23 / 303
こども
しおりを挟む
誰が来るのかと思えば、アナだった。
「こらっ!!イーサンっ!!こっちに来なさい!!すみません、お話中に!」
「やだぁ!ルーと遊ぶのー!」
「わがまま言わないのっ!」
アナが急いでイーサンを連れて部屋から出ていってしまった。
「あっという間にいなくなったな。」
「うん。」
『イーサンと遊ぶから1人で行って』…と言ったのに、肝心のイーサンがいなくなってしまったわ。
「ルーナの用は終わったようだし、一緒にエミリーに会いに行けるな。」
急に手を握られ、引っ張るようにしてエミリーのいる部屋へ逆戻り。
「っちょっと!離しなさいよ。トーマ、貴方は私に指一本触らない約束よ。」
「俺にぶつかってきた女がよく言えるな。」
「…あれは子供の頃の話でしょう。」
本当に性格の悪い男ね。
まさか初恋の相手に、『大嫌い』という言葉を上書きする日が来ると思わなかったわ。
「お2人とも、静かにしてください。」
カルラさんにあきれ顔で怒られてしまった…。
「ごめんなさい。」
「すまん。」
エミリーはスヤスヤ寝ている。
カルラさんだとすぐ寝るんだよね。私があやしたら泣いちゃうのに…。やっぱり緊張してギクシャクしているのが伝わるのかな。
「…少し大きくなった気がする。」
「当たり前でしょ。日々成長しているんだから。」
産まれた日に見ていたのなら、少しの違いもわかるのかもね。
側にある椅子に腰掛けて、トーマがエミリーを嬉しそうに見ていた。
伯爵の娘と結婚。
同じ爵位の私と結婚するなら、彼女を選べばいいのに。
簡単に考えれば、彼女には婚約者がいて断れない相手。トーマだって奪えないほどのね。
10分ほどして目を覚ましたエミリーは、すぐに泣き出してしまった。
「貴方が側にいると泣くんだわ。負の感情がエミリーに伝わるのね。」
「どういう意味だ。」
「『酷い男が側にいるから助けて』ってね。」
「……」
黙るって事は、多少なりとも罪悪感はあるのね。それすら無かったら、人間だと認めないわ。
「ルーと一緒にいても泣いてるぞ!」
「え?」
振り返ればイーサンが私のすぐ後ろにいる。
「…イーサン…いつからいたの……?」
「ルーがそのオジサンとしゃべってる時から。」
そういって、私に隠れてトーマを指差した。
…結構前からいたのね。
「オジサン…」
トーマ…ショックを受けてるわ。
「プフッ!アハハ!オジサンっ!!」
ちょうど部屋に入ってきたミランダはそれに大笑い。
「あ!ミランダみっけ!遊ぼっ!」
「そうだねー。遊ぼうか。オジサンは放っておいて。」
イーサンはミランダと共に行ってしまった。
「子供は正直だな。ルーナもエミリーに泣かれてるのか。酷い女だから。」
ムカつく…。
「夕飯はどうするの?」
「本邸に帰ってから食べる。」
「そうしてくれるとありがたいわ。」
「……」
「次から愛人に会いに来る時は、その前にエミリーに会って。1年後に貴方達がどんな末路を辿っても構わないけど、今は面倒は起こさないで。」
この妊娠の事が、愛人の婚約者にバレたりしたら、私の将来にいい影響を与えるはずないのは確実だもの。
「私は『子育てするメイド』としてしかエミリーには接しない。だから早く離縁して新しい母親を探す事をおすすめするわ。」
離縁が早ければ早いほど私の農家弟子入りの未来が近付くし、楽しい未来が待ってるしね!
