上 下
43 / 187

王子様とクール様

しおりを挟む
ついに舞踏会の日。

これ…ものすごく高級なドレスだよね…。
着てるだけでも恐ろしいわ。破れたりしたら弁償って事にならないわよね?

「ニナ様、支度が整いましたので、こちらでエドワード殿下をお待ち下さい。」
そう言って、ささっと皆下がってしまった。


コンコン
「エドワードだ。開けても構わないか?」
「はい…どうぞ。」

一応ドレスを借りるんだからお礼を言わなきゃ駄目よね。

「素敵なドレスをご用意下さり、ありがとうございます。」
「よく似合っているね」
「ふふ、ありがとうございます。」

絶対思ってないよね。この胡散臭い笑顔!

私の正体を知りたいんでしょうけど、
絶対最後までニナ・スミスでやり過ごしてみせるわ!

「では、行こうか。」

「え…一緒に会場に行くんですか?」

「その為に迎えに来たんだが、何か問題でも?」
「いいえ。」

問題ありすぎよっ。私は目立ちたくないの!
…そんな事、王子相手に言えないよね。


私達が一緒に会場に入ると、皆の会話が1度止まった。
シャロンをつれてくるのを期待してた人もきっといるよね。噂の恋人を。
他の女性を連れてくるにしても、侍女を連れてくるなんて…。下手したら恋人疑惑が浮上するよね。それだけは絶対嫌よ。

それにしても、私が知っている人って誰なの?今が出席者を確認する最高の機会だわ。
くるりと見渡すと本当にクール様がいた。

クール様…ものすごく顔がひきつってる…。

「あまり余所見はよくないよ。ニーナ。」
「…私はニナだと何度申し上げれば信じて頂けるのですか。」
「さあ。」
この余裕の笑み…本当に気付かれてる?
大丈夫だよね。ここに私の家族でもいないかぎり……いないよね…?

「君は…踊れる?」
「え…?」
ここで踊れないって言ってもいいのかしら。侍女ってダンスくらい出来るものなの?教育係は?…出来ると言った方が無難だよね。
「…一応は」
「そう、よかった。では一曲お相手願えますか?」
「ええ、よろこんで…」
笑顔よ!例え侍女でもラドクリフ伯爵の名を背負ってるんだから!

踊れるけど…中央で私達が踊るのを披露する…なんて、聞いてないわよ。

踊り始めて暫くして耳元でボソッと呟かれた。

「やっぱり来たね」
「やっぱり?」
「クールだよ。」
「…っ!?」
「『ニナ』が出席するって聞いたら、絶対来ると思ったよ。」
…どういう事?
「クール様がいらっしゃるのですか?」
「ああ、こちらからは招待状は出していないけど、やっぱり彼なら簡単だったみたいだね。ここに来るくらい。」
「そんな事が出来る人だなんて凄いですわね。」
「彼が君の知る人の1人だよ。」
「ええ…伯爵の家で2度ほど顔をあわせましたから。」
「ニーナ・サナス、君の幼馴染み。だよね。」
「私はニナ・スミスです。」

…最初から『知ってる人』にクール様が含まれていた。こんなの予想してなかったわ…。

ステーシーはクール様と仲が良いから予想は出来る。けどこの人は違う。クール様の性格を把握して行動を予想してた…?

でも、『伯爵の侍女がいるから来るだろう』なんて想像、普通しないよね?という事は、クール様は別の誰かに会いに来ている…。それがニーナで、行方不明の事も全部知ってるだろう…って予想した事になるよね。

ううん、きっと嘘よ。偶然来たのを見つけて、上手く言ってるだけよ…。



「…殿下はどうしてニーナ様を探してるのでしょうか。」
「この前君に言われた通りだからだよ。」
「…婚約者と妹ですか?」
「そう、婚約者の方のね。俺に妹はいないから。」
まさか、本当の事を言ってくるなんて!本当に私がただのニナだったらどうするつもり。もしかして妹という存在を否定する為かしら…。

「侍女の私が婚約者だなんて。面白い事をおっしゃるのですね。」
私が言うと、胡散臭い笑顔で返してきた。
何で急に強気で攻めてくるの?この前までと別人じゃない。

「ダンスが終わったら、招待客に挨拶に行く。君も付いてきて。」

「はい。ご一緒いたします。」

一人一人に顔を見せるつもりね。必ず名前を名乗らないといけないもの。
私を知っている人に嘘はつけない。それが普通だよね。けど私はニナ・スミスを貫き通すわ。

……一体誰に合わせるつもりなのかしら。


とても不思議なのは、ここまで考える人が、私を放置していたら大変な問題になると何故思わなかったの?

それに何故シャロンみたいな人と付き合おうと思ったのかしら…。

言い方はよくないかもしれないけど、あのひとは我が儘を聞いてくれるお金持ちなら誰でもいいんだと思うのよね。
でなければ、招待されてないパーティーに着飾ってくる必要は無いもの。王子が自分に興味を持たなくなった時の為に、誰か探したかったはずよ。
もしかして、あまり上手くいってないのかしら、この2人。

それは駄目よっ!!
子を産んでもらうまでは別れないで…!王妃として頑張ってください!貴女の思うままにしてください。

シャロンじゃなくてもいいの。エドワードが誰かを好きになって、『ニーナなんていらない』って思ってくれればいいのよ。

この際世継ぎとまでは言わないわ。
エドワードが『好きな女性と結婚したいから、王位は誰かに譲ります!』って言うくらい好きな人をつくって貰えば、めでたく婚約解消!
私はこの国で楽しく暮らせるんだよね。

そうよ…。人を放置するような人だもの、
責任感もなく投げ出すかもしれない。

…けれど、私の存在意義によって話は変わって来るよね。
私の国でもそれがわからない…と言ってるなら、クール様からも情報は入らない。

「…ナ、ニナ」

「…っはい。何でしょうか?」

「君は考え事をしながらでも踊れるほど慣れてるんだね。」

「…え?」

「何度か話しかけたけど、気がつかなかったみたいだから。」

「申し訳ございません!曲に合わせるのが
精一杯でしたので、気がつきませんでした。」

本当に…全然気づかなかったわ…。



ダンスも終って、私達は何人かに挨拶に行く。

絶対、誰がなんと言おうとしらばっくれる!

私は『ニナ・スミス』よ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

奪われる人生とはお別れします ~婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました~

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ◯完結まで毎週金曜日更新します ※他サイト様でも連載中です。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 本当にありがとうございます!

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

処理中です...