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人気者の婚約者
しおりを挟む今日は初めておつかいよ!
今までは頼む事はあっても、頼まれる事はなかったから新鮮だわ。
買う物って言っても、マール君が使う
筆記用具だけ。急ぎじゃないから、市にも行ってみようと思う!また美味しそうな食べ物があるかもしれないしねっ!
「あ!」
ベイが売ってる。やっぱり皆立って食べているわ。のっている野菜やソースは、前に食べた物と少し違うよね。
これは食べてみないと!
「1つ下さい…」
まだ1人だと緊張する…
「はいよ!姉ちゃん落とすなよ!…ん?どうした?」
「…ねぇ、おじさん、市っていうのは結構こういう事が起こるものなのかしら…?」
斜め前のお店で、男の子と女の子が店主に
30ニードルを払おうとしているけど、どう計算しても値段があわないのよね。
「あ~、またか」
「また?」
「あの店主、あの子らがくると値段つり上げるんだよ。皆知ってるけど、近所でいさかい起こしたくねぇし、何も言えねぇからな。」
「…なら私は近所の人ではないからちょっと言ってくるわ!」
見て見ぬふりなんて、許せない!
「君達っ!まだお金を払わないで!!あなた、子供相手に嘘をつくのは止めなさい。値段がちがうじゃない。」
「なんだアンタは、俺が嘘ついてるなんて証拠はあるのか」
証拠…って、この人は馬鹿なのかしら。堂々と値段が書いてあるのに…。
「1つ1.2ニードルを18個で、21.6ニードルじゃない。30ニードルという数値は何処から出てきたのかしら。」
「…っそんな計算、でたらめだ!」
「あなたお金を扱う仕事をしていながら、計算も出来ないの?」
「うるせぇ!値上げだ値上げっ!!」
「そう、値上げね。3件向こうも同じ物を置いていた気がしたわ。同じ値段で。こちらは値上げをしたのであれば向こうで買いましょう。皆さん、今日から値上げですって、3件隣で買った方がお得ですよ。」
私が言ったのを聞いた3件となりのテントのおじさんが大声で叫びだした。
「うちは値上げはないよー!今も1.2ニードル!!買うならうちでヨロシクなぁ!」
「さあ、君達も、これからは向こうで買いましょう。この悪徳店主に騙されてしまうもの。」
「おいっ!まちやがれっ!」
3件隣に行こうとする私達に、店主が大きな声で怒鳴ってきた。
「値上げは簡単にするものではないわね。貴方のお店では2度とその商品は売れないのではないかしら。値下げでもしない限り。買う時になって値段が上がるようなお店で商品を買う人などいるかはわからないけどね。」
2人はきっちり21.6ニードル払ってから、私のもとへ走ってきた。
「ありがとうございます。」
「いいえ、お役立ててよかったわ。けれど、言われた通りにお金を払ってはダメよ。ある程度計算しないと、さっきのように騙されてしまうわ。」
「…あんな難しい計算なんて出来ないんだ。あんたには解らねぇかもしんねぇけどな。」
「それは…」
「私達は孤児だから、そんなの教えて貰える人なんていないの。字も書けない子だっているくらい。お姉さんみたいな綺麗な服を着れる事もないしね…。さっきはありがとう。失礼します。」
「…………」
よく見れば2人ともよれよれの服を着ている。
私は高い服を着ているわけでもない。伯爵が用意するのを断って、自分のお金を切り崩して買ったもの。
「2人も、ちょっと待って!」
「何だよ」
「その孤児院は、誰か出資者はいるの?」
「出資…って?」
「その果物を買ったりするお金はどこから出ているかわかる?」
「ラドクリフ伯爵って聞いたことがあります。」
伯爵……
「今は何人くらいいるの?」
「15人」
「そっか……わかった。気を付けて帰ってね。」
…おかしいわ。個人ではなく伯爵が管理してるなら、人数が多い孤児院だって新しい服が1枚も買えないほどにはならないはずよ。
…何度も繕って生地もよれよれだったわ。
もちろん贅沢ができる環境ではないのはわかるけど…何か怪しいよね。
失礼だけど伯爵に聞いてみよう。
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