の上司である佐田澄仁だ。上司と部下という関係でありながら、初島とはお互いにソラ、スミさんと愛称で呼び合うほど仲が良い。
「で? 犬を飼い始めたって?」
「はい、だからちゃんと毎日早く帰ってるでしょ」
毎日早く退社しているわりに、初島は毎日佐田と一緒に帰っている。犬を飼い始めたのであれば、家に帰って世話をしなければならないのに。
「犬がいるならさっさと帰って面倒を見てやったらどうだ?」
「んー、ラーメン食べてからでいいですかね」
言うなり初島は車のエンジンをかけた。スッと静かにアクセルを踏み込むと、ここ最近行きたいと思っていたラーメン屋を目指してハンドルを切る。
さほど距離はなく、発車から十分もかからずに到着した。
車から降り、店の扉を開けて近くにいた店員に声をかける。混みあってはいるものの、二人であればカウンターで事足りる。すぐに席に案内され、注文を手早く済ませる。
「良かったです。待ち時間なくて。早く帰りたいんで」
「ラーメンがいいと言ったのはお前だろう。ゆっくり食えばいい」
「いや、犬が待ってるんで」
ラーメンならそんなに滞在時間が長くない上に美味しくて一石二鳥でしょ、と初島が笑う。
げんなりした表情でそれを見た佐田が、初島から目を逸らして備え付けの箸に手を伸ばした。初島はピッチャーからグラスに水を注ぎ、二人で食事の準備を終えた頃に注文のラーメンが提供された。
「いただきます」
二人が声を揃えて食前の挨拶をする。ラーメンを食べる時は二人とも無言だ。ズズズ、と麺を啜る音だけが二人の間を流れる。
二人で帰って二人で食事に行くくせに、毎回こうだ。無言で手早く食事を終え、食後の挨拶をしてすぐに店を出る。それなら二人で行く必要があるのかと初島は毎度思うが、初島にとっても、佐田にとっても、共に食事をすることは重要ではない。二人で一緒に帰ることが重要であり、その過程で食事を済ませるだけだ。なので結局、早く済むしまあいいか、と初島は毎回ラーメンを指定する。
用件はこの後だ。そのために初島は佐田と共に退勤するのだから。
「俺の家行きますよ」
「……ああ。構わない」
初島は佐田を伴って帰路を車で走る。一人暮らしをしている初島は、会社から車で十五分ほどのマンションを借りて住んでいる。初島の年齢で住むには資金繰りが厳しそうに見えるが、営業部のエースであり、同年代と比較しても高給取りな初島にとっては問題はなかった。
マンションに到着し、地下の駐車場で車を降りる。エレベーターに乗り込み、初島の部屋のある最上階へと向かう。エレベーターの扉が開くなり、初島は佐田の手を引いて自宅へと急ぐ。片手が塞がっているにも関わらず、慣れた手つきで鍵を開けると、佐田を押し込むように玄関に入らせる。
「早く入って」
「痛、押すな、ソラ」
「俺は飼い犬を可愛がらないといけないんですよ。ね、スミさん……Kneel」
初島の言葉に反応するように、靴を脱いだ佐田が廊下にペタンと腰を落とす。
「ソラ……」
「ん、いい子ですね。ほら、俺の可愛い飼い犬だって証、見せてくださいよ」
初島が佐田の頭を緩く撫でて促すと、佐田が自らの首にかけたチェーンを服の下から引っ張り出す。それは小さな飾りの付いたネックレスであり、初島が佐田に与えた首輪代わりだ。それを仕事中は誰にも見えないように隠しているのだ。
男女の性差とは別に二次性と呼ばれる性差を有する初島と佐田は、お互いの本能を満たすためのパートナーだ。初島の二次性は「他人を支配したい本能」を持つDom性、佐田の二次性は「他人に支配されたい本能」を持つSub性だ。
本能が満たされなければ体調に影響が出る。Domのコマンドと呼ばれる命令をSubが聞くことで、お互いの本能は満たされる。その行為をプレイと言う。
本能のために始めた関係ではあったが、二人はただのパートナーを超えた愛情を相手に抱くようになり、現在は恋人としての関係も伴っている。
