大正石華恋蕾物語

響 蒼華

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一 贄の乙女は愛を知る

一 贄の乙女は愛を知る-3

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「素敵な店を見つけたけど、一人では入り難くて」

 食事は本当にして、ドサクサに紛れて酒を飲ませた彼女を介抱する態で自分の家へ招き入れれば、後は簡単だ。外気の匂いを纏うジャケットを脱いで煙草に火を付ける。美空は案内されたベッドの上でふらふらと酩酊感に躰を揺らしながら「るいうさぁん」と無意味に自分の名を呼び小首を傾げていた。味わい慣れた煙草の味が、今日は一段と格別に思えて涙雨は唇を釣り上げる。

「みぃちゃんって本当におバカさんねぇ」

 吸い込んだ煙草の煙を、愛しい顔へと吹きかけた。





 力の入らない手足から服と下着を抜き取った。女の残り香を吸い込み、滑らかな肌を舐めしゃぶり、涙雨はいたいけな獲物をどんどんと追い詰めてゆく。筋肉量の多い男は華奢な女のそれとの差は歴然で、広いベッドの真ん中に押し倒した細い輪郭は簡単に涙雨の躰の下で踊ってみせた。

(嗚呼、最高だ)

 涙雨は微笑む唇をきめ細やかな肌に押し付け、音を立てながら降下してゆく。柔く波打つパープルの髪にくしゃりとか細い指が絡みついて引っ張られる感覚がして、それしきの抵抗で止められるものかと余計に愉しさが増してゆく。

「あ、ぅ」

 美空は紅潮した頬で涙雨の行動を見ていた。先程外で食事をした際、彼女は酒に弱いのか慣れていないだけなのか、ずいぶん簡単に酔っていたようだった。それにしても現在進行形のこの行為における抵抗は、本当に形だけのように思えた。そう、まるで暗黙の内に合意をして一夜限りの関係にしけこむ男女のように。
 『キスをして良いか』という合図を込めて小さな顎に指を添えた。やたら赤く染まった半開きの唇は、舌を差し込まれるのを待ち侘びていた。天真爛漫で純朴そうに見える普段の姿からは想像もつかない、淫靡な匂い。さあ満願成就の夜は来た。彼女に己の存在を刻むこむ為に。
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