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任命

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「ハリーは長い髪が好きだと言っていたけど、兄弟でも好みは違うのですね」
「……私と兄を同じにしないで下さい」

 凄く不機嫌になったわ。リアムも実はハリーに腹を立ててるのかもね。迷惑をかけられてるのは彼も同じだし。
『爵位を継ぐ前に出て行け』って、私だったらそう思うわ。
 皆が私の事を上手く使おうとしてるのは腹立たしいけれど、トゲトゲした対応をするのは控えよう。相手を懐柔して信用を得た方が、後々動きやすいもの。

「気を悪くしたならごめんなさい。これから気を付けます」
「別に怒ってるわけではありません。それより、急ぎましょう」

 辻馬車で邸に戻って、すぐに仕度を整えて王城へ……

 会うのは10時だったらしくて、私を見付けるのがもう少し遅かったら間に合っていなかったみたい。
 いっそのこと間に合わなければ、伯爵家に相応しくない女として追放してくれたかもしれないのに……。

「リアム様、私は陛下にお会いしても緊張してお話出来るとは思いませんので、全ておまかせ致します」
「伯爵夫人として陛下の質問に答えるだけで構いません」
「はい」

『だけ』って……、一昨日伯爵夫人になったばかりの私には、それすら荷が重いんだけど。


 衛兵が案内してくれたのは、ソファーとテーブルだけが置かれた小ぢんまりとしたお部屋。そこにお茶とお菓子が沢山用意されていた。

 謁見というから、大きな玉座に腰掛ける国王にうやうやしく頭を下げて、一方的に質問されると思っていたのに、想像していたのと違う!!

「新婚早々、呼び出して申し訳ないね。ああ、自己紹介は必要ないよ。君の事はよく知ってるから」

 何故国王が私の事をよく知ってるの?一度もお会いした事はないと思うのだけど。ハリーから何か聞いてるのかしら。

「夫と共に登城出来ず、申し訳ございません」
「いや、いいんだよ。体調不良だと聞いているから」
「陛下のお心遣い、感謝致します」

 結婚式が一昨日だったのに、もう国王がハリーの病気を知ってるなんて、根回しの早さが凄いわね。

 優しい笑顔の国王陛下の隣で、ニコニコしているのはライリー王子。

「初めましてかな、マロンちゃん」

 この王子、性格悪い……

「お初にお目にかかります。ハリー・ハンストンの妻のクレアでございます」
「マロンじゃなかったっけ?」
「殿下のお好きなようにお呼びくださいませ」

 どうせ、栗頭だからね。


「2人とも、座りなさい」
「はい」
「失礼致します」

 陛下に促されて、私とリアムはソファーに座った。

「今日は爵位の事で話をしたくてね」
「はい」
「ハンストン家は王家と深く繋がりがあるのは夫人も知ってるね」
「はい」
「伯爵が体調不良で長期間療養が必要なのであれば、正式に代理を立てなければ仕事が進まない。解るかい?」
「はい」

 もしかして、伯爵位をリアムに譲れって事になるのかも。この流れならありえるよね!

「ハンストン伯爵の代理をクレア・ハンストン、君に任命する。補佐はリアムだ」

 え……?

「……わたくしが代理ですか?」
「そうだ」
「ハンストンの血を引くのはリアム様ですから、わたくしよりも適任なのでは……」

 どう考えてもリアムでしょ。ハリーと結婚したといっても、私の出自は変わらないのよ。今まで何もしてこなかった、没落寸前の子爵家の女に何が出来るの。
 それに、領土も領民も何もかも、全てを捨てて駆け落ちした色ボケ男の為に働くなんて冗談じゃないわ!!――どうにかしないと。

「夫は重病で、私達は子を授かる見込みは薄いと言われています。夫の容態が今以上に悪化する可能性を考えると、リアム様に爵位を継いで頂いた方がこの国の未来の為だと思います」
「二人が子を授からなかった場合、リアムの子に権利はうつるね」
「夫は回復に時間を要すると思います。妻として出来るだけ夫の側にいたいのです。ですから、リアム様にお仕事を引き継いで頂けると助かります」

 私と陛下の話を聞いていたライリー王子が、笑顔で会話に入ってきた。

「陛下、提案があります」
「何だ?」
「マロンちゃんが伯爵の代理をする期限を決める…というのはどうでしょう?」
「いつまでだ?」
「リアムが結婚するまでです。マロンちゃんはどう思う?」
「妙案だと思います」
「だよね」

 リアムの年齢なら、すぐに結婚したっておかしくないわ。プロポーズして断れる家も殆どない。性格の悪い王子も役に立つじゃない!!

「殿下、その案はお断り致します」

 国王様以外はすんなり納得してくれる内容だと思ったのに、リアムが断ってしまった。

 何で納得しないの……この人。
 まさか、爵位を継ぐのが嫌なの?
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