25 / 28
賊
しおりを挟む
「待って!」
呼び止めたけど、勢いよく扉を開けて2人は馬車を下りてしまった。
私に出来る事なんてない。参戦しないなら逃げないと!
馬車から下りて、人のいない方向へ走った。必ず追いかけてくると思ったのに、誰一人私を追いかけて来ないのは何故?
もしかして、狙いが定まってるの?私以外の誰かを拐かすか殺すか、それが目的なら、私が逃げたって痛くも痒くもないよね。
あの中で狙われるとしたら、リアムしかいない!
私を誰も気にしてない。
後ろから不意をつけば、男にだって勝てる。
私は道からそれて、木の枝を折った。
これを振り回す力はないし、振りかぶってる時に気付かれたら受け止められる。一直線に突くしかない。
皆、数に圧されて苦戦してる。何人かは周りでニヤニヤ笑ってみてるだけで、完璧に油断してる。そのうち一人だけでもいい。誰かを倒せば、一瞬だけでも私の方に気が反れる。
イエナならその隙をついて、体制を立て直せるかもしれない。
男達に気付かれないよう、木に隠れて背後とって突っ走った。
「うっっ!!」
背中を勢いよく突かれた男は、前のめりに倒れて痛みで転がっている。
私が参戦したのに気付いて、何人か向かってきたけど、相手にせず私は木々の中へ逃げた。
山賊だか盗賊だかしらないけど、森の中を遊び場にしていた私に付いて来れるならやってみなさい!!
男装してて良かった。動くのが凄く楽だし、走りやすい。
追手を振り切って、大回りして現場に戻ってみたけれど、事態は深刻だった。
御者は殺されてるし、マシューは頭から血を流して倒れてる。沢山の死体の中央で、血溜まりの中、返り血を浴びて立っているイエナはいるけれど、目の届く範囲にリアムの姿はない。
「イエナっ!!マシュー!!大丈夫っ?」
「ハァ…ハァ……クレア様、馬車に乗ってください」
「リアムはどこ?」
「連れ去られました。殺されてはいません」
「…――っ」
このままだと大変な事になる。
「相手はリアムの正体を知っていて狙ったと思う?」
「はい」
イエナは私の問に冷静に返事をしながら、死んだ御者のポケットからハンカチを取り出した。
……きっと死体はここへ置いていくから、形見になる物を探してるんだよね。
「マシュー」
「……っ…クレア…様…?」
「起き上がらないで、もう少し寝ていなさい」
良かった。意識はあるし、私をクレアだと認識できている。けど、強く頭を打っているから、安心は出来ないよね。
「うわぁっ!?」
叫び声が聞こえて振り返ると、芋虫みたいに這って逃げようとしている男のもとに、女の生首が転がって行くのが見えた。
もしかして、イエナが蹴ったの……?
「誰に雇われた?」
「知るか」
「吐けば見逃してやる」
「誰がっ」
這いつくばった男が喋っている途中に『グチャ』と音がしたと思ったら、女の生首をイエナが踏み潰していた。
「生きたまま頭を踏み潰されたら痛いのか、試してみる?」
イエナは本気だわ。私でもそれがわかるんだから、男に伝わらないはずないよね。
「ヤ……ヤコブって野郎に…命令された」
「伯爵の誘拐を?」
「そうだっ…」
「連れ去った後、何処へ向かうつもりだった?」
「ペイレスだ」
「ペイレス……」
「目的は?」
「知らねぇっ!!」
「目的は?」
「知らねぇんだ!!」
「そう」
イエナは小さく答えてから、剣で男の頭をつらぬいてしまった。
「クレア様、乗馬は得意ですか?」
「ええ、スピードだけなら、イエナに負けない自信があるわ」
「では、私と二人でリアム様を追います」
「けど、それじゃマシューが」
「町に着けば、医者をここへ向かわせます。このまま馬車で進んでいては、ペイレスに着くのは夜中になるので。」
でも、置いていくなんて……。
「…クレア様、私なら構いません。リアム様を…追ってください」
「わかったわ。けど、人が来るまで、絶対に馬車から出ては駄目よ。血の匂いで獣が寄ってくる可能性があるから」
「はい……」
私がマシューと話してる間に、イエナは馬を車から外して鞍をつけてくれた。
「クレア様、行きましょう」
「うん」
とりあえず、リアムを奪還しないと!
