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邸にて
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着いたとたんにトーマ・ラッセンに呼び出された。
「どういうつもりだ?」
…それは全てこちらの台詞よ。
「これにサインして下さい。」
「は?何だこれは…」
「貴方との結婚と子育ての条件です。」
1.子供が産まれてから1年で離縁する事。
2.メイドとして雇用する事。その上で離縁する際に給金を支払う事。
3.ルーナ・ラッセンに指一本触れない事。
4.離縁するまで愛人との子は作らない事。
5.離縁した後は、お互い一切干渉しない事。
6.ミランダを1年間、ルーナ・ラッセンの護衛として側に置く事。
7.会いたい人に会うのを許可する事。
内容を簡単に書いた物と、私のサインを書いた本契約書の2枚をトーマに渡した。
サっと目を通したトーマから一言。
「却下だ。」
「……貴方、よくそんな偉そうに言えるわね。」
ここで1歩でも引いたら相手のペースにのまれる。強気で行かないと!この部屋には2人なんだから戦うなら今しかない!!
「離縁しても侯爵と結婚したい女性は沢山いると思いますので、断る必要はないと思います。」
「……『指一本触れない』…俺との子を作る気はないという事か…。それなら離縁する。この契約条件ものんでやる。」
…今の聞き間違いじゃないよね?
「っやったーー!!あ、1年と書きましたが、必要なくなればいつでも仰って下さい!即出ていきますのでっ!私からのお話は以上です。ラッセン侯爵様からは何かありますか?」
「……」
「この邸で愛人も一緒に暮らしたいという事であれば大歓迎ですよ。でも私が邸にいる間に子を作らないように気をつけて色々してください。」
「…トーマと呼べ」
「…?」
「少なくともここにいる間は俺の妻も演じてもらう。それがこちらの条件だ。」
「安心してください。邸の外では妻のふりはしようと思ってますので。」
こちらも条件を突きつけているのだから仕方ないよね。
コンコン
「マイセンでございます。」
「ああ、入れ。」
「失礼します。」
私とトーマが話していると、マイセンさんがお茶を持ってきた。
「私は結構です。すぐに出ていきますので。」
トーマとのんびりお茶なんて、冗談じゃないわ。お断りよ。
「トーマ様、こちらにサインをお願いします。」
「今すぐには無理だ。大体の項目は解るが全て読んでからサインする。こちらに不利になるようなものがないかだけは確認させてもらう。」
そうだよね。ミランダを見てたら契約は凄く大切なんだって解ったもの。相手は侯爵だし、簡単にはサインしないよね。
「では、書けたら仰って下さい。取りに来ますので。失礼します。」
私はトーマの部屋を出た。
・・・・
「マイセン、何か用か?」
『2人きりで話をしたい』とわざわざルーナを呼んでいる。相手が客ではないのだから、何の指示もしないのにお茶など持って来ない。それなのにここへ来るくらいなのだから何か言いたい事があるはずだ。
「…奥様から離縁の話はでましたか?」
「ああ、こんなものを作って持ってきた。」
俺はマイセンに見えるように、ルーナが持ってきた契約書を机に置いた。
「奥様との離縁はよく考えてから決めて下さい。」
「何故だ?お前は結婚に反対していただろう。それに1年は妻としてこの邸にいる。」
「ランスロット・アレンをご存知ですか?」
「当然だろ。奴を知らない貴族はいない。何か問題でもあったのか?」
「妊婦姿に仕立てた奥様が外出したのですが、その姿を見てアレン様は奥様を呼び止めました。『侯爵の偽装かと心配していた。子供が出来たら祝いに伺う』…と。」
「……伯爵は顔が広かったとは聞いていたが…そこまでなのか?」
ランスロット・アレンはプライベートを知られるのを嫌う。友人であればその事を知っているから、彼の事を口にする事はないだろう。…ルーナはプライベートの1人という事か…。
「伯爵は誰と懇意にしていたのか調べてみてくれ。」
「畏まりました。」
そう言って、マイセンは出ていった。
ルーナ本人は重大さを解っていないようだが、契約書を見て嫌な予感はしている。