…重大な問題発生だわ。
ある程度お金を集めないとシュート君の旅費が…。
『招待する』とか言っておいて『ごめんなさい』なんて、トーマみたいな嘘つきに成り下がるのはごめんよ。
期待させておいて突き落とすみたいな、そんな最低な人間になりたくない。私だって同じ事をされて傷ついたのに…。
「即離縁して、私を子育て要員としてエミリーが1才になるまで雇って下さい。」
「それは母親として過ごすのと何が違うんだ。」
「貴方の妻としての仕事をしなくてすむわ。色々と招待される事はあるだろうし、極力顔を見られたくないの。」
お父様の知り合いに何を言われるか…。『自慢の娘』の成れの果てを見られたくないわ。
「…何だか知らないが、弱味があるようだな。」
「…私にそんなものあるわけないじゃない。」
「歯切れが悪い。急に『雇って下さい』と言うのもおかしい。今までの態度とは偉く異なる。」
つい弱気になってしまったわ…強気でいくと決めていたのに!
「だが、いい事を知った。」
「何?」
「ルーナはエミリーが1才になるまでは俺といないと困る事があるらしい。それが何か聞く気はないが、こちらとしてはやり易い。」
「なんて嫌な男なの…。」
人の弱味を握ろうとするなんて。
「私はラッセン家の体裁の為に1年残ると決めただけで、出ていこうと思えばいつでも出ていけるのよ。」
「けど、1年は子育て要員としていなければ困る何かがある。違うか?」
「……」
「追い詰めるのは上手でも、意気込んでないと可愛いルーナに逆戻りだな。」
「可愛いルーナ?」
「顔だけなら可愛い方だと思うぞ。」
顔だけなら…。しかも可愛い方…。嘘でも『可愛い』と言いきるくらいの優しさはないのね。
「貴方も、顔だけなら格好いい方だと思うわ。でも性格は最低なオジサンよ。」
・・・・
ドアの向こうでこっそり話を聞いていたミランダが腹を抱えて笑っていたのを、2人は全く気がつかないのであった。
「こらっ!!イーサンっ!!こっちに来なさい!!すみません、お話中に!」
「やだぁ!ルーと遊ぶのー!」
「わがまま言わないのっ!」
アナが急いでイーサンを連れて部屋から出ていってしまった。
「あっという間にいなくなったな。」
「うん。」
『イーサンと遊ぶから1人で行って』…と言ったのに、肝心のイーサンがいなくなってしまったわ。
「ルーナの用は終わったようだし、一緒にエミリーに会いに行けるな。」
急に手を握られ、引っ張るようにしてエミリーのいる部屋へ逆戻り。
「っちょっと!離しなさいよ。トーマ、貴方は私に指一本触らない約束よ。」
「俺にぶつかってきた女がよく言えるな。」
「…あれは子供の頃の話でしょう。」
本当に性格の悪い男ね。
まさか初恋の相手に、『大嫌い』という言葉を上書きする日が来ると思わなかったわ。
「お2人とも、静かにしてください。」
カルラさんにあきれ顔で怒られてしまった…。
「ごめんなさい。」
「すまん。」
エミリーはスヤスヤ寝ている。
カルラさんだとすぐ寝るんだよね。私があやしたら泣いちゃうのに…。やっぱり緊張してギクシャクしているのが伝わるのかな。
「…少し大きくなった気がする。」
「当たり前でしょ。日々成長しているんだから。」
産まれた日に見ていたのなら、少しの違いもわかるのかもね。
側にある椅子に腰掛けて、トーマがエミリーを嬉しそうに見ていた。
伯爵の娘と結婚。
同じ爵位の私と結婚するなら、彼女を選べばいいのに。
簡単に考えれば、彼女には婚約者がいて断れない相手。トーマだって奪えないほどのね。
10分ほどして目を覚ましたエミリーは、すぐに泣き出してしまった。
「貴方が側にいると泣くんだわ。負の感情がエミリーに伝わるのね。」
「どういう意味だ。」
「『酷い男が側にいるから助けて』ってね。」
「……」
黙るって事は、多少なりとも罪悪感はあるのね。それすら無かったら、人間だと認めないわ。
「ルーと一緒にいても泣いてるぞ!」
「え?」
振り返ればイーサンが私のすぐ後ろにいる。
「…イーサン…いつからいたの……?」
「ルーがそのオジサンとしゃべってる時から。」
そういって、私に隠れてトーマを指差した。
…結構前からいたのね。
「オジサン…」
トーマ…ショックを受けてるわ。
「プフッ!アハハ!オジサンっ!!」
ちょうど部屋に入ってきたミランダはそれに大笑い。
「あ!ミランダみっけ!遊ぼっ!」
「そうだねー。遊ぼうか。オジサンは放っておいて。」
イーサンはミランダと共に行ってしまった。
「子供は正直だな。ルーナもエミリーに泣かれてるのか。酷い女だから。」
ムカつく…。
「夕飯はどうするの?」
「本邸に帰ってから食べる。」
「そうしてくれるとありがたいわ。」
「……」
「次から愛人に会いに来る時は、その前にエミリーに会って。1年後に貴方達がどんな末路を辿っても構わないけど、今は面倒は起こさないで。」
この妊娠の事が、愛人の婚約者にバレたりしたら、私の将来にいい影響を与えるはずないのは確実だもの。
「私は『子育てするメイド』としてしかエミリーには接しない。だから早く離縁して新しい母親を探す事をおすすめするわ。」
離縁が早ければ早いほど私の農家弟子入りの未来が近付くし、楽しい未来が待ってるしね!
…重大な問題発生だわ。
ある程度お金を集めないとシュート君の旅費が…。
『招待する』とか言っておいて『ごめんなさい』なんて、トーマみたいな嘘つきに成り下がるのはごめんよ。
期待させておいて突き落とすみたいな、そんな最低な人間になりたくない。私だって同じ事をされて傷ついたのに…。
「即離縁して、私を子育て要員としてエミリーが1才になるまで雇って下さい。」
「それは母親として過ごすのと何が違うんだ。」
「貴方の妻としての仕事をしなくてすむわ。色々と招待される事はあるだろうし、極力顔を見られたくないの。」
お父様の知り合いに何を言われるか…。『自慢の娘』の成れの果てを見られたくないわ。
「…何だか知らないが、弱味があるようだな。」
「…私にそんなものあるわけないじゃない。」
「歯切れが悪い。急に『雇って下さい』と言うのもおかしい。今までの態度とは偉く異なる。」
つい弱気になってしまったわ…強気でいくと決めていたのに!
「だが、いい事を知った。」
「何?」
「ルーナはエミリーが1才になるまでは俺といないと困る事があるらしい。それが何か聞く気はないが、こちらとしてはやり易い。」
「なんて嫌な男なの…。」
人の弱味を握ろうとするなんて。
「私はラッセン家の体裁の為に1年残ると決めただけで、出ていこうと思えばいつでも出ていけるのよ。」
「けど、1年は子育て要員としていなければ困る何かがある。違うか?」
「……」
「追い詰めるのは上手でも、意気込んでないと可愛いルーナに逆戻りだな。」
「可愛いルーナ?」
「顔だけなら可愛い方だと思うぞ。」
顔だけなら…。しかも可愛い方…。嘘でも『可愛い』と言いきるくらいの優しさはないのね。
「貴方も、顔だけなら格好いい方だと思うわ。でも性格は最低なオジサンよ。」
・・・・
ドアの向こうでこっそり話を聞いていたミランダが腹を抱えて笑っていたのを、2人は全く気がつかないのであった。
34
お気に入りに追加
1,783
あなたにおすすめの小説
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月
りょう。
ファンタジー
貴族達の中で『忘れられた公爵家』と言われるハイトランデ公爵家の娘セスティーナは、とんでもない美貌の持ち主だった。
1話だいたい1500字くらいを想定してます。
1話ごとにスポットが当たる場面が変わります。
更新は不定期。
完成後に完全修正した内容を小説家になろうに投稿予定です。
恋愛とファンタジーの中間のような話です。
主人公ががっつり恋愛をする話ではありませんのでご注意ください。
異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!
明衣令央
ファンタジー
糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。
一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。
だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。
そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。
この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。
2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる