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注意事項2

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小さなベッドの上に寝ているエミリーを見てシュート君の厳しい一言。

「全然似てねぇ。」

血の繋がりは全くないんだし、多めに見てほしいわ。

「抱っこしてもいい?」
「勿論よ。」

自ら抱っこしたいって言える勇気!
感心していると、シュート君はなれた手つきでエミリーを抱きかかえる。

「凄い…。」
「そりゃそうよ。メレブはシュートが面倒見てたようなものだし。」
「そうなんだ…。」

エミリーが笑顔になった。シュート君はフッと軽く頭に息を吹き掛けてみたりして遊んでいる。
14才に完敗だわ。

その後、私のもとへ来たエミリーはやっぱり泣いたのでした。


次の日の朝

王都に向かう馬車の中で、シュート君がゲッソリしている。

「どうしたの?」
「この服…肩がこる…。」
「ジャケットは、寒くなければ脱いでもいいよ。」

シュート君が今日着ている服はマイセンさんが用意したもの。
ブラウスにボウタイ、少し刺繍の入った黒のジャケット、その下にベスト、黒のズボン。

「シュート、見た目で人を蔑んだり選んだりする人や店もあるから、そういう人に会っても怒ったり手を出したりしちゃ駄目よ。」
「喧嘩とか、そんな子供みたいな事しねぇよ。」

…どうしよう、私は文句を言ってしまうかもしれないわ。

「…ルーナ、二の舞は踏まないでね。」
「はっはいっ!!」

辺境伯の事だよね。あれは人助けだったんだけど、問題が大きくなってるし言い訳できない。
ミランダのシュート君への注意が、私の心に刺さる。


王都に行く途中に、ヘンリーのいる屯所へ寄る。

屯所を見ただけでシュート君の表情が明るくなった。

「ミランダもこの屯所にいたのか?」
「私は大概王妃か姫に付いてたから。女は少ないし、私は強いから待遇いいのよ。シュート、最低でも陛下の護衛隊に入れるくらいは強くなりなさいよ。」

ミランダ、最低ラインが高すぎだと思うわ。

馬車からおりて少し歩いていくと、剣術の訓練をしてるヘンリーが見える。
相手は5人、一斉に向かっていくのに、あっという間に倒してしまった。

「すげぇ…」
「凄い…」

シュート君と私は驚いたけど、ミランダは全くだった。

「ヘンリー、うちの甥のシュートよ。」
「シュートです。よろしくお願いします。」
「俺はヘンリーだ。シュート、よろしくな。」
「はい!」

シュート君、嬉しそう。

「ねぇヘンリー、ちょっと相手してよ。」

負けた兵士から練習用の剣を受け取ったミランダがニヤリと笑う。

「行くわよ。」
「退役して何年だ?腕が落ちてなきゃいいけどな。」

2人が戦うと知って、まわりの兵士達が皆集まってきた。

「俺はミランダさんに賭ける!」
「俺もだ!」
「俺はオッサンに!」
「ヘンリー負けんなよっ!」

そんな声があちこちから聞こえてくる。

「お2人はどちらが勝つと思いますか?」

隣にいた兵士が私達に笑顔で問いかけてきた。

「どちらが…って、ミランダは女性なのよ。あの大きなヘンリー相手に勝てるわけ…え?」

全て言い終わる前に、ヘンリーがドサッと倒れた。

「やっぱり、ミランダさんの勝ちですね。」

最初は2人とも剣で戦っていたのに、動きの早いミランダがヘンリーの後ろをとり回し蹴りで吹っ飛ばした。

「ミランダ、卑怯だぞ!」
「あら、蹴りが駄目だなんて決めてなかったはずよ。それに、後ろを取られてる時点であんたの負けよ。」

2人のやり取りに皆が笑っている。

「ミランダさんが勝負を持ちかけるなんて滅多にないんです。今日は貴重なものが見れました。」

これは、ミランダなりのシュート君への激励であり教訓なのかもしれないわね。だって、私の隣でシュート君がとても真剣な顔をしているから。

さっき言ってた強さの最低ラインは、あれは『私より強くなりなさい』なんだわ。
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