ミランダ…あの女は厄介だ。
妊娠の事を口外する事はないし、侯爵家の情報を他言せぬよう契約している。
秘密は洩らさない。だから客が多い。
だが、契約していない事に関しては全く従わない。今回のルーナがいい例だ。
おそらく、マイセンが俺とルーナの離縁を阻むと気がついている。
侯爵家の情報は誰にも言わない。それは守る。
だが離縁についての契約などしていないから、ルーナの味方をさせてもらう…と言ったところだ。
この契約書のいくつかはミランダが考えたものもあるだろう。
契約書に簡易な文を添えたのはミランダの入れ知恵だ。
条件をのまなければランスロットは敵にまわる…この文面で読み取れ。と言いたいんだ、この女は…。
・・・・
私の部屋の前にはミランダが立っていた。
「ミランダ!離縁できるわっ!」
「そう、とりあえず話は中でしましょう。ここじゃ誰が聞いているかわからないから。」
「確かにそうね。」
ここにどんな人が何人いるか、結婚してすぐに山小屋に連れていかれた私は全くわからないのよね。みんな愛人の味方かもしれないし、怖いわ…。
私の部屋は白を基調にした可愛いお部屋。
ソファーは白にピンクの花柄。クッションもピンク。
「ねぇ、これ誰の好みだと思う?」
「さぁ……」
「まさか愛人が使ってた部屋とかだったりしないよね。」
「…流石にそこまで最低な男ではないと思うけど……多分。」
「だよね。でも、確認するまではベッドは使わないわ…。」
「当然ね。まぁ、それを確認するのは後よ。話を聞かせて。」
「うん。」
窓際にある小さなテーブルと椅子が2つ、そこに腰かけてミランダに報告した。
「契約書を見せたら納得してくれたわ。子供を作る気もないなら、離縁してやるってね。」
「やっぱり、そこが重要ね。子が出来る出来ないじゃなく、欲しいか欲しくないかの温度差は大きいから。」
「うん。それに相手は私に拘る必要はないのよ。離縁してから再婚した女性と子を作ればいいだけの話だもの。」
「そうね。…ところで契約書は?」
「ラッセン家に不利になる事が書かれてないか確認する…って、すぐにサインはもらえなかったの。用紙は1枚だけだし読み終わるのを待とうかとも思ったけど、そこにマイセンさんが来たから1度帰って来たの。」
「…マイセン……」
マイセンという名前を聞いて、ミランダが少し冷たい表情になった。
「ミランダ?どうかした?」
「ん?どうもしないわ。離縁できそうだし喜ばしい限りね。ただ、契約書はすぐに受け取りに行きましょう。相手に無駄に時間を与えないようにね。」
「そうね。後から色々言われたら嫌だもの。」
「なら行くわよ。トーマの部屋へ。今度は私が部屋の外で待っててあげるから。こういう話は勢いが大事なのよ。相手に隙を与えない事。既にルーナのサインは書いてあるんでしょう?双方が目の前でサインしないと。万が一改竄でもされたらどうするの。」
「そ…そうよね。早く行かないと!」
あの7つの条件は守ってもらわないと、こんな所でずっと子育てなんてしていられないわ。
「どういうつもりだ?」
…それは全てこちらの台詞よ。
「これにサインして下さい。」
「は?何だこれは…」
「貴方との結婚と子育ての条件です。」
1.子供が産まれてから1年で離縁する事。
2.メイドとして雇用する事。その上で離縁する際に給金を支払う事。
3.ルーナ・ラッセンに指一本触れない事。
4.離縁するまで愛人との子は作らない事。
5.離縁した後は、お互い一切干渉しない事。
6.ミランダを1年間、ルーナ・ラッセンの護衛として側に置く事。
7.会いたい人に会うのを許可する事。
内容を簡単に書いた物と、私のサインを書いた本契約書の2枚をトーマに渡した。
サっと目を通したトーマから一言。
「却下だ。」
「……貴方、よくそんな偉そうに言えるわね。」
ここで1歩でも引いたら相手のペースにのまれる。強気で行かないと!この部屋には2人なんだから戦うなら今しかない!!
「離縁しても侯爵と結婚したい女性は沢山いると思いますので、断る必要はないと思います。」
「……『指一本触れない』…俺との子を作る気はないという事か…。それなら離縁する。この契約条件ものんでやる。」
…今の聞き間違いじゃないよね?
