上 下
17 / 28

お仕事

しおりを挟む
 帰りの馬車の中、結婚相手が誰なのか聞いてもリアムは答えなかった。

「ねぇ、イエナ、スフィー、リアム様は私を誰と結婚させたいのだと思う?」
「リアム様ご本人に聞いてください。私達にはわかりかねます」
「だよね」

 あの流れなら、リアム本人が私にプロポーズしてるのかとも思えるけど、それは絶対にありえない。何の得にもならないもの。
 ハリーとの結婚が決まるまで、私はリアムと話した事もないし。

 その日の夕飯に、リアムは顔を出さなかった。伯爵家の仕来たりとやらは、意外と簡単に破られるのね。


 次の日は朝から土砂降り、髪の毛が湿気でボサボサになった。
 髪の毛が短いと束ねる事も出来ない。今日一日、この邸で仕事をするだけだし問題ないか。

「クレア様、その格好はなんです。ボサボサの鳥の巣頭に、シャツと紺色のロングスカート。今時、王都でそんな格好をしてる女性はいませんよ」

 私を叱るのは、イエナじゃなくスフィー。

「この格好が、一番仕事がしやすいし」
「駄目です。リアム様がガッカリなさるでしょう」

 リアムは関係ないと思うけど、スフィーの圧が凄くて言い返せない。

「イエナはファッションには疎いので、私が指導します」
「よろしくおねがいします……」

 結局、スフィーの用意した服に着替えさせられたのだけど、リアムから大変不評です。

「胸元を露出しすぎでは?」
「……」

 仰ると通りです。
 仕事をするのに、大きく襟の開いた服なんて着る必要は全くないもの。

「貴女が選んだ服ですか?」
「いいえ、スフィーよ。着替えてきますね」

 リアムに怒られたと言えば、スフィーも諦めるでしょう。

「今日はそのままで構いません」
「そうですか……」
「至急とりかかるべき仕事を幾つかありますので、こちらに目を通してください」

 リアムに渡されたのは大量の書類。
 10㎝程の束が5つも机においてあるのだけど、まさかこれを私がやるの?

 嫌だと言っても始まらないよね。

 手に取った書類は河川の氾濫について……。

「これは、川の事をよく知ってる人と一緒に解決すべきではないかしら」
「私達がやる事は、費用の申請です」
「だったら、私じゃなくリアム様が纏めた方がいいと思います。何も解らない私が申請しても話にならないでしょう。」
「もう少し、目を通してください」

 ……何かおかしな所でもあるのかしら。

「毎年、雨期になると川が氾濫してるのね」
「はい。その被害は甚大で、近辺の住人は全てを流され、暮らせない状況に陥ります」
「それを私にどうしろというのですか?」
「明日から川へ視察に行きますので、付いてきて下さい」

 視察って、そんなに色々な所に行くものなの?一昨日も王都に来る途中に何処かに寄っていたよね。

「川の管轄の……部下はいるのでしょう?その人達から報告を受けて予算を決めるのだし、私達が行く必要はないと思います」

 伯爵家の仕事に深く関わりたくないのが本音だし。

「その部下が安い木材や土を仕入れて、予算を誤魔化している可能性があるので、私と貴女で調査に行きます」
「それなら、私一人で行きます。リアム様は顔を知られているのだから、意味がないでしょう」
「何をどう見ればいいか、わかるんですか?」

 わからないわよ。

「一緒に行きますが、仕事はリアム様に任せます。私は何もしませんからね」
「期待していません」

 この人、視察とか向いてなさそう……。

 もう1つの書類に目を通すけれど、これを私が処理する理由が解らない。

『王都の連続刺殺事件の誤認逮捕について……』

 こんなの、明らかに私がやる仕事ではないよね。

「誤認逮捕した人達に解決させたらいいと思うわ」
「逮捕されたのが庶民ではなく貴族なので、うちに回ってきました」

 貴族だから?庶民なら放置って事?意味がわからないわ。

「相手が貴族なのであれば、金も権力もあるのでしょう?自分達で何とかすればいいのよ。この仕事は断るわ」

 次!

星花せいか祭の準備』
『領内の大規模修繕工事』

 まぁ、この2つは伯爵家の仕事よね。

 けど……

『ライリー王子と楽しいお茶会』って何?何故私が、あの王子の相手をしなきゃいけないの?

「ライリー様に会う時間など、私にはございません」
「それは断われません」
「相手が王子だから?」
「いいえ、本日15時の予定です」

 今日…?
 昨日、イエナに貰った予定表には無かったと思うけど。

「昨日も来たのに、今日も来るのですか?」
「『マロンちゃんに大切な話がある』との事です」

 絶対に何か企んでるわね、あの王子。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

仲良しな天然双子は、王族に転生しても仲良しで最強です♪

桐生桜月姫
ファンタジー
 愛良と晶は仲良しで有名な双子だった。  いつも一緒で、いつも同じ行動をしていた。  好き好みもとても似ていて、常に仲良しだった。  そして、一緒に事故で亡くなった。  そんな2人は転生して目が覚めても、またしても双子でしかも王族だった!?  アイリスとアキレスそれが転生後の双子の名前だ。  相変わらずそっくりで仲良しなハイエルフと人間族とのハーフの双子は異世界知識を使って楽しくチートする!! 「わたしたち、」「ぼくたち、」 「「転生しても〜超仲良し!!」」  最強な天然双子は今日もとっても仲良しです!!

妻は異世界人で異世界一位のギルドマスターで世紀末覇王!~けど、ドキドキするのは何故だろう~

udonlevel2
ファンタジー
ブラック会社を辞めて親と一緒に田舎に引っ越して生きたカズマ! そこには異世界への鏡が納屋の中にあって……異世界に憧れたけど封印することにする!! しかし、異世界の扉はあちらの世界にもあって!? 突如現れた世紀末王者の風貌の筋肉女子マリリン!! マリリンの一途な愛情にカズマは――!? 他サイトにも掲載しています。

処理中です...