10 / 28
目的
しおりを挟む
下唇を噛んで悔しそうな顔をしているけれど、私に何も言ってこない。
「さっきまでの勢いはどうしたの?辞める前に、言いたい事を言って良いわよ。どんな事でも、今は許すわ」
ここで『旦那様に捨てられた女のくせに』とか言ってくれたら最高なんだけどね。
私に言い返しても敵わないと思ったのか、侍女はどこかへ行ってしまった。
次にとる行動。
まぁ、リアムに泣きつくのは目に見えてるけど。
どんな結果になってもいいわ。私を伯爵家から追い出してくれるなら、これ以上ないくらい嬉しいしね。
予想していた通り、10分ほどしてリアムが部屋に来た。
「お話があります」
「どうぞ、お入り下さい。ですが、二人きりにはなりたくありませんので、私の行動を告げ口した侍女もご一緒に」
私が言わなくても、侍女は話を聞く気満々みたいだけどね。リアムが私の態度を窘めるのを嬉々として見ていたいって、表情で丸分かりだもの。
「義姉さん、ジェシカを解雇すると、本気でお考えですか?」
「さっきの私の質問に答えられないならね」
「どんな質問ですか?」
「ハリーはどこにいるの?」
「療養先は教えられません」
「それは何故?義弟は知っているのに妻の私が知らないなんて、おかしいわよね?」
「何と言われようと、教えられません」
「その答えを教えてもらえないようなら、最初にお伝えした通り、侍女は解雇します。リアム様のお答え次第ですよ」
さて、どうでるかしら。
「兄がどこにいるか、知ってどうするのですか?」
「夫婦の事です。リアム様に関係ないでしょう」
「解りました。場所はチクヤシという所です。これで解雇の件は白紙で構いませんね」
「ええ」
ハリーがどこにいようと、一ミリも興味ないですから。それに、私の目的は既に侍女の解雇じゃないもの。
「ハリーに今から会いに行くわ」
「申し訳ありませんが、兄の病は感染力が強く、許可できません」
「一昨日の時点で感染していたなら、私も隔離対象になるのではないかしら?式で誓いの口づけをしたもの」
ああ、思い出したら吐きそうだわ…。どこの女と何をしていたか解らないような男に口づけされたなんて。
「リアム様や使用人に感染させないために、私はハリーの所へ行く事にしますね」
「今症状が出ていないのであれば、問題ありません」
「ハリーと会えるなら、私は感染しても構わないわ」
「伯爵家に嫁ぐというのは、仕事をする事も責任を負う事も含まれています。私達が仕事をしないと領民がどうなるか、もう少し真剣に考えてください」
この家の人間に何を言われても、今の私には全く心に響かないのよね。ハリーが本当に病で苦しんでいたなら、私だって伯爵夫人としての務めを放棄はしないけど、そうじゃないんだから。
「じゃあ、取引きしましょう。貴方が私の願いを聞き入れてくれれば、ハリーに会いに行くのは諦めるわ」
「何でしょう?」
「伯爵邸から出ていってください。夫でもない男が邸にいるのは不快です」
「それは出来ません」
「では、私が出ていくわ。夫以外の男と一緒に住みたくないもの」
目の前の邪魔なものは、一つずつ私から遠退ける。そうすれば、私はいつでも逃げられるわ。
リアムの隣にいる侍女が私を睨み付けているから、わざと満面の笑顔で返した。
「私は貴女の補佐を任されているのですから、すぐに対応出来る場にいるのは当然です。それに、何かあった時、1人で対応できるのですか?」
「出来ないわ、けど、それが何か?」
「何か……って…」
「何を焦っているの?伯爵がどんな仕事をするのか全く解らない私に『代理を任せる』と、最終的に決断したのは貴方でしょう」
「だから、私が側で」
「難しく考えなくても、私の仕事を全て貴方がやればいいのよ。それなら、私と一緒にいなくても大丈夫。伯爵代理という肩書きだけは背負ってあげるから」
これだけ性格が悪い上に、やる気のない女だと思わせれば、『仕事を任せられない』って思うよね。
