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 下唇を噛んで悔しそうな顔をしているけれど、私に何も言ってこない。

「さっきまでの勢いはどうしたの?辞める前に、言いたい事を言って良いわよ。どんな事でも、今は許すわ」

 ここで『旦那様に捨てられた女のくせに』とか言ってくれたら最高なんだけどね。

 私に言い返しても敵わないと思ったのか、侍女はどこかへ行ってしまった。

 次にとる行動。
 まぁ、リアムに泣きつくのは目に見えてるけど。
 どんな結果になってもいいわ。私を伯爵家ここから追い出してくれるなら、これ以上ないくらい嬉しいしね。


 予想していた通り、10分ほどしてリアムが部屋に来た。

「お話があります」
「どうぞ、お入り下さい。ですが、二人きりにはなりたくありませんので、私の行動を告げ口した侍女もご一緒に」

 私が言わなくても、侍女は話を聞く気満々みたいだけどね。リアムが私の態度を窘めるのを嬉々として見ていたいって、表情で丸分かりだもの。

「義姉さん、ジェシカを解雇すると、本気でお考えですか?」
「さっきの私の質問に答えられないならね」
「どんな質問ですか?」
「ハリーはどこにいるの?」
「療養先は教えられません」
「それは何故?義弟は知っているのに妻の私が知らないなんて、おかしいわよね?」
「何と言われようと、教えられません」
「その答えを教えてもらえないようなら、最初にお伝えした通り、侍女は解雇します。リアム様のお答え次第ですよ」

 さて、どうでるかしら。

「兄がどこにいるか、知ってどうするのですか?」
「夫婦の事です。リアム様に関係ないでしょう」
「解りました。場所はチクヤシという所です。これで解雇の件は白紙で構いませんね」
「ええ」

 ハリーがどこにいようと、一ミリも興味ないですから。それに、私の目的は既に侍女の解雇じゃないもの。


「ハリーに今から会いに行くわ」
「申し訳ありませんが、兄の病は感染力が強く、許可できません」
「一昨日の時点で感染していたなら、私も隔離対象になるのではないかしら?式で誓いの口づけをしたもの」

 ああ、思い出したら吐きそうだわ…。どこの女と何をしていたか解らないような男に口づけされたなんて。

「リアム様や使用人に感染させないために、私はハリーの所へ行く事にしますね」
「今症状が出ていないのであれば、問題ありません」
「ハリーと会えるなら、私は感染しても構わないわ」
「伯爵家に嫁ぐというのは、仕事をする事も責任を負う事も含まれています。私達が仕事をしないと領民がどうなるか、もう少し真剣に考えてください」

 この家の人間に何を言われても、今の私には全く心に響かないのよね。ハリーが本当に病で苦しんでいたなら、私だって伯爵夫人としての務めを放棄はしないけど、そうじゃないんだから。

「じゃあ、取引きしましょう。貴方が私の願いを聞き入れてくれれば、ハリーに会いに行くのは諦めるわ」
「何でしょう?」
「伯爵邸から出ていってください。夫でもない男が邸にいるのは不快です」
「それは出来ません」
「では、私が出ていくわ。夫以外の男と一緒に住みたくないもの」

 目の前の邪魔なものは、一つずつ私から遠退ける。そうすれば、私はいつでも逃げられるわ。

 リアムの隣にいる侍女が私を睨み付けているから、わざと満面の笑顔で返した。

「私は貴女の補佐を任されているのですから、すぐに対応出来る場にいるのは当然です。それに、何かあった時、1人で対応できるのですか?」
「出来ないわ、けど、それが何か?」
「何か……って…」
「何を焦っているの?伯爵がどんな仕事をするのか全く解らない私に『代理を任せる』と、最終的に決断したのは貴方でしょう」
「だから、私が側で」
「難しく考えなくても、私の仕事を全て貴方がやればいいのよ。それなら、私と一緒にいなくても大丈夫。伯爵代理という肩書きだけは背負ってあげるから」

 これだけ性格が悪い上に、やる気のない女だと思わせれば、『仕事を任せられない』って思うよね。
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