「っやったーー!!あ、1年と書きましたが、必要なくなればいつでも仰って下さい!即出ていきますのでっ!私からのお話は以上です。ラッセン侯爵様からは何かありますか?」
「……」
「この邸で愛人も一緒に暮らしたいという事であれば大歓迎ですよ。でも私が邸にいる間に子を作らないように気をつけて色々してください。」
「…トーマと呼べ」
「…?」
「少なくともここにいる間は俺の妻も演じてもらう。それがこちらの条件だ。」
「安心してください。邸の外では妻のふりはしようと思ってますので。」
こちらも条件を突きつけているのだから仕方ないよね。
コンコン
「マイセンでございます。」
「ああ、入れ。」
「失礼します。」
私とトーマが話していると、マイセンさんがお茶を持ってきた。
「私は結構です。すぐに出ていきますので。」
トーマとのんびりお茶なんて、冗談じゃないわ。お断りよ。
「トーマ様、こちらにサインをお願いします。」
「今すぐには無理だ。大体の項目は解るが全て読んでからサインする。こちらに不利になるようなものがないかだけは確認させてもらう。」
そうだよね。ミランダを見てたら契約は凄く大切なんだって解ったもの。相手は侯爵だし、簡単にはサインしないよね。
「では、書けたら仰って下さい。取りに来ますので。失礼します。」
私はトーマの部屋を出た。
・・・・
「マイセン、何か用か?」
『2人きりで話をしたい』とわざわざルーナを呼んでいる。相手が客ではないのだから、何の指示もしないのにお茶など持って来ない。それなのにここへ来るくらいなのだから何か言いたい事があるはずだ。
「…奥様から離縁の話はでましたか?」
「ああ、こんなものを作って持ってきた。」
俺はマイセンに見えるように、ルーナが持ってきた契約書を机に置いた。
「奥様との離縁はよく考えてから決めて下さい。」
「何故だ?お前は結婚に反対していただろう。それに1年は妻としてこの邸にいる。」
「ランスロット・アレンをご存知ですか?」
「当然だろ。奴を知らない貴族はいない。何か問題でもあったのか?」
「妊婦姿に仕立てた奥様が外出したのですが、その姿を見てアレン様は奥様を呼び止めました。『侯爵の偽装かと心配していた。子供が出来たら祝いに伺う』…と。」
「……伯爵は顔が広かったとは聞いていたが…そこまでなのか?」
ランスロット・アレンはプライベートを知られるのを嫌う。友人であればその事を知っているから、彼の事を口にする事はないだろう。…ルーナはプライベートの1人という事か…。
「伯爵は誰と懇意にしていたのか調べてみてくれ。」
「畏まりました。」
そう言って、マイセンは出ていった。
ルーナ本人は重大さを解っていないようだが、契約書を見て嫌な予感はしている。
ミランダ…あの女は厄介だ。
妊娠の事を口外する事はないし、侯爵家の情報を他言せぬよう契約している。
秘密は洩らさない。だから客が多い。
だが、契約していない事に関しては全く従わない。今回のルーナがいい例だ。
おそらく、マイセンが俺とルーナの離縁を阻むと気がついている。
侯爵家の情報は誰にも言わない。それは守る。
だが離縁についての契約などしていないから、ルーナの味方をさせてもらう…と言ったところだ。
この契約書のいくつかはミランダが考えたものもあるだろう。
契約書に簡易な文を添えたのはミランダの入れ知恵だ。
条件をのまなければランスロットは敵にまわる…この文面で読み取れ。と言いたいんだ、この女は…。
・・・・
私の部屋の前にはミランダが立っていた。
「ミランダ!離縁できるわっ!」
「そう、とりあえず話は中でしましょう。ここじゃ誰が聞いているかわからないから。」
「確かにそうね。」
ここにどんな人が何人いるか、結婚してすぐに山小屋に連れていかれた私は全くわからないのよね。みんな愛人の味方かもしれないし、怖いわ…。
私の部屋は白を基調にした可愛いお部屋。
ソファーは白にピンクの花柄。クッションもピンク。
「ねぇ、これ誰の好みだと思う?」
「さぁ……」
「まさか愛人が使ってた部屋とかだったりしないよね。」
「…流石にそこまで最低な男ではないと思うけど……多分。」
「だよね。でも、確認するまではベッドは使わないわ…。」
「当然ね。まぁ、それを確認するのは後よ。話を聞かせて。」
「うん。」
窓際にある小さなテーブルと椅子が2つ、そこに腰かけてミランダに報告した。
「契約書を見せたら納得してくれたわ。子供を作る気もないなら、離縁してやるってね。」
「やっぱり、そこが重要ね。子が出来る出来ないじゃなく、欲しいか欲しくないかの温度差は大きいから。」
「うん。それに相手は私に拘る必要はないのよ。離縁してから再婚した女性と子を作ればいいだけの話だもの。」
「そうね。…ところで契約書は?」
「ラッセン家に不利になる事が書かれてないか確認する…って、すぐにサインはもらえなかったの。用紙は1枚だけだし読み終わるのを待とうかとも思ったけど、そこにマイセンさんが来たから1度帰って来たの。」
「…マイセン……」
マイセンという名前を聞いて、ミランダが少し冷たい表情になった。
「ミランダ?どうかした?」
「ん?どうもしないわ。離縁できそうだし喜ばしい限りね。ただ、契約書はすぐに受け取りに行きましょう。相手に無駄に時間を与えないようにね。」
「そうね。後から色々言われたら嫌だもの。」
「なら行くわよ。トーマの部屋へ。今度は私が部屋の外で待っててあげるから。こういう話は勢いが大事なのよ。相手に隙を与えない事。既にルーナのサインは書いてあるんでしょう?双方が目の前でサインしないと。万が一改竄でもされたらどうするの。」
「そ…そうよね。早く行かないと!」
あの7つの条件は守ってもらわないと、こんな所でずっと子育てなんてしていられないわ。
応援ありがとうございます!
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