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朝顔3

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「ミランダ、そろそろ部屋に戻りましょう。」
「そうね。」

ルーベンがその気になってる間が勝負よ。ここで時間を割いてられないわ。

私達は急いで部屋に戻った。

「遅くなってごめんなさい。」
「もういいのか?用があるなら俺達はこれで帰るけど…」
「全然大丈夫よ。アーロ、気にしないで。」

まだアイリス様の事も思い出してないのに、帰られては困るしね。

「今から、さっきの話の続きをするわ。けど、これは絶対に口外しないって誓って欲しいの。」

どちらもそんな事をしないとは思うけど、一応口止めはしておかないとね。

「解った。それで、俺がラッセン侯爵に売れる恩っていうのは何だ?」
「マディソン公爵の孫を救う、その手助けをして欲しいの。」

辺境伯は捕まってないから、今はシリウスの子の事しか言えないけど、その辺は後々交渉よ。

「マディソンの孫…シリウスの子か?」
「知り合いなの?」
「俺を成金だって、馬鹿にしてた男だ。」

最悪だわ。まさか、ルーベンと個人的に因縁があるなんて。

「シリウスを好きでないのは解るけど、それとこれとは別で考えてほしいの。」
「それは、話を聞いてからだな。」

少しルーベンの機嫌が悪くなってしまったわ。幸先悪いわね。でも、私だって頑張らないと。

「公爵は捕まったのよ。」
「捕まった?何の冗談だ。アーロ、何か知ってるか?」
「いや、今はじめて聞いた。ルーナ、それはどういう事なんだ?」
「反逆罪よ。トーマが証拠を掴んで訴えたの。」
「……なら、シリウスの子供も死罪だな。」

私の覆したいと思っている現実を、ルーベンはサラッと口にした。

「ええ。だから救いたいのよ。まだ1才にもなっていない子を殺したくないの。」
「……」

ルーベンは難しい顔をして黙っている。
簡単には返事を貰えないのは解ってる。けど、諦めるつもりはないわ。

「ルーナ、法を変える事になるんだぞ。出来るわけがない。」

返事をしないルーベンに変わって、アーロが私に言った。

…これが現実なのよね。『出来るわけない』って言って、誰も何もしない。

「出来るか出来ないか、そんなの誰にも解らないじゃない。」
「初代ラッセン侯爵が何故死んだか、聞かなかった訳じゃないだろ?」
「国王を命懸けで護ったからだと聞いたわ。」
「その、侯爵を殺した一族はどうなったかは?」
「知らないわ。」
「反逆罪で子供も殺された。」

予想はしていたけど、やはりそうなのね。でも、そんな過去の事は関係ないわ。

「時代は進んでるのよ。いつまでも昔と同じであって良いはずないじゃない。諦める理由にはならないわ。」
「侯爵が証拠を集めたって事は、子供が殺される事も解ってただろ。」

それを聞いて、私の中で何かがプツンと切れた気がした。

「…トーマのせいだと言いたいの?」
「そうは言ってない。」
「そうとしか、聞こえないわよ。」

トーマが公爵邸でどんな思いをしていたか、顔を見ていれば解った。苦しかったにきまってる。

「公爵は内乱を企ててたわ。トーマはそれを止める為に訴えたの。」

冷静に話をしないといけないのに、とても腹が立つ。2人を味方にしたいなら、機嫌を損ねるわけにはいかない。けど、モヤモヤする。

「アーロ、もし内乱が起きていたら、その時は国民を1人も死なせず解決出来る?」
「……」
「出来ないわよね?」

ここでアーロを責めるのはお門違いよ。けど、トーマの努力も気持ちも、誰も理解しようとしないのが凄く悔しい。

「証拠を揃えるのも、公爵を捕まえるのも、その事後処理も、トーマがしてるのよ。なのに、この国の王は何をしてるの。舞踏会で、あのタヌキジジィに完璧に押し負けてたじゃない。情けない。」
「ルーナ様、それ以上は…」

『王』という言葉を聞いて、ミランダが話を止めようとするけど、私の気持ちはおさまらない。

「本当の事よ。誰に聞かれたって構わないわ。」
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