上 下
124 / 303

都合2

しおりを挟む
「ヴィンスが…ほんと…に…?」
「ええ。嘘じゃないわ。」

ヴィンスという名が出たとたんロイスが項垂れたのを見ると、本名のようね。
ヴィンス…ヴィンセント…?それとも姓?
ヴィンスなんて貴族は聞いた事がないから、多分姓ではないわ。私が忘れているだけかもしれないけどね。
恋人なんだから愛称で呼ぶわよね。しくじったわ。何とかフルネームを言わせないと。

「ヴィンスは……っ私のこと…好きだって……言って…くれたのに…」
「口だけだったのよ。」

ポロポロ涙を溢してるのを見ると、さすがに人として心が痛むわね…。

「悔しいでしょう?子供を産むのに10ヶ月以上も体を労って、出来ない事も沢山あったはずよ。そんな貴女を簡単に辺境に追いやるなんて、許せないでしょう?」
「……」

私の話を聞きながら、エリーゼは頷いている。これなら、復讐の矛先はヴィンスに向くわね。

「エリーゼ様、貴女がヴィンスを大切にしても、得られる物はもう何もないわよ。」
「どうしたらいいかわからない…相手はマディソン公爵家よ。こちらから何かすればアダムス家が危うくなる。」

それはトーマもでしょ。勝手な女ね。
まぁ、相手の家の名前が出たし、そこは流しておくわ。

相手はマディソン公爵って、3本皺のタヌキジジィよね…。その息子?
なるほどね、何となく理解出来たわ。あの公爵家の息子に『辺境伯となんか結婚させない』とか言われたら、本気にしちゃうよね。出来なくは無いもの。陛下と一緒にあの尋問の場にいるくらいだしね。
『辺境伯が私を殺そうとした』と証言させたかった男。辺境伯とは仲がよくないのは確実ね。
そう考えると、この妊娠騒動は最悪じゃないの…。

「この前のパーティーでヴィンスと話はしなかったの?」
「私を見て逃げたわ…、それに…妊娠してから話はアーチャーを通してしか…」
「そう…。」

想像以上に最低ね、ヴィンスという男は。

何だかこうやって話してると、エリーゼをはるかに越えてヴィンスの方がムカつくわね。
トーマとエリーゼの、私への愚行を許すわけじゃない。けどね、この男の行動は女を馬鹿にしてるわ。
婚約者がいるのに理性で抑えられなかった2人が悪い。
けど、男は絶対に妊娠はしない。愛だの何だのと嘘をつけば、快楽だけを貪れる。この男はエリーゼの足元を見たのよ。エリーゼにとって、ヴィンスは辺境伯から助けてくれる王子様だった。
それに、恋は盲目とも言うしね。

女を何だと思ってるの。とても腹が立つわ。

「マディソン公爵の息子は相当下衆な男ね。」

わざとロイスに聞こえるように言ってみた。

「…薄汚い貧乏伯爵家の女が、侯爵と結婚したからといって、偉そうにするなよ…。」
「あら、素敵な本性が出てきたわね。やっと私を虐める使用人が出てきて嬉しいわ。けど、今さら遅いわよ。」
「私は公爵邸に帰らせてもらう。ただでは済まないと侯爵に言っておくんだな。」
「忠告ありがとう。でも、私の心配より先に自身の末路を考える事をおすすめするわ。エリーゼ様が辺境に送られる時は貴方も道連れよ。数日後、ランスロット様に会うから念入りに頼んでおくわ。逃げられると思わない事ね。」

ランスロット様が邸に来ると聞いた時、この男は遣いを送ってる。ラッセン侯爵は怖くなくても、ランスロット様には強くは出れないのよ。マディソン家タヌキジジィは。

「もし辺境でエリーゼ様が殺される時は、付き人も全員殺されるでしょうね。貴方はただの使用人ではないから、拷問されて殺されるかもね。」
「……」
「これだけは言っておくわ。ヴィンスにどれだけ身分と権力があっても、辺境伯から貴方を庇えない。事に乗じて密偵を送ったと思われかねないもの。それは辺境伯の職務柄解るでしょう。」
「……」
「そもそも、恋人である伯爵令嬢を捨てた男が、使用人を庇うとは思えないけどね。」

ここまで上手くはいかないでしょうけど、暫くは怯えて暮らせばいいわ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月

りょう。
ファンタジー
貴族達の中で『忘れられた公爵家』と言われるハイトランデ公爵家の娘セスティーナは、とんでもない美貌の持ち主だった。 1話だいたい1500字くらいを想定してます。 1話ごとにスポットが当たる場面が変わります。 更新は不定期。 完成後に完全修正した内容を小説家になろうに投稿予定です。 恋愛とファンタジーの中間のような話です。 主人公ががっつり恋愛をする話ではありませんのでご注意ください。

今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!

れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。 父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。 メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。 復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*) *なろうにも投稿しています

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...