上 下
44 / 187

王子様とクール様2

しおりを挟む
「はじめまして。私はラドクリフ伯爵夫人の侍女、ニナ・スミスと申します。」

エドワードの隣にいるのだから、私はシンプルに挨拶するだけでいいよね。

「ほう、侍女が何故ここへ?しかも殿下と一緒に。」

こんな事を聞いてくる人がいるなんて…。またシャロンのような女を連れてるんだろうって馬鹿にしてるのまるわかりじゃない。

「それは殿下に聞いてくださいませ。」

こういう人って面倒なのよね。エドワードが答えればいいのよ。

「夫人の侍女はカタサ語の通訳をした事があると聞いてね。話せる人の少ない言語でもある。カタサから来てくれている客人に不快な思いをさせるのは失礼だと考えたのですが…。そうですね、侯爵が話してくれるのであれば、彼女を今すぐに退場させても構いませんよ。」

「…そうでしたか。さすがエドワード殿下。」

…何故かしら。エドワードの表情にリード公爵と似たものを感じたわ。

いつもこんな感じの人なの…?シャロンへ向けられる笑顔が本物で、今のは仕事用、胡散臭いのは私用なのかしら…。


エドワードの挨拶する人に、私の知りる人は含まれていなかったわ。
それっぽい人も見当たらないのよね。
もしかして騙された…?
「後1人、誰だか気になる?」
「ええ、私の知り合いが本当にいるのか、
確認しておりましたの。クール様以外に見知った方はいませんわ。」

「ニナ、君は気がついていないようだけど、  2回あったくらいの侍女が『クール様』と呼ぶと思う?」

「…そう呼んでくれ…と仰ったので。」

無意識で呼んでた。エドワードが『クールが来た』って呼んでたのにも引っ張られてる。油断してた。

「殿下、これは舞踏会です。どなたかと踊って来て下さい。待ってる女性が沢山いらっしゃいますよ。私は壁際にいますので。」

「はぁ…面倒だけど仕方ない…。」

「いってらっしゃいませ。」

…最悪だわ。クール様が来た事もそうだけど、仲の良さを見たかったのよ…。迷いもなくファーストネームで呼ぶ所を…。

「ニナ、大丈夫か?」
気が付けば隣にはクール様がいた。
「今からはシロブ語で話すんだ。ここに話せる奴はほぼいない。」
シロブ、私達の国で使われる言語の1つ。

「わかったわ。」
「で、どうだ。」

「最悪よ…私が来るのを知ったら、クール様は来ると確信してた。それに私達が幼馴染みだ…と言ってきたわ。」

「で、何て答えたんだ?」

「もちろん否定したわ…。けれど慣れって怖いものね。数回あっただけの侍女が『クール様』と呼ぶほどの関係なのか…って。」

「なるほど、殿下も本気で向かってくる気になった…って事か。」

「どういう事?」

「今は心理的にニナを弱らせて追い詰めよう…って作戦だな。今まで何も仕掛けて来なかったのが不思議なくらいだ。」

「嫌な人。優しいって噂は嘘なのね。」

「基本的に優しい。だが仕事は別物だ。」

仕事扱い…

「ニナがニーナでないと判断した時だけだ。殿下が引く時は。」

「でもそれってチャンスでもあるよね?」

「簡単に勝てる相手ならな。」

そういえばステーシーも言ってたよね。仕事が出来る男だった。って。

「どんな人だとしても、私は逃げ切るわ。
結婚したら別居する計画も進めるつもりよ!……捕まって監禁される可能性ってあるかな?」

「…無いと思うぞ」

「思うなんだ…」

「ずっと一緒にはいてやれないが、困った事があれば言いに来るんだぞ。それから、知らない人にはついていかないように。ドレスを着てるは妹だからな。」

「うん。」

今だけ…



クール様も行っちゃったし、どうしようかしら。

私が話相手をするまでもなく、出席者は通訳を連れてきてるし…。
私、やる事ないよね?エドワードが私を探る為だけにここに呼んでるんだから…。

まわりは私を見ると、コソコソと何か話してるのよね。明日になれば凄い噂になってるわね。これは…。尾ひれがついて『シャロンの後がまが現れた!』…みたいな面倒な噂よ。
これで伯爵に迷惑がかかる事になれば、そく教育係をやめなきゃ駄目じゃないの…。

はぁ…私が知ってる誰かって一体誰なのかしら。
私が知ってるんじゃなくて、相手が知ってるだけなのかも…。

う~ん。

今日はクリフも近づいて来ないし、逆に怖いわ…。

「お嬢さん、いっしょに踊って頂けませんか?」

ヒョロっとした男性が私に声をかけてきた。

「…ごめんなさい。先ほど転んで…足を痛めてしまったの。」

『次は自分が…』という人が何人も見えるからわざと大きな声でいうのがポイントよ。
1人踊ってしまえば次々と押し寄せてくるもの。
エドワードの特別な人ではないけれど、近付いておくのは悪くない…ってね。

ところで、私を連れてきた男は何をしているのかしら…。ぐるっと見渡したけど……いないわ。
どういう事?途中退場とかじゃないよね。シャロンが来たとか?

声もかけずにいなくなるって、有り得ないよね!…さすが、2ヶ月も私を放置していた男!マナーの悪さも超一流じゃない!
…帰ろう。って、私個人の問題ならそうするけど…。ラドクリフ伯爵夫人の侍女という肩書きが…重い…。

「はぁ…」
私はなんの為に……って見つけたわっっ!私の知ってる人。クール様の側にいる眼鏡の人。地質学者の人よ…。何度か家に来ていたのを憶えているわ。

あの人って有名人なの?
クール様も流石にあの人は知らないよね。仕事じゃなくて、お父様のお知り合いだもの。

これはピンチだわ…。
何故あの人が招待されているの…?
何でもいい、向こうが気が付かないうちに逃げなきゃ…
見つかったら監禁が待ってるわ…クール様でさえ『そんな事はない』って断言出来なかったのよ。結婚させられて自由がないなんて嫌よ!

少し離れようとした時、誰かが私の腕を掴んだ。
っ誰よ!邪魔しないでっ!

「…何かご用ですか?」

腕を掴んだのは、でっぷり肥えたおじさん。

「ああ、エドワード殿下とどのような関係なのか教えてほしくてね。」

「…申し訳ございませんが、名乗る事もなく質問するなど、失礼ではありませんか?」

やっぱり来たわね。この手の下衆な男。言いたい事はだいたい解るけれど、ラドクリフ様の評価にも繋がるし、さっさと逃げよう。

「生憎、侍女に名乗るような名は持ち合わせていないのでね。」

「ふふふ、そうですか。私も特に貴方を知りたいとは思いません。では、失礼致します。」

今は一刻を争うわ!
誰にも見つからないように!!クール様が1人になるのをまって、相談しよう!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

奪われる人生とはお別れします ~婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました~

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ◯完結まで毎週金曜日更新します ※他サイト様でも連載中です。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 本当にありがとうございます!

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

処理中です...