いきなり結婚しろと言われても、相手は7才の王子だなんて冗談はよしてください

シンさん

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影ですから

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…少し休もうかな。
いくら何でも、私だけで探すのは無理だわ。けど、他の人に頼んでアイクの寿命が縮んだりしたら困るし。

…あれ?あの後ろ姿は。

「ノートン?貴方こんな所で何をしているの?アイクの護衛なのよね。お昼寝してるののに放ってきたの?……。」

ノートンの隣にいる人を見て、声をかけて後悔した。

「ドロシーっ!?」

あの時の、突然プロポーズしてきた男だよね…。

「ご免なさい。私はやる事があるので…」
「ちょっと待ってくれっ!!俺はアイ…」
「アイ?」

…ちょっと待つんだ俺。ドロシーと会える偶然なんて殆んどない。ドロシーに俺がアイザックだと思わせなければ、男としてあえるんじゃないか?

「ドロシー、俺はアンドリュー。アイザック王太子の影で、今はアイザックとしてノートンとここにいる。あまりにも街に顔を出さないのは不自然だからね。」
「影…って事は、大人のアイクはこんな出で立ちなの?」

…そういえば、姿絵はこんな感じだったわ。

「ああ、殿下の事は聞いてるよ。俺に何か出来る事があれば言ってくれ。」
「ありがとうございます。では1ついいですか?」
「なんなりと。」
「アイザック王太子様の好きな女性をご存知ないですか?」
「……好きな女性…ですか。」
「はい。」
「ドロシーなのでは?」
「それは7才のアイクで、好きというよりも母親に甘えたい子供が「好き」って言ってるようなものですから。」
「…そんな事はないと思いますが。」
「やっぱり知らないですよね…。では、アイクがどんなところへよく行ってたのか、その場所は?誰に聞いても知らないって。貴族は話もしてもらえない人が殆んどだし…。」
「それはどんな貴族かな?」
「え?」
「教えてもらえればダージリンにも伝えられるからね。」
「…いえ、それは。大事にしたくないので。」
「そうか。」

俺のドロシーを無視するなんて、絶対に許さん…。



「貴方も城にお住まいなんですか?」
「ああ。もちろん。」

…本当かなぁ。今まであった事がないし、大人のアイクとそっくりな人がいたなら、陛下は1度参考に見せてくれてると思うんだよね。って事は、城には住んでない気がするんだけど…。でも、ノートンが側にいるって事は本当だよね。

「ドロシーはどんな食べ物が好きなんだ?」
「え、チョコです。」
「俺もだ。一緒だな。」
このやりとり、どこかで…。
「ドロシー、アンドリューは好みもアイクに似せてるんだ。」
「なるほど。言う事がチグハグだと疑われるよね。」


ノートンめ、何故俺の好みを伝えるのを邪魔するんだ。親密になるには趣味嗜好を知るのが第一歩だろ。そして、2人の会話に入ってくるな…。

「ドロシーはアイクとは一緒に寝てるのか?」
「今日から一緒に寝る事になりました。」
「そうか。」
「それがどうかしましたか?」
「いや!別に何でもない!!」

7才の俺はなんてスムーズにドロシーの心を掴んでいるんだ!
「『おやすみのチュー』とやらも、毎日するのか?」
「っこれは7才のアイクだからです。20才のアイクとして考えないでくださいね!」
「ああ…」
7才の俺…。なんて奴だ…。俺のドロシーに簡単に口付けするなんて。


チョコレートのくだりから、『こいつの思考回路は7才と同レベルだな…。』と、ノートンは思った。


城門には門番がいる。アンドリューは眼鏡とウィッグを着けた。きっと、影の存在はかくしてるんだよね。

「ドロシー、また街に行く時は一緒に行こう。俺がいた方が何かと便利だぞ。殿下と同じ顔だからな。」
アイザックにそっくりな人が隣にいるのに、『アイザック様の仲のいい人は誰か知りませんか?』って聞くのもおかしな話だと思うんだけど…。
「あの、私は1人で」
「じゃあ、また明日。」
「っあの!!」
返事をする前に行ってしまったわ。城のどこにいるのかも知らないし、誘わなくてもいいよね。

「ノートン、私は夕飯までの間、靴を作ってくるわ。貴方はアイクのところへ行って。」

「ああ、気を付けろよ。」
「ええ。」

靴を作る作業部屋。色んな革や糸、道具を用意して貰ってるけど…、作業が進まないんじゃ意味がないよね…。
焦れば焦るほど上手くいかないよ…。


「ノートン、父上のところへ行くぞ。」
「何を言ってるんだ、まだ大人になりきれていないのに…。」
「『ドロシーと結婚する』と、それを伝えるのと、これから城での俺への対応を指示するよう願い出る。俺がアイザックだとドロシーに気がつかれなければ問題はない。」
「いや、大有りだろ。」
「とりあえず行くぞ。」

コンコン
「アイザックです。」
返事はないが、驚いた顔で父上がドアをあけた。

「元に戻ったのか…」
「はい。中でお話を聞いて頂けますか?」
「ああ。ノートンお前も入りなさい。」
「はい、失礼いたします。」

父上と俺はソファーに向かい合わせに座り、ドアの横にはノートンがたっている。

「何故あんな靴を履いた?」

父上が厳しい顔をしている。公務も何もかも子供になっていた間はできなかったし、嬉しいよりも先にくる感情があるらしい。
それに、おそらくドロシーの事だ。無理に連れてきたんだろう。

「完全に戻った訳ではありません。」
「…どういう事だ?」
「ドロシーの前でだけは子供に戻ります。そしてその時の記憶はありません。」
「何を言ってるんだ。ドロシーのおかげで戻ったんじゃないのか?」
「わかりません。戻してはくれているのだと思いますが、彼女の前でだけは戻りません。」

『子供になったのを元に戻してくれ…。』
それは出来ているが、完全じゃない。

「俺はドロシーと結婚したいと思っています。」
「…は?馬鹿なのか、お前は。」

今まで俺が聞いたこともない、国王とは思えない反応が返って来た。父上も人間だったのか。

「7才の俺がドロシーを溺愛しているなら、20才の俺が彼女を好きになってもおかしくはないでしょう。」

父上の顔が青い。

「…そういう事ではないんだ。7才になったから彼女が何とかしに来てくれた。なのに、彼女の前では戻りませんでした…なんて、言えるわけ無いだろう。あんなに一生懸命、寝る間も惜しんで靴を作ってくれているのに。」
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