「さっきまでの勢いはどうしたの?辞める前に、言いたい事を言って良いわよ。どんな事でも、今は許すわ」
ここで『旦那様に捨てられた女のくせに』とか言ってくれたら最高なんだけどね。
私に言い返しても敵わないと思ったのか、侍女はどこかへ行ってしまった。
次にとる行動。
まぁ、リアムに泣きつくのは目に見えてるけど。
どんな結果になってもいいわ。私を伯爵家から追い出してくれるなら、これ以上ないくらい嬉しいしね。
予想していた通り、10分ほどしてリアムが部屋に来た。
「お話があります」
「どうぞ、お入り下さい。ですが、二人きりにはなりたくありませんので、私の行動を告げ口した侍女もご一緒に」
私が言わなくても、侍女は話を聞く気満々みたいだけどね。リアムが私の態度を窘めるのを嬉々として見ていたいって、表情で丸分かりだもの。
「義姉さん、ジェシカを解雇すると、本気でお考えですか?」
「さっきの私の質問に答えられないならね」
「どんな質問ですか?」
「ハリーはどこにいるの?」
「療養先は教えられません」
「それは何故?義弟は知っているのに妻の私が知らないなんて、おかしいわよね?」
「何と言われようと、教えられません」
「その答えを教えてもらえないようなら、最初にお伝えした通り、侍女は解雇します。リアム様のお答え次第ですよ」
さて、どうでるかしら。
「兄がどこにいるか、知ってどうするのですか?」
「夫婦の事です。リアム様に関係ないでしょう」
「解りました。場所はチクヤシという所です。これで解雇の件は白紙で構いませんね」
「ええ」
ハリーがどこにいようと、一ミリも興味ないですから。それに、私の目的は既に侍女の解雇じゃないもの。
「ハリーに今から会いに行くわ」
「申し訳ありませんが、兄の病は感染力が強く、許可できません」
「一昨日の時点で感染していたなら、私も隔離対象になるのではないかしら?式で誓いの口づけをしたもの」
ああ、思い出したら吐きそうだわ…。どこの女と何をしていたか解らないような男に口づけされたなんて。
「リアム様や使用人に感染させないために、私はハリーの所へ行く事にしますね」
「今症状が出ていないのであれば、問題ありません」
「ハリーと会えるなら、私は感染しても構わないわ」
「伯爵家に嫁ぐというのは、仕事をする事も責任を負う事も含まれています。私達が仕事をしないと領民がどうなるか、もう少し真剣に考えてください」
この家の人間に何を言われても、今の私には全く心に響かないのよね。ハリーが本当に病で苦しんでいたなら、私だって伯爵夫人としての務めを放棄はしないけど、そうじゃないんだから。
「じゃあ、取引きしましょう。貴方が私の願いを聞き入れてくれれば、ハリーに会いに行くのは諦めるわ」
「何でしょう?」
「伯爵邸から出ていってください。夫でもない男が邸にいるのは不快です」
「それは出来ません」
「では、私が出ていくわ。夫以外の男と一緒に住みたくないもの」
目の前の邪魔なものは、一つずつ私から遠退ける。そうすれば、私はいつでも逃げられるわ。
リアムの隣にいる侍女が私を睨み付けているから、わざと満面の笑顔で返した。
「私は貴女の補佐を任されているのですから、すぐに対応出来る場にいるのは当然です。それに、何かあった時、1人で対応できるのですか?」
「出来ないわ、けど、それが何か?」
「何か……って…」
「何を焦っているの?伯爵がどんな仕事をするのか全く解らない私に『代理を任せる』と、最終的に決断したのは貴方でしょう」
「だから、私が側で」
「難しく考えなくても、私の仕事を全て貴方がやればいいのよ。それなら、私と一緒にいなくても大丈夫。伯爵代理という肩書きだけは背負ってあげるから」
これだけ性格が悪い上に、やる気のない女だと思わせれば、『仕事を任せられない』って思うよね。
2
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる