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朝顔

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今日、トーマがいなくて良かったわ…。ルーベンの家でも花を引き抜いていたなんて、聞かれたくないもの。
ミランダが物凄く無表情なのは、きっと笑うのを必死で我慢してるからよね。

「ルーベンの家でアイリス様と会ったなら、そこにルーベンも居合わせたの?」
「俺はルーナに殴られて部屋でふて寝してた。」
「役に立たないわね。」
「元凶はルーナだろ。」

否定できないわ。
何て事…。これはルーベンを殴った事への罰なの?

「ルーベンの家の花を引き抜いて持って帰ってたのよね。その時の私の様子を見てた人はいないかしら?」
「庭師に聞いた話によると『朝顔は何で朝しか咲かないの』って、ムスッとしてたらしい。」
「朝顔…」

それは確実に私が言ってるわ。
お母様の病気は朝が一番症状が酷くて、一緒に見る事が出来なかったのよね。
だから、『夜まで咲けない、根性のない花』って怒ってたのよ。今考えれば無茶苦茶だわ。

朝顔は蔓が巻き付いていて、切って持っていく事も出来なかったし。

「…思い出したわ。私は『夜に咲く朝顔』が欲しかったの。お父様に連れられてルーベンの家に行ったら、綺麗な庭があったから探してたのよ。その時、大きな蜂の巣を見つけて…」
「俺を殴ったのか。」
「……ごめんなさい。」

蜂の巣に何の魅力を感じたのかしら。子供の頃の私は…。

「まぁ、怒るなって。」
「お前はビー玉を取られただけだからからいい。俺はルーナに殴られた上に、親父にも怒られたんだぞ。『ルーナ嬢がいなかったらお前は死んでた』ってな。」
「ルーベンは怒られて当然だ。1度蜂に刺された時、全身に蕁麻疹が出来て高熱で寝込んだんだぞ。次に刺されたら死ぬかもって言われてただろ。」
「そうなの?だったら、私はルーベンの命の恩人ね。」
「回りが喧嘩に気付いたから未然に防げたってだけだけで、そうじゃなきゃ2人とも死んでる。」

アーロの言う通りね。だって、凄く大きかったもの、あの蜂の巣。

「あの蜂の巣、結局どうしたの?」
「どうにも。毎年同じ所に巣を作りに来る蜂もいるし、冬にあの木は伐った。」
「蜂蜜は?」
「俺の家は養蜂場じゃないし、それに蜂がいなくなった巣に蜜があるわけないだろ。」
「そうね。」
「蜂蜜が好きなら、店から送ってやろうか?」
「いいの?」
「ただじゃないけどな。けど、この国で一番美味いのは保証してやる。」
「それなら、お願いできるかしら。トーマの紅茶にいれれば、少しは元気になるかもしれないしね。」

今のトーマにはピッタリだわ!

「そういえば、侯爵は最近青白い顔してるもんな。」
「そうなのよ、色々あってね。」
「まずルーナが妻って事に、精神的疲労が出てるんだな。」

失礼すぎるでしょ…。
まぁいいわ、この流れならルーベンと取引の話が出来そうだもの。

「ルーベン、ラッセン侯爵に恩を売る気はない?」
「俺の一存では…」
「ホイットマン家は貴方が継ぐのでしょう?今より事業の拡大をするなら、どんな貴族より同世代のラッセン侯爵と仲良くしておくべきじゃないかしら?」
「そうだな。」
「まず手始めに、ラッセンの領内にお店を出したい場所はある?」
「最低3つ。」
「わかった。今から私の言う事に少しでも協力してくれるなら、その倍の場所を用意するわ。だから、話を聞くかどうか決めてくれる?」

勝手な行動をしたら後で怒られるかもしれないけど、後で考えればいいわ。

「ラッセン領で6店舗、悪くないな。」

やっぱり、ルーベンは仕事の話は真面目に聞くわね。
シュート君と私を利用して、自らお店の噂を消しに来るくらいだもの、私に負けず劣らず図太いし強欲だと見たわ。

これじゃ、私が図太くて強欲なのを肯定してるみたいだよね。
何だか切ないわ…。
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