呼び止めたけど、勢いよく扉を開けて2人は馬車を下りてしまった。
私に出来る事なんてない。参戦しないなら逃げないと!
馬車から下りて、人のいない方向へ走った。必ず追いかけてくると思ったのに、誰一人私を追いかけて来ないのは何故?
もしかして、狙いが定まってるの?私以外の誰かを拐かすか殺すか、それが目的なら、私が逃げたって痛くも痒くもないよね。
あの中で狙われるとしたら、リアムしかいない!
私を誰も気にしてない。
後ろから不意をつけば、男にだって勝てる。
私は道からそれて、木の枝を折った。
これを振り回す力はないし、振りかぶってる時に気付かれたら受け止められる。一直線に突くしかない。
皆、数に圧されて苦戦してる。何人かは周りでニヤニヤ笑ってみてるだけで、完璧に油断してる。そのうち一人だけでもいい。誰かを倒せば、一瞬だけでも私の方に気が反れる。
イエナならその隙をついて、体制を立て直せるかもしれない。
男達に気付かれないよう、木に隠れて背後とって突っ走った。
「うっっ!!」
背中を勢いよく突かれた男は、前のめりに倒れて痛みで転がっている。
私が参戦したのに気付いて、何人か向かってきたけど、相手にせず私は木々の中へ逃げた。
山賊だか盗賊だかしらないけど、森の中を遊び場にしていた私に付いて来れるならやってみなさい!!
男装してて良かった。動くのが凄く楽だし、走りやすい。
追手を振り切って、大回りして現場に戻ってみたけれど、事態は深刻だった。
御者は殺されてるし、マシューは頭から血を流して倒れてる。沢山の死体の中央で、血溜まりの中、返り血を浴びて立っているイエナはいるけれど、目の届く範囲にリアムの姿はない。
「イエナっ!!マシュー!!大丈夫っ?」
「ハァ…ハァ……クレア様、馬車に乗ってください」
「リアムはどこ?」
「連れ去られました。殺されてはいません」
「…――っ」
このままだと大変な事になる。
「相手はリアムの正体を知っていて狙ったと思う?」
「はい」
イエナは私の問に冷静に返事をしながら、死んだ御者のポケットからハンカチを取り出した。
……きっと死体はここへ置いていくから、形見になる物を探してるんだよね。
「マシュー」
「……っ…クレア…様…?」
「起き上がらないで、もう少し寝ていなさい」
良かった。意識はあるし、私をクレアだと認識できている。けど、強く頭を打っているから、安心は出来ないよね。
「うわぁっ!?」
叫び声が聞こえて振り返ると、芋虫みたいに這って逃げようとしている男のもとに、女の生首が転がって行くのが見えた。
もしかして、イエナが蹴ったの……?
「誰に雇われた?」
「知るか」
「吐けば見逃してやる」
「誰がっ」
這いつくばった男が喋っている途中に『グチャ』と音がしたと思ったら、女の生首をイエナが踏み潰していた。
「生きたまま頭を踏み潰されたら痛いのか、試してみる?」
イエナは本気だわ。私でもそれがわかるんだから、男に伝わらないはずないよね。
「ヤ……ヤコブって野郎に…命令された」
「伯爵の誘拐を?」
「そうだっ…」
「連れ去った後、何処へ向かうつもりだった?」
「ペイレスだ」
「ペイレス……」
「目的は?」
「知らねぇっ!!」
「目的は?」
「知らねぇんだ!!」
「そう」
イエナは小さく答えてから、剣で男の頭をつらぬいてしまった。
「クレア様、乗馬は得意ですか?」
「ええ、スピードだけなら、イエナに負けない自信があるわ」
「では、私と二人でリアム様を追います」
「けど、それじゃマシューが」
「町に着けば、医者をここへ向かわせます。このまま馬車で進んでいては、ペイレスに着くのは夜中になるので。」
でも、置いていくなんて……。
「…クレア様、私なら構いません。リアム様を…追ってください」
「わかったわ。けど、人が来るまで、絶対に馬車から出ては駄目よ。血の匂いで獣が寄ってくる可能性があるから」
「はい……」
私がマシューと話してる間に、イエナは馬を車から外して鞍をつけてくれた。
「クレア様、行きましょう」
「うん」
とりあえず、リアムを奪還しないと!
12
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる