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茶会の前に

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ルーナが公爵家に行く日、朝10時にトーマは人と会う約束をしていた。

「ご無沙汰しております。カリオン公爵。」
「ああ、久しぶりだね。…何かあったのかい?珍しく焦っているようだが。」

俺が会いに来たのは、カリオン公爵…アイリス公女の父親で、王弟殿下だ。
中途半端な挨拶と俺の表情から、何か感じ取ってくれたらしい。

「公爵、時間がないので用件だけ話します。私をマディソン公爵邸に遣いに出してください。」
「いくら私でも、ラッセン侯爵を遣いに出すような事は出来ない。」
「構いません。邸の中に入る材料さえあればそれで。」
「……何か理由があるのかい?」
「ルーナが…妻がマディソン公爵邸に招待されたんです。招待という形ではありますが、ほぼ呼び出しで何度断っても聞き入れてはくれませんでした。これを読んでください…」

カリオン公爵にマディソン家から届いた手紙を読んでもらう事にした。その方が早いと判断したからだ。

招かれてもいないのに、俺が公爵邸に付いていく事は出来ない。爵位は俺より上、こちらが礼を欠けば何かと揚げ足をとられるだろう。
だが、王弟殿下からの遣いという事であれば話は別だ。…さすがに陛下には会えなかった。許可は出たが、今日以降なら意味はない。

「…舞踏会でのラッセン侯爵夫人の対応が納得出来ないのか。はぁ…、うちの娘が騒ぎ立てたのが始まりではあるが、何故マディソン公爵はこうも彼女に執着するんだ…。」

何故なのか、そんな事は言わなくても殿下には予想はついているはずだ。

「マディソン公爵宛に手紙を書いて頂けませんか。封筒に宛名と差出人、公爵家の封蝋をつけていただければ、手紙は白紙で構いませんので。それを俺が届けます。」
「…何故そこまで焦るんだ?マディソン邸にいる事はわかっているなら、そこまで心配する事はないと思うが…。」
「公爵家の使用人がうちに1人いるのですが、その男が言うには夫人は多重人格を疑うほど裏表があるらしいんです。」
「どんな風に?」
「気に入らない侍女を棺の中に閉じ込めて放置して殺したり、激しく暴力をふるったり…。公爵邸の侍女が年に数人病死するのは、夫人の暴力だそうです。」
「…っなんだって!?それなのに夫人を向かわせたのか!?」
「ええ、ここまで来たなら、こっちもただでは済ませる気はありませんから。」
「どうするつもりだい?」
「……公爵位の後継人に目星はつけておいてください。」
「まさか、爵位を剥奪するという事か?それには賛成出来ない。そんな事をすれば大変な事になる。」
王族あなた達の賛否は必要ありません。私にそれを言える立場にないでしょう。」
「……」
「私を不敬で捕まえるというなら、それでも構いません。エメラルドはいつでも王家にお返しします。」

エメラルドを返すという事は、王はラッセンの後ろ楯を失くすという事だ。信用に足る臣下を失くす事は政権争いでは不利になる。これは最高の脅しだ。

「私の心中をお察し願えませんか?家族が殺される。」
「…ああ、解った。」
「では、いつでも議会を開けるよう、王にお伝えください。」

護衛長が動いているとなると、頃合いを見計らって邪魔者は消すだろう。あの家には裏家業があると父が言っていた。邪魔者が俺になる可能性もあるが、そんな事はどうでもいい。

「約束の時間は13時、それまでに公爵邸に着きたいんです。どうかお力をお貸しください。」
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