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こども

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誰が来るのかと思えば、アナだった。

「こらっ!!イーサンっ!!こっちに来なさい!!すみません、お話中に!」
「やだぁ!ルーと遊ぶのー!」
「わがまま言わないのっ!」

アナが急いでイーサンを連れて部屋から出ていってしまった。

「あっという間にいなくなったな。」
「うん。」

『イーサンと遊ぶから1人で行って』…と言ったのに、肝心のイーサンがいなくなってしまったわ。

「ルーナの用は終わったようだし、一緒にエミリーに会いに行けるな。」

急に手を握られ、引っ張るようにしてエミリーのいる部屋へ逆戻り。

「っちょっと!離しなさいよ。トーマ、貴方は私に指一本触らない約束よ。」
「俺にぶつかってきた女がよく言えるな。」
「…あれは子供の頃の話でしょう。」

本当に性格の悪い男ね。
まさか初恋の相手に、『大嫌い』という言葉を上書きする日が来ると思わなかったわ。

「お2人とも、静かにしてください。」

カルラさんにあきれ顔で怒られてしまった…。

「ごめんなさい。」
「すまん。」

エミリーはスヤスヤ寝ている。
カルラさんだとすぐ寝るんだよね。私があやしたら泣いちゃうのに…。やっぱり緊張してギクシャクしているのが伝わるのかな。

「…少し大きくなった気がする。」
「当たり前でしょ。日々成長しているんだから。」

産まれた日に見ていたのなら、少しの違いもわかるのかもね。

側にある椅子に腰掛けて、トーマがエミリーを嬉しそうに見ていた。
伯爵の娘と結婚。
同じ爵位の私と結婚するなら、彼女を選べばいいのに。
簡単に考えれば、彼女には婚約者がいて断れない相手。トーマだって奪えないほどのね。

10分ほどして目を覚ましたエミリーは、すぐに泣き出してしまった。

「貴方が側にいると泣くんだわ。負の感情がエミリーに伝わるのね。」
「どういう意味だ。」
「『酷い男が側にいるから助けて』ってね。」
「……」
黙るって事は、多少なりとも罪悪感はあるのね。それすら無かったら、人間だと認めないわ。

「ルーと一緒にいても泣いてるぞ!」
「え?」

振り返ればイーサンが私のすぐ後ろにいる。

「…イーサン…いつからいたの……?」
「ルーがそのオジサンとしゃべってる時から。」
そういって、私に隠れてトーマを指差した。

…結構前からいたのね。

「オジサン…」

トーマ…ショックを受けてるわ。


「プフッ!アハハ!オジサンっ!!」

ちょうど部屋に入ってきたミランダはそれに大笑い。

「あ!ミランダみっけ!遊ぼっ!」
「そうだねー。遊ぼうか。オジサンは放っておいて。」

イーサンはミランダと共に行ってしまった。

「子供は正直だな。ルーナもエミリーに泣かれてるのか。酷い女だから。」

ムカつく…。



「夕飯はどうするの?」
「本邸に帰ってから食べる。」
「そうしてくれるとありがたいわ。」
「……」
「次から愛人に会いに来る時は、その前にエミリーに会って。1年後に貴方達がどんな末路を辿っても構わないけど、今は面倒は起こさないで。」

この妊娠の事が、愛人の婚約者にバレたりしたら、私の将来にいい影響を与えるはずないのは確実だもの。

「私は『子育てするメイド』としてしかエミリーには接しない。だから早く離縁して新しい母親を探す事をおすすめするわ。」

離縁が早ければ早いほど私の農家弟子入りの未来が近付くし、楽しい未来が待ってるしね!

…重大な問題発生だわ。
ある程度お金を集めないとシュート君の旅費が…。
『招待する』とか言っておいて『ごめんなさい』なんて、トーマみたいな嘘つきに成り下がるのはごめんよ。
期待させておいて突き落とすみたいな、そんな最低な人間になりたくない。私だって同じ事をされて傷ついたのに…。

「即離縁して、私を子育て要員としてエミリーが1才になるまで雇って下さい。」
「それは母親として過ごすのと何が違うんだ。」
「貴方の妻としての仕事をしなくてすむわ。色々と招待される事はあるだろうし、極力顔を見られたくないの。」

お父様の知り合いに何を言われるか…。『自慢の娘』の成れの果てを見られたくないわ。

「…何だか知らないが、弱味があるようだな。」
「…私にそんなものあるわけないじゃない。」
「歯切れが悪い。急に『雇って下さい』と言うのもおかしい。今までの態度とは偉く異なる。」

つい弱気になってしまったわ…強気でいくと決めていたのに!

「だが、いい事を知った。」
「何?」
「ルーナはエミリーが1才になるまでは俺といないと困る事があるらしい。それが何か聞く気はないが、こちらとしてはやり易い。」

「なんて嫌な男なの…。」

人の弱味を握ろうとするなんて。

「私はラッセン家の体裁の為に1年残ると決めただけで、出ていこうと思えばいつでも出ていけるのよ。」

「けど、1年は子育て要員としていなければ困る何かがある。違うか?」

「……」

「追い詰めるのは上手でも、意気込んでないと可愛いルーナに逆戻りだな。」

「可愛いルーナ?」

「顔だけなら可愛い方だと思うぞ。」

顔だけなら…。しかも…。嘘でも『可愛い』と言いきるくらいの優しさはないのね。

「貴方も、顔だけなら格好いい方だと思うわ。でも性格は最低なオジサンよ。」


・・・・

ドアの向こうでこっそり話を聞いていたミランダが腹を抱えて笑っていたのを、2人は全く気がつかないのであった。
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