上 下
2 / 28

伯爵家の恥

しおりを挟む
「おはようございます」
「おはようございます、リアム様」

 1人で朝食を食べられるかと思ったのに、既に義弟のリアムが席についていた。

「兄は具合が悪くて、暫く別邸に療養する事になりました。申し訳ありません」
「いえ、健康第一ですから、ゆっくりするようお伝えください」
「ええ、伝えておきます」

 女と一緒にをするのか教えてほしいものだわ。
 この弟も、兄が妻を捨てて出ていったのを知ってるはずなのに、私と一緒に朝食を食べる面の皮の厚さ。
 伯爵家の教育は凄いのね。

「クレア義姉さん」
「何でしょうか?」
「食事を終えたら視察に行きます。支度を整えてください」
「私が行くのですか?」
「伯爵が動けなければ、伯爵夫人が仕事をするのは当然でしょう。私が補佐を努めます」
「そうですね」

 貴方の兄が、何もかも捨てて女と逃げたのに、その穴を私に埋めさせるつもりなの?冗談じゃないわ。

 ――とは思うけれど、ここを去るまでは問題をおこしたくないから、今だけおとなしく言う事を聞いておこう。

 これ以降、何一つ会話はないまま食事は終了。使用人も機械のように決まった動きしかしないし、地獄のような時間だわ。


 支度をして外に出ると、既にリアムが待っていた。

「遅くなって、申し訳ありません」
「……視察に行くだけなのに、そんなに着飾る必要があるんですか?」

 そう言って、リアムが冷たい視線を浴びせてきた。

 言いたい気持ちは解るわ。私だってそう思うもの。
 派手なネックレスにイヤリング、ブローチ、指輪、つばの広い帽子に日傘。フリルやレースやリボンが沢山ついたワンピース。重くて動きにくいし、すぐに着替えたいくらいよ。
 でも、用意されていたのがこれなんだから、文句を言うなら使用人に言ってほしいわ。

「……以後、気を付けます」
「はぁ……、着替えをする時間はありません。出発します」

 兄の愚行を棚に上げて、よくも私にそんな偉そうに振る舞えるわね……。

 腹は立つけど、今は我慢。我慢よ。
 私の幸せな未来のために。

『伯爵が領民を捨てて駆け落ちした』だなんて、すごい醜聞よね。この切り札は、有効に使わないと。

 それにしても、視察ってどこに行くのかしら。馬車ではリアムも従者も喋らないし、何時間も馬車に揺られるだけっていうのも辛いのよね。

「リアム様、視察先で私は何をすればいいのですか?」
「貴女は何もしなくて結構です」
「でも、伯爵の代理でいくのですよね?」

 何も知らない状態でいいの?

「視察先では、常に私の横で笑っていてください。それ以上は貴女に期待していません」
「はい。では、全てお任せ致します」

 仕事をしなくていいなら助かるけど、言い方ってあると思うのよね。伯爵家は兄弟揃って私を馬鹿にしたいの?

 ううん、既に馬鹿にされてるのよ。けど、構わないわ。最後に笑うのが私ならね。

 落ちぶれた子爵令嬢なら、何をされても文句は言えないと思ったんだろうけど、詰めが甘いのよ。
 私は、父とメイドとの間に産まれた子。父親が邸で浮気して産まれた、望まれない子だった。
 家では虐められたりはしなかったけど、空気のように扱われてた。
 私を産んだ後、母は邸を追い出されて死んだ。私を守ってくれる人なんていない。私が守りたい人もいない。
 大切なものを持たない人間《わたし》は強いのだと、思い知ればいいのよ。

 リアムは共犯か被害者なのかは知らないけど、伯爵家がどうなろうが私には関係ないわ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

仲良しな天然双子は、王族に転生しても仲良しで最強です♪

桐生桜月姫
ファンタジー
 愛良と晶は仲良しで有名な双子だった。  いつも一緒で、いつも同じ行動をしていた。  好き好みもとても似ていて、常に仲良しだった。  そして、一緒に事故で亡くなった。  そんな2人は転生して目が覚めても、またしても双子でしかも王族だった!?  アイリスとアキレスそれが転生後の双子の名前だ。  相変わらずそっくりで仲良しなハイエルフと人間族とのハーフの双子は異世界知識を使って楽しくチートする!! 「わたしたち、」「ぼくたち、」 「「転生しても〜超仲良し!!」」  最強な天然双子は今日もとっても仲良しです!!

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

処理中です...