同僚達が初島に恋人がいないと思っているのは大嘘だ。実際は隠しているだけで、同じ社内に恋人がいる。二次性はあまり他人に晒すようなものではないため、パートナーであることは公表していないし、する予定もない。
「はぁ……誰が、犬だよ……」
「嬉しいでしょ、俺の犬って言われるの。もうここ、こんなに期待してますよ」
膝を開いて座る佐田の股座には、スラックスを持ち上げて主張するものがあった。
初島がそこを足の裏で撫でるように刺激すると、佐田が肩を震わせる。
「そん、なこと……!」
「ない、ですか? 本当に? 嘘はダメですよ。本当はどうですか? Say」
「あ……嬉しい……けど、俺はソラの恋人だから……どっちにもしてほしい……」
「犬扱いもいいけど恋人扱いもしてほしい? 分かりました。可愛いおねだりに免じて嘘をついたことは許しますよ。でも今からは犬の時間です。上手にできたら恋人扱いしてあげますから、頑張ってくださいね。Stand up」
コマンドにしたがって立ち上がった佐田の手を取って、初島は寝室へと進む。ベッドの手前で佐田との体の位置を入れ替えると、ベッドを背にした佐田と向かい合って立つ。
「スミさん、今日が何の日か分かりますか?」
「今日……?」
「十月三十一日、ハロウィンですよ。というわけで、今日はいい物を用意しておきました」
ベッド脇に置いてあった段ボールに初島が手を突っ込む。佐田は、昨日まではなかったその箱が気になってはいたものの問いかけられなかったが、それを口に出す前に答えを明かされることになった。
「それ、何だ……!?」
「見ての通りですよ」
初島が段ボールから取り出したものは、犬の耳のようなものが付いたカチューシャと、尻尾のようなものがついた円錐型の何かだった。
「見ての……通り……?」
「ハロウィンと言えば仮装でしょ? スミさん用の仮装道具です。早速使いたいので……Strip」
「んっ……」
ネクタイを取り去り、ワイシャツのボタンを外す。初島の見ている前で、佐田は一つ一つ確実に身に着けたものを取っ払っていく。
期待に震える性器を晒しながら、全ての衣服を脱いだ佐田は初島を見る。褒めて、と目線で訴えながら。
「いい子。ちゃんと言うことを聞けましたね」
「ソラ……」
初島は、自身よりも年上の佐田に対して「いい子」と言って褒めることが多い。初島自身が言いたいのもあるが、何よりそう言いながら自分より高い位置にある頭を撫でると佐田が幸せそうに笑うのだ。その笑顔が見たくて、初島は佐田を褒める時には「いい子」と言う。
「じゃあ早速、せっかく買った仮装道具を使っていきますね」
佐田がいくら幸せそうな顔をしていようとも、プレイはここで終わりではない。初島はまだ満たされていない。
初島が佐田の頭に犬耳付きカチューシャを載せる。
尻尾はどこにどうするのか、なんて分かり切った事実を前に、佐田がさらに期待を膨らませる。その期待は体の中から溢れ、カウパーとして滲み出る。
「ぁ……」
「期待してるのが丸分かりですね。ベッドに乗っていいから、この尻尾を使うために必要だと思うことを自分でやってください」
コマンドを使われなくても、佐田は素直に初島の言うことに従う。今まで構築した信頼関係によるものであり、佐田が初島に完全に身を預けている証左でもある。初島はその様子に笑みを禁じ得ない。
佐田はベッドに上ると、ベッドサイドの引き出しから勝手知ったるように潤滑剤の入ったボトルを取り出し、四つん這いになって手のひらに潤滑剤を押し出した。指の先まで行き渡らせると、ゆっくりと指を一本アナルに差し込んだ。初島がよく見えるように、アナルを初島のほうに向けながら。
「あ、あ、ぁ……」
行為に慣れた佐田のアナルは指一本であれば簡単に飲み込んでしまう。物足りないのか着々と差し込む指を増やしていくにつれて、佐田から甘い声が上がる。
何も指示していないのにちゃんと初島に見せながら準備をする佐田を可愛いと思いながらも、このまま自慰にふけられていてはこの先に進めない。
「スミさん、どうですか? そろそろ準備は万端ですか?」
佐田のアナルはすでに指を三本咥えている。どう見ても準備は十分のようだが、佐田の意識を自身に向けさせるために初島は向けられた尻を軽く叩く。
「あぁっ!」
「叩かれて感じてしまいました? 痛いのも好きですもんね」
「ソラ……もう、準備できた……はやく……」
「はい、ちゃんと犬になってくださいね」
佐田が指を抜くと、アナルが物足りなさそうにひくつく。尻尾の根元についたプラグの先端を添えられると、早く欲しいと言わんばかりに腰が揺れる。
「ん……はやく、ほしい……!」
「こら、動かないで。Stay」
「っ……!」
佐田の動きを制限して、プラグで穴のふちをとんとんとつつく。早く欲しいのに、命令を守るために動きそうになる体を抑える佐田がかわいい。
「いい子、よく我慢できました。ご褒美をあげますね」
「あーっ! あ、ぁ……!」
必死にシーツに縋って耐えていた佐田がそろそろ限界を迎えようかというタイミングまで焦らし、初島がプラグを一気に佐田のナカへ押し込む。
待ち望んだ快感に佐田の性器からは決壊した白濁が散る。
「イっちゃいましたね」
「あ、ご、ごめ……いいって言われてない……」
「怒ってませんよ。我慢できたご褒美ですから。Stand Up、ベッドから下りて、仮装してるスミさんを見せて」
命令に従って佐田が動く。初島の前に向かい合って立つが、初島は何も言葉を発さずにただ佐田を見つめている。
「ソラ……」
「ああ……すいません。スミさんがかわいいので、ついじっと見てしまいました。不安にさせてしまいましたね」
初島が何も言わないせいで、佐田は自身の行動が初島の意に沿ったものかが分からなくなっていた。初島は佐田が名前を呼ぶ声一つでそれを察し、慌てて佐田の顔を撫でる。
「合ってる……?」
「はい。かわいいスミさんがよく見えますよ。似合ってます。後ろも見せて」
初島は背を向けようと動く佐田をじっと見つめている。引き締まった臀部から生えた尻尾が動きに合わせて揺れる。
「ん、ぁ……」
揺れる尻尾の根元が佐田のアナルの中をくすぐる。微弱な刺激ではあるが、敏感な佐田はたったそれだけで十分すぎるほどに快感を拾ってしまう。
「かわいい。かわいいですよ、スミさん。動かしてないのに、咥えてるだけで気持ち良くなっちゃうなんて、エッチな体になりましたね」
「お前、のせい……!」
「はいはい、そうですね、スミさんをエッチな体にしたのは俺ですよ。俺好みのかわいい犬です」
初島が尻尾に触れる。そのままゆるゆると抜き差しを始める。急に強い快感を与えられた佐田の膝が崩れそうになる。
「待っ、あ、あぁ」
「大丈夫、支えてますから。一回ベッドに上がりましょうか。Crawl……もっと気持ちよくしてあげますよ」
初島がプラグから手を離すと、佐田が命令通り再び四つん這いになる。いい子、となめらかな尻を撫で、その流れでプラグに再度手をかける。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立ててプラグが出て入って出て入ってを繰り返す。強烈な刺激に佐田の体が崩れ落ちる。
「あ、ひっ、ぃ……あ、イ、ぁ……!」
「かわいい。いいですよ、イって」
「あぁっ! ……ぁ、あ」
「よくイけました。いい子ですね」
佐田のいいところを抉って絶頂を迎えさせた初島が、敏感になった佐田の背を撫でる。そのままプラグが抜かれ、追加で与えられた刺激にびくりと震えた佐田が、ゆっくり振り返って初島と目を合わせる。
「ソラ……お前も……」
「気持ち良さそうに俺の命令を聞いてくれるスミさんを見てるだけで気持ちいいですよ。でも俺に奉仕してくれるって言うなら、お言葉に甘えましょうか。スミさん、Roll」
命令通りに仰向けになった佐田を、服を脱ぎながらベッドに乗り上げた初島が見下ろす。一度も触っていないのにすでに初島の股間は硬く反り返っており、佐田が期待にごくりと喉を鳴らす。
「はやく、ソラ」
「そんなに欲しいですか? 俺を喜ばせてくれるんでしょ? もうちょっと頑張れます?」
「ん、言って、どうしたらいい?」
「Present……スミさんが、俺を欲しがってるところ」
佐田が自らの足を抱え込むようにして体を折り曲げる。軽く腰が浮くことで、物欲しそうに訴える佐田のアナルがよく見える。
「ここ……に、ちょうだい、ソラ」
「かわいいおねだり、最高ですよ。膝を開いて。足は持ったまま……そう。そのほうが挿れやすいので」
膝裏を抱えて足を左右に広げ、受け入れの体勢を整えた佐田のアナルに、ゆっくりと初島が狙いを定める。
早く欲しいと語る目線を受け止めて、初島が薄く笑う。
「ソラぁ……もう、犬は終わり……?」
「そうですね、かわいい俺の犬でした。ここからは、お待ちかねの恋人の時間にしましょうね」
「っ……! あああ!」
初島が佐田の犬耳付きカチューシャを外すと同時に猛ったものを佐田のナカにねじ込む。甘い叫びを上げながら全てを受け入れた佐田が、初島の腰に足を絡める。
「かわいい。好きなだけイっていいですよ」
「ふ、ぁ……」
佐田が膝裏を支えていた手を離し、初島の頭に添える。佐田の唇に初島のそれを引き寄せ、唾液を混ぜ合わせるようなキスをする。
初島は佐田の要求に応えつつ、ナカをぐりぐりとこね回す。ついでのように乳首も弄ぶと、性感帯をまとめて刺激された佐田が声にならない悲鳴を上げて初島を締め付ける。
「はっ……スミさん、ナカでイっちゃいました? 俺もそろそろイきそうなので……奥でしっかり飲んでくださいね」
「ひっ! は、げし……っ!」
達したばかりの佐田のナカを、今までの優しさをかなぐり捨てた激しさで穿つ。入るところまでみっちりとナカを埋めた状態で、初島が佐田の奥に白濁液を叩きつけるように達した。
その刺激で再び絶頂を極めた佐田は、体力の限界を迎えてゆっくりと意識を手放した。
「お疲れ様です、スミさん。よく頑張りました。いい子ですね」
完全にブラックアウトする前に、佐田が拾ったのは初島の優しい労りの声と、頭を撫でる優しい手の感触だった。
※※※
初島は佐田を甘やかすのが好きだ。痛みによる支配よりも、甘やかして溶かして依存させるような支配を好む。
「スミさん、口開けて」
「あー……」
気絶した佐田が目覚めるまでに風呂を沸かし、軽い夜食を作り、シーツの替えを用意した。佐田が目を覚ますと、水を飲ませ、共に風呂に入り、髪を乾かし、手ずから食事を与える。
食事を終えると寝るための準備の始まりだ。シーツを綺麗なものに替えて、歯磨きをする。
初島は佐田の歯ブラシを握り、おとなしく口を開けるかわいい恋人の歯を一本一本丁寧に磨いていく。こうして佐田の世話を全て焼き、甘やかな空気をまとったまま二人で眠る。
明日も仕事だ。会社では二人の関係を隠しているとはいえ、家にいても会社にいても、二人は同じ空間でずっと過ごしている。
もう離れられない。お互いがそれを自覚しながらも、その甘い依存に身を委ねるのだ。
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あえええ!?!?そっちが受け!?!?となってから事後の甘やかしまで、終始攻めが愛情の込めたサディズムで受けを導いて行くのがとってもよきでした🥰
最後のシーン、サディズムのSはサービスのSっちゅーのはマジやったんやなと噛み締めてしまいました🥹✨
ドムサブは読んだことなかったですが、お蔭さまで新たなステージへと踏み込みそうです、ありがとうございました